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141話 傷心の玉枝

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 玉枝は九郎を抱きしめたまま、祈るように動かない。燐火の原野は消え、元のクラブ棟の外に戻っている。
 窓から状況を見ていた陰陽師の1人が言う。
 「あの怨霊は何なんだ。」「彼女は、使役されている霊です。」
水鏡が嘘をつく。しかし、陰陽師たちは納得いかない。
 「主人は呪いに飲まれて倒れている。そんな奴が、あの霊の主人であるはずがあるわけがない。」「今はこの場を離れましょう。」
水鏡はごまかす。
 炎の巨大な渦を見たあやめとつよし、美琴はクラブ棟へと向かう。あやめは嫌な予感がする。
 彼女は炎の巨大な渦を作ったのは玉枝だと確信している。玉枝が大きな力を使ったのは、九郎に危険があったに違いない。
 彼女の足が速くなる。
 クラブ棟の中では多くの人が倒れている。パニックから解放された人たちが消防署へ119番する。
 あやめたちはクラブ棟に到着すると玉枝が九郎を抱きかかえている。九郎はピクリとも動かない。あやめには受け入れがたい光景である。
 彼女は玉枝に叱責するように言う。
 「あなたがついていて何でこうなるの。」「・・・」
玉枝は答えずじっとしている。あやめは頭に血が上る。
 「何か言いなさいよ。あんた力があるんだから何とかしなさいよ。」「あやめ、言い過ぎよ。」
美琴が止めに入る。つよしが玉枝に聞く。
 「九郎は生きていますよね。」「・・・はい。」
玉枝は力なく答える。あやめは玉枝から九郎を奪い取ろうとして九郎と一緒に地面に倒れ込む。
 慌ててつよしと美琴が駆け寄る。玉枝は手を伸ばすが前に進めない。九郎は地面に倒れたショックで気がつく。
 「う~っ。」「九郎、大丈夫。」
 「玉枝さんは?」「あの人より、九郎のことが心配よ。」
あやめは九郎に抱き着いて言う。
 「僕、玉枝さんに謝らなきゃ。」「何言っているの。守ってくれなかったんだよ。」
 「違うよ。僕が飛び出して呪いに飲まれたんだ。玉枝さんは悪くないよ。」「・・・」
九郎はあやめを押しのけて玉枝の手を取る。
 「玉枝さん、ごめん。体が勝手に動いてしまったんだ。」「ご、ごめんなさい。九郎ちゃんを守れなかったわ。」
 「僕はいつも守られているよ。一緒にいてくれてありがとう。」「うん。」
あやめは嫌な気持ちがあふれてくることを感じる。つよしが九郎に言う。
 「九郎、お姉さんを口説いてどうするんだよ。」「僕は正直な気持ちを言っただけだよ。」
 「お前たち仲がいいんだな。」
つよしがぼやく。美琴はあやめの顔色が変わるのに気づく。
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