星の乙女は宙に歌う

燈太

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第14話 ゲートの先へ

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 「……なっ、なにこれ!?」

 入ってすぐ視界に飛び込んできた光景に、星那は驚きの声を上げた。

 見たこともない不思議なものが、部屋の真ん中に鎮座していたのだ。

 それは絵画の額縁のように見えた。人が通れるほどに大きい、長方形の重厚な銀の枠だ。見慣れない紋様が細かく刻まれている。そこに絵は無く、代わりに光る薄い膜のようなものが張られていた。ユラユラと揺らめいた膜の向こうに、時折星の瞬きのような光がチラついている。

  「さあさあお嬢さん、坊ちゃん方もこちらへどうぞ」

 弥彦に手招きされ、星那はおそるおそるソレに近づいた。

 ゴクリ、と思わず喉を鳴らす。

 (……なにこれ。オーロラ、みたいな……虹色の膜?キレイだけど、なんか怖い)

 そんな感想を抱きながら、星那はふと疑問を持って、後ろを振り返った。一緒にこの部屋に入ったはずの山田も、そして颯兎も。星那と違って驚きの声ひとつあげていないのだ。

 「……どうして、二人は驚かないの?」

 怪訝そうな問いが、星那の口から吐き出された。

 「あー、オレは……見たことあるし」
 「俺も。よく使うからね」
 「……よく使う?」

 颯兎も山田も、星那が知らないこれを見知っている。星那は眉をひそめた。こんなおかしなものを当たり前の顔で受け入れている彼らに、一種の薄気味悪さのようなものを感じたのだ。

 「……二人は、これが何だか知ってるの」

 震える声でたずねると、山田がすかさず頷いた。

 「これは"星間せいかんゲート"だよ」
 「せい……?なんて?」

 聞き馴染みのない名称に星那は首を傾げる。ゲートの前に立つ弥彦が、すかさず付け足すように説明を口にした。

 「お嬢さんは初めて目にしましたでしょう。驚かれるのも無理はありません。星間ゲートというのは、まあいわば星と星をつなぐワープ装置みたいなものでして」
 「ワープ……?ですか。……って、あのワープ!?」

 驚いて、星那は素っ頓狂すっとんきょうな声をあげる。

 「ええ。地球人のお嬢さんには、馴染みがないでしょうが……こういった光速で移動する技術は先進の宇宙社会では一般的です。コスモス堂は地球に住む異星人のサポートをする場所ですからね。当然、こういった移動手段も用意してあるのです」
 「な、なん……いま異星人って言いました……?待ってください、さっき山田君と話してた時も思いましたけど、まさか店主さんも宇宙人だとかそういう……?あの、これってドッキリとかじゃなくて……?」

 しどろもどろにそう尋ねる星那に、弥彦は、わはは!と笑い声を上げた。

 「ドッキリ!なるほど、なるほど。実に地球人らしい反応だ」「……ち、地球人らしい?」

 星那の戸惑い様に、山田は何故か満足そうな表情を浮かべ、颯兎はもう諦めたような顔をして、けれど星那を心配そうに見つめた。

 この場で、自分だけが何か違う。そんな居心地の悪さを感じて、星那は思わず一歩後ずさるように、ゆっくりと三人から距離を取った。

 「オリオン様から貴女が宇宙人を信じてていらっしゃらないとお聞きしましたが……」
 
 弥彦は芝居がかったような声色で「しかし驚くなかれ!」と叫び、星間ゲートを背に両の手を広げた。

 そして、星那にうっそりと愉しげな笑みを向ける。

 「――私を含め、この場にいる誰もが異星人ですよ。お嬢さんをのぞいてね」
 「……うそ」

 信じられない、と星那はその場に立ちつくした。

 いや、もしかしたら山田も颯兎も本当のことを言っているのかもしれない。そう心のどこかでは思っていた。けれどどうしても信じがたかったのは、信じてしまえば自分も"空想癖のある変人"と思われてしまうんじゃないかという懸念があったからだ。

 「……いや、でも。だって……そんなの」

 だが同じ歳の中学生だけじゃなく、こんな大人の男性までも真面目な顔をして己を宇宙人と自称している。星那をからかうつもりで言っているわけではないのなら、その言葉は"本当"ということになってしまう。

 「……颯兎君、ほんとうに?本当に、颯兎君も宇宙人なの?」
 「そうだよ。星那にこんな嘘つかねぇって」
 「……山田君も?自称じゃなくて?」
 「うん。何度でも伝えるけど、本当にそうなんだ」

 信じて欲しい。と、もう何度目になるかわからない山田からの懇願のような言葉。彼は何度も、何度も事実を伝えようとしていた。

 それに目を背け、星那は信じなかった。でもこれは、もうこの状況では信じない他ないのではないか?だって、決定打になるものは目の前に用意されている。

 「……この先に、違う星があるの?宇宙が?」

 星那は不安そうに瞳を揺らしながら、星間ゲートを指さした。颯兎と山田は、ゆっくりと肯定の意で頷く。

  「百聞は一見にしかず。と、よく言うでしょう?」

 そう言いながら、弥彦がおもむろに星那に手を差し出した。彼の手のひらの上には、銀色の細い腕輪らしきものが載せられている。

 「こちらをどうぞ。言語の自動翻訳機能と重力調整装置が備わった腕輪です。手首に着けてお出かけください。そして、どうぞご自分の目でご覧になると良い」
 「……自分の、目で」

 星那は悩ましげな表情を浮かべて、差し出された腕輪を見つめた。

 受け取るのを躊躇う星那の代わりに、颯兎が弥彦の手から腕輪を受け取った。そして、何も言わず星那の手首にそっと嵌める。星那はきょとんとして、颯兎に目を向けた。

 「ん。これ、着けとかねえと周りの会話マジ意味わかんねぇから」
 「会話……宇宙語なの?」
 「宇宙公用語もあるけど、色んな惑星の言語が飛び交ってんだよ」
 「颯兎君の分は?」
 「オレはこれ。ネックレスにドッグタグ付いてるだろ?形は違ぇけど、同じ機能がついてる」

 シャラ、と颯兎は首にかけたシルバーのネックレスを指で少し釣り上げて見せた。星那が嵌めた腕輪と同様の機能が、一見何の変哲もないネックレスに備わっているらしい。

 ちら、と星那が山田に目をやると、彼はいつのまにか左の親指に金色の指輪を嵌めていた。どうやら山田も同じ機能のものを持っているようだ。

 「心の準備はいいかい、星那」
 「……まあ、なんとか」
 
 未だに頭の中が困惑しているので、星那はそんな返事しか返すことが出来ない。

 山田を先頭に、颯兎が星那の手を繋いでゲートの目の前に立つ。

 「あのさ、星那。オレ、本当は星那を連れていくの嫌なんだよ……でも、知って欲しいんだ」
 「……颯兎君」
 「ごめん。不安だろうけど……何があっても、オレがぜってー星那を守るから」
 
 颯兎は握る手にぎゅうと力を込めながら言った。その顔は不安が滲んでいる。星那を怖がらせまいと強がるように笑っているのがわかった。

 「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。……ふたりの言うこと、信じてみたいから――私、ちゃんとこの目で確かめる」

 星那はそう口にしながら、ゲートへと真っ直ぐに視線を向けた。

 そして、キラキラ揺らめく光の膜の先へ。

 (……二人が宇宙人なのは、空想なんかじゃない。山田君が言う"星の乙女"の話も本当のことなんだって――信じたくは無いけど、この一歩で全部わかるんだ)

 ゆっくりと、足を踏み入れた。

 
 
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