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第13話 コスモス堂
しおりを挟む駅前の商店街の大通りから少し外れた、さびれた路地にその店はあった。
年季の入った建物だ。重厚な木製の扉を真ん中に、ステンドグラスの窓が両サイドに嵌められている。扉の上に掲げられたクリーム色の古ぼけた看板には、こう記されていた。
「――『コスモス堂』……?」
書かれた文字を読んで、星那は首をかしげる。
山田に案内されて辿り着いたのは、目の前のコスモス堂という建物。レトロな喫茶店のような佇まいで、とてもプラネタリウムを見るような場所とは思えない。
「えっと。ここって……?プラネタリウムを見に来たんだよね?」
「うん。ここがそうだよ」
山田が頷いた。どうやら目的の場所はここで合っているらしい。
「待て待て待て待て」
さっそく中へ入ろうとする山田の肩を、颯兎はがしっ、と焦った様子で掴んだ。
「お前ふざけんな。なんっっでよりにもよってココなんだよ……!!」
「君もよく知る店だろ。変なところじゃない」
「変なとこじゃなくても星那を連れてくるような場所じゃねーんだよ!!」
馬鹿か!と颯兎は山田を罵る。山田のほうが歳上なのだが、そんなのはおかまいなしだ。山田は面倒くさそうに肩を竦めて、自身の肩を掴む颯兎の手を振り払う。
そして颯兎の耳元に顔を近づけ、声をひそめた。
「……わかってないな、ハヤト。星那に信じてもらうためだ。――見せるのが一番早い、そうは思わないか?」
「なっ」
颯兎は目を見開き、キッと山田を睨む。
「……ざけんな。星那は行かせない」
「それは星那が決めることだよ。――俺は俺の話が本当であることを星那に信じて欲しい。その為にここに連れて来た。君は"星の乙女"が何なのかよく分かってる、だから星那に異星人であることを打ち明けたんだろう?けど、彼女は信じていない」
淡々とした口調で、山田が言った。
「彼女が己の事情を正しく把握しなければ……空想じゃないという事実を知ってもらうことが、まず必要だ」
「……え、なに?なんの話?さっきから二人とも何言ってるの……?」
二人のやりとりに、星那が困惑した表情を浮かべる。ひそひそとした会話は、意味不明でところどころしか聞き取れなかった。
一体なんの話をしているのか?と眉を寄せたところで、山田はくるりと振り返って、星那へにこやかな笑みを向けた。
「待たせてごめんね、星那。さあ、案内するよ」
「ッ、待てよ!こんな、こんな騙し討ちみえぇなことしてここまで連れてきて……!本当はどさくさに紛れて星那を拐うつもりなんじゃ……!!」
「しつこいね。……いいかいハヤト。利害は一致しているはずだ。俺は星那に一切危害を加えることは無いと約束するし、君にも危害は加えない。出来ることなら彼女が納得した上で、俺の星に来て欲しいからだ。君が星那を守ろうとするのは勝手だが、……解ってるだろう。いずれ"星の乙女"が彼女だということは明らかにしなければならない。――彼女を無知のまま危険にさらすのが望みなら、店へ入るのを無理やりにでも止めるといい」
「ぐっ」
まくし立てられて、颯兎は言葉を詰まらせた。山田の言うことが間違っていないと思ったからだ。星那が空想だと思っている宇宙の話を、信じてもらうためには山田の提案が一番手っ取り早い。そのことは確かなのだ。
「…………わかった。けど、星那を少しでも危ない目に合わせたらはっ倒す」
渋々と颯兎は頷いた。睨みをきかせて、山田を牽制するように星那の手を取る。星那はぎょっとしたが、颯兎の真剣な顔を見るとなんとなその手を振りほどくことは出来なかった。
山田はエスコートしようと差し出していた手の行き場をなくし、やれやれと『コスモス堂』の入口の扉に手をかける。
「あの、さっきの何の話だったの?二人して納得したみたいだけど……私だけ意味わかってない……」
「まあまあ、行ってみたらわかるから。ね?」
「ええ……」
釈然としないまま、星那は言われるがままに店に足を向ける。
山田が少し重たい扉を押すと、ギィと木材の軋む音がした。おそるおそる足を踏み入れると、ふわ、とラズベリーのような甘酸っぱい香りが鼻腔をくすぐった。
「わ、すごい。……ここ、雑貨屋さん?」
店内は昼間にしては薄暗い。けれどステンドグラスから差し込む光と、天井から吊るされたアンティークのランプが照らして、不思議な雰囲気を醸していた。
壁際にあるのは沢山の本棚。店の真ん中にいくつか並ぶ商品棚には、所狭しと雑貨が置かれている。
洋服にカバン、アクセサリー等の服飾品に、ふわふわのぬいぐるみや硝子細工の置物。高級そうな万年筆やレターセット、黒くて大きな地球儀。ゴツゴツとした天然石に、ドライフラワー。お酒の入った瓶に、可愛らしい袋に包まれたお菓子まで。
「ものがいっぱい……」
「相変わらず散らかってんな、ここは」
「颯兎君、この店来たことあるの?」
「あー、まあ……何回か」
「ふうん?」
颯兎が顔をしかめるように、店内は一見ごちゃごちゃと散らかっているように見える。けど並べられたその沢山の品々は、よく見れば興味をそそられるものばかり。雑貨が好きな星那は、楽しそうにそれらに目を向けた。
「おや……おやおやおや、珍しいお客さんだね」
ふと、店の奥から声がかかる。星那ははっとして声のした方向に振り向いた。見ると、男性が立っていた。丸眼鏡をかけ、長い黒髪を横に流し束ねている。
「こんにちは可愛らしいお嬢さん。それに、お前さんはウサ坊のとこのチビじゃないか。久しいね」
「だ・れ・が、チビだ!!いい加減オレのことガキ扱いすんのやめろよな弥彦!」
「弥彦……?」
星那は颯兎の言い様に、きょとんと目を丸くした。男性はどうやら颯兎と知り合いらしい。歳上の男性相手に、ずいぶんと親しげな態度だ。
「コイツ、ここの店主。火野弥彦。こう見えてすげージジイだから」
「ジジイ……え?どういうこと……?」
見かけよりも年齢が高いという意味だとはわかるが、弥彦はどうみても三十歳くらいの見た目だった。とてもジジイと呼ばれるような歳には見えない。
「やあ、店主。先日はどうも」
山田が弥彦に話しかける。弥彦は山田に向かって、深々と頭を下げた。颯兎に対する態度とは打って変わって、恭しい態度だ。
「これは、オリオン様。ようこそいらっしゃいました。――ふむ。ということは、もしやこのお嬢さんが?」
「ああ、今代の"星の乙女"だよ」
その言葉に、ピタ、と星那は動きを止めた。山田は当たり前のように弥彦に向かって星那を"星の乙女"と称した。弥彦もその言葉を知っているように、納得したように頷いている。
まさか雑貨屋の店主まで、自分は宇宙人だとでも言うのだろうか?
「思ったよりもお早く見つかりましたな」
「幸運なことにね。彼女は全くこちらの話を信じてくれてないんだけど」
「地球はまだまだ後進星ですからね。地球人相手に異星人だと話したところで、私どものほうが気狂いと思われるのがオチですよ」
弥彦は至極当然の顔をして、山田の自称宇宙人としての振る舞いに合わせて会話をしている。山田が"星の乙女"を探していたことも知っているようだった。星那は奇妙なものを見る目で、彼らを見やる。
「しかしここへお連れになったということは、このままラピスに?」
「いや、まだ説得できていなくてね。今日はミーティアに。チケットは取ってある」
「ほう!それはいい。すぐにゲートの準備をしましょう」
少々お待ちを。と言い残して、弥彦は店のカウンター横の扉の奥に引っ込んだ。なんのことかと首を傾げる星那をよそに、颯兎はわなわなと口を震わせ山田に話しかけた。
「…………お前、まじで?」
「何が?」
「いや、あれのチケット……いくらしたんだよ」
信じられない。と、いっそ青ざめた顔で颯兎は山田に言った。山田は颯兎の質問には答えず、けれどにっこりと笑みを浮かべてみせる。
「つーかプラネタリウムって……まさか」
「ある意味プラネタリウムだろう?本物の」
「……本物ってなに?チケットって?」
相も変わらず会話の意味がわからない。やきもきした星那が尋ねると、山田が答えた。
「特別な列車のチケットをとってあるんだ。星空が綺麗に見えるよ」
「え?列車って?プラネタリウムを見るんじゃないの?それに星空って……いま昼間だよ?まさか夜まで待つつもり?門限もあるし、そんなに遅くまではちょっと」
「大丈夫。門限までには必ず家には送り届けるから」
「……ほんとうに?」
「本当だとも。約束するよ」
星那の目を真っ直ぐ見て山田は言った。そこまで言うならば大丈夫か、と星那は不安ながらも「それなら」と頷く。颯兎は何故か遠くを見つめてため息を吐いて、それでも星那の手を握って離さなかった。
『お待たせしました、準備が出来ましたよ!奥へどうぞ!』
弥彦の声が店内に響いた。どうやらカウンター上にある星型のインテリアランプが、スピーカーのようになっているらしい。
勝手知ったるように山田がカウンター横の部屋の前に行き、そのドアノブを握った。颯兎は星那の手を引いて、山田に続く。
星那は案内されるがまま、おそるおそる部屋へ足を踏み入れたのだった。
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