エンドロールに誰を流そう

大野

文字の大きさ
2 / 32
どんな人間か

僕はそんな人間じゃない

しおりを挟む
私は彼の手を引き、弾んだ足取りでひまわり畑へ向かう。

-ねえ、何も見えないよ。僕をどこに連れて行く気?

そうね、今日は少し遠いみたい。
でも安心して。不意に現れるの。
私、その瞬間が1番好きなの。

非現実的だけれど、違和感は覚えないはずよ。
うーん、この辺かしら。

さあ、 目を閉じて。
ゆっくりと、 一息つくの。
そのあと、3秒数えて目を開けてみて?
さあ、 ゆっくりと、ね。

彼が目を閉じるのを確認してから
私も目を閉じる。
深呼吸をして、

いち   に   さん。

次に見るのはひまわり畑。
目前に広がる上を向いたひまわり。
風がそよぐと微かに揺れ、全身で空を感じているのがよく分かる。
ひまわりの他にはなにもない。
踏み荒らされた足跡も、潰された花草も。
ただただ、地平線までひまわりが広がっている。


ね?綺麗でしょう?

-えっ、ああ、うん、、、
お、驚いたな、こんな、こんな綺麗な世界があるんだね、、、、、

そういって彼は涙を流す。


見つけた。あなたの宝石。
でも少し変。いつも宝石はキラキラと輝いていて、太陽に慣れた後でも少し眩しいと思うのに。
あなたの宝石は鈍い光なのね。

-宝石ってなんのこと?

彼は私が横にいることに今気がついたかのように取り繕い、涙を拭こうとする。

ああ、待って。拭わないで。
その宝石はね、長くは持たないの。
だから、自分から捨ててしまわないで。
さっきは鈍い光だなんて言ったけれど
少し言い方を間違えてしまったわ。
こんな宝石は初めてよ。
綺麗だわ。

-君の言う宝石は、涙のことだったんだね。
涙なんて、宝石と呼ぶに値しないよ。
特に僕の涙はね。


いいえ、涙に限ったことではないわ。
ある子は、髪だった。ある子は、肌。ある子は唇。ある子は…、ある人は、言葉。
私が見つけた宝石を、宝石と呼ぶに値しないだなんて、ひどいことを言うのね。

-僕はそんな綺麗な人間じゃない。ごめんね。

どうしてそう思うの?

-君みたいに、キラキラと輝いて、太陽やひまわりがよく似合う子には分からないよ。



ここで私は思わず笑ってしまう。
あまりに可笑しなことを言うものだから。

-どうして笑うの?

ごめんなさい、怒らないで。
私を見ているようで、もしかしたら、他人にとっても私ってこう見えているのかしら、と思ったのよ。

-僕と君が似ていると言いたいの?
君は綺麗だ。真っ黒な髪と瞳、白いワンピースもよく似合っている。社交的で、こんな僕に話しかけてくれた。でも僕は違う。僕は君みたいに綺麗な容姿とは言い難い。それに、まだ疑っているよ。君は一体何者なのかとね。

あっはは、おっかしい。
言いたいことはたくさんあるけれど、ここで言うのはナンセンスな気がするわ。
なんとなく、いいえ、とても、癪に触るもの。
それに、きっともうすぐ時間だわ。
だから、1つだけ教えてあげるわ。
あなたは綺麗だわ。その、ぼさぼさの髪を整えてみなさいよ。
そこから始めてみればいいんじゃない?
今日はお喋りばかりだったわね。
また、会えるといいわね。
それじゃあ、またね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...