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第四話「二人共、ありがとうですの」
しおりを挟むわたくしがエドガー様の唇というか、ご歯列とわたくしの歯列を激突させて歯ぐきから血を流した直後。
「ぶふぅっ!!!」
背後からお下痢便をぶちまけるようなこ汚い噴出音がしましたの。
それを聞いた途端、わたくしの沸騰していた頭が、しゅーっと音を立てて冷めていきましたの。
「バルトあなた何をなさってますの?」
「れ、レオナ様に、っく、ご、ご、っぐ、っくっふwwwおぼぉっ!?」
っひ、っひ、っふー!と、ラマーズ法呼吸を繰り返しながら言葉にならない単語を羅列するバルト。
その鳩尾にわたくし拳をいれてさしあげました。
すると、バルトは床に歯列をあてにいきました。
良い音がなりましたわ。歯がかけないと良いですね。
「はぁ、エトワール様、頭は冷えまして?」
わたくしにお声をかけてくださったのは、お友達のレオナ嬢ですの。
バルシュタイン領の近くに領地をいただく、トゥメイトゥ伯爵家のご令嬢ですの。
「ええ、殿下、皆さま、お見苦しい真似をしてしまい、申し訳ありません」
わたくしはエドガー様に頭を下げた後、野次馬、いえ、ご観衆の方々に頭を下げましたの。
すると、エドガー様は口元に片手をやりながら空いた手を振って、おっしゃいました。
「い、いいや、悪いのは俺なんだ。本当にすまなかった。どうか気にしないでくれ、この場の皆とこの件は私が悪いのだと、報せてくれ、あと、歯列合わせのことは………まあ、人の口に戸は立てらないな。皆の食事の時間を邪魔してしまった詫びに、皆に菓子を送る。それで、今回のことは許してほしい」
わーい、と観衆の皆さまが歓声をお上げになりました。
別に皆さまお子様ではないし、それほど嬉しいわけではないのです。
空気をよくするためにやってくれているのですわ。
「エトワール様、大丈夫ですか?」
群衆の皆さまがわたくしたちに背を向け、解散していくのとは反対にわたくしに近づき、心配そうにお声をかけてくれたのは、ハーティア嬢ですの。
ハーティア嬢は、貴族ではありませんの。
ノエルアラ王国でもかなりやり手の大商人のご令嬢ですの。
「ハーティア嬢、大丈夫ですのよ」
「………いえ、お言葉ですが、とても大丈夫そうには………血が出ています」
「え!?」
ハーティア嬢はハンカチーフを従者のエバンナから受け取ると、私の口元にあててくださいました。
「ありがとうございます。ハーティア嬢、助かりましたわ」
「……ううん。いいのよ、エル。あ、いえ! エトワール様」
ハーティア嬢は、私の幼馴染でもありますの。領地でいろいろ一緒に遊んだり、仕事を手伝ってもらったり、私たち、親友ですの。
「エルとお呼びになっていいんですのよ。ティア」
「………ううっ……」
私がティアに感謝の言葉をおくると、ティアはその目にみるみる涙を張って、ぽろぽろほっぺたに涙を流しはじめましたの。
「ど、どうしたんですの? ティア」
「だ、だって、だって、殿下ひどいよ。あんまりだよ。だって、だってエルはすごくいい子なのに、とっても優しくて、頑張り屋で、思いやりのある良い子なのに、なのに、そんなエルを振っちゃうなんて、あんまりだよ」
「ティア………」
わたくしのために涙を流してくれるティアに、わたくしも思わず涙をこぼしてしまいましたの。
「ティア、泣かないでくださいまし、貴方がないていると、わたくしも泣いてしまいますわ」
「うう、ごめんねぇ………」
二人でぐずぐずと鼻をすすっていると、レオナ嬢が黙って私たちの背中に手をあてて抱き寄せてくださいましたの。
その手はとてもあたたかいというには熱く、言葉にしなくてもレオナ嬢の心情が伝わってきました。
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