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第一章
第十一話 黒曜の友
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私は青年に連れられて一軒のお屋敷へとやって来た。他の家よりもひと際大きくて立派だ。
大きな門をくぐり、案内されたのはいかにもお客様を招く用の豪華な和室だった。屋敷の大きさからして使用人くらいいそうなものだが、青年は自ら茶を淹れ始めた。
しかし私が気になったのは室内の香りの方だった。お香を焚いているのか香水かは分からないがふわりと良い香りがする。
この香り、お父さんの好きだったやつと同じだ……
何の香りかまでは知らないけれど、生前父はよくこの香りを纏っていた。
「お父さんもここに住んでたの?」
「いいや。これはなんとなく焚いているだけだ」
「あなたはお父さんの友達?」
「私はそうだと思ってるよ。付き合いは長かった」
「……お父さんは何をしてた人なの? 私何も聞いてないの」
「破魔屋の創始者だよ。唯一出目金に対抗できる男だった」
「唯一って、引継ぎとか教育はしてなかったの?」
「必要無くなったからね。出目金は発生しないようになっていたんだ」
「出てるじゃない」
「そう。これは我々の想定外だ。原因は若旦那が調べてるところだけれど、世界の理はそうそう人間に従ってはくれないようだ。だから目先の対処として破魔矢が必要になった」
「ふうん。作り方は誰も知らないの?」
「知らないね。若旦那へ教えてなかったのなら我らには知りようもない」
……私は物心ついた時には教えてもらってた。なら二十年以上も前にこの方法は編み出されていたはず。
それでも教えていないのなら、あえて教えなかったということになる。
「どうして教えなかったのかしら。結構重要なことだと思うけど」
「その作り方は誰でもできるのかい?」
「どうかしら。やってみる?」
「……いや、止めておこう。黒曜が君にしか伝えなかったのならそれ自体に意味があるはずだ」
「例えば?」
「君の身を守るためさ。君にしかできないのなら常夜は総力を挙げて君を守る必要がある。それこそ若旦那が直々にお出ましになるくらいにね」
「確かにね。若旦那は作る方法を考えなかったの?」
「調べてはいるみたいだよ。けれど数千年を支えた黒曜の成果を一朝一夕でどうにかしようなんて無理な話だ」
「数千年?」
え? お父さんてそんな長生きしてたの? そんなの人間じゃないわよ……
ここまでの話を聞くだけで常人とは違うのだろうことは、さすがの私でも分かっている。
「……けどそんな長年守ってたなら引継ぎはちゃんとやりそうな気がするけどね。少なくとも私には教えておくべきよ。事の重大さを分かってれば大人しく若旦那に協力だってしたかもしれない」
「ふむ。君は若旦那と協力する気はないのかい?」
「ないわね」
「それはどうして?」
「だって嫌なやり方するじゃないあいつ! 言ってることは正しいかもしれないけど、単純に頭くるわ! あの鉢だってそうよ。あの生活格差はなんなの? 何の意味があるのよ」
「それはしょうがないね。彼等は魂の罪人だ」
「だからその意味が分からないの! せめて仕事を用意してあげるとか配給をするとか、何かあるでしょう。農作業をやってもらえれば自給自足はできるんだし。大店のごみ掃除って仕事があるなら仕事をすること自体が禁止なわけじゃないでしょう?」
私としては当然の怒りをぶつけたつもりだったが、青年は一瞬きょとんとしてからくすくすと笑った。
笑われるようなこと言った?
「なるほど。若旦那が君を鯉屋ではなく金魚屋へ置いた理由が分かったよ」
「何よ理由って」
「君は彼に似ている」
「彼?」
青年は少し寂しそうに微笑むと、立ち上がり戸棚から何かを取り出した私の目の前に置いた。
それは手のひらほどある大きな鈴で、まるで金魚のように赤い。
「これをあげよう」
「これは?」
「卸鈴。大店への出入りができる」
「え?」
それは鈴屋という特別な人しかくれないという物のはずだ。
「あなた、まさか」
青年は鈴と一緒に取り出した白い狐面を顔に被せるふりをした。
確かひよちゃんが「白い狐面を付けてるのですぐ分かりますよ」と言っていた。
青年はにこりと微笑んだ。
「鈴屋当主、白練だ。お見知りおきを」
大きな門をくぐり、案内されたのはいかにもお客様を招く用の豪華な和室だった。屋敷の大きさからして使用人くらいいそうなものだが、青年は自ら茶を淹れ始めた。
しかし私が気になったのは室内の香りの方だった。お香を焚いているのか香水かは分からないがふわりと良い香りがする。
この香り、お父さんの好きだったやつと同じだ……
何の香りかまでは知らないけれど、生前父はよくこの香りを纏っていた。
「お父さんもここに住んでたの?」
「いいや。これはなんとなく焚いているだけだ」
「あなたはお父さんの友達?」
「私はそうだと思ってるよ。付き合いは長かった」
「……お父さんは何をしてた人なの? 私何も聞いてないの」
「破魔屋の創始者だよ。唯一出目金に対抗できる男だった」
「唯一って、引継ぎとか教育はしてなかったの?」
「必要無くなったからね。出目金は発生しないようになっていたんだ」
「出てるじゃない」
「そう。これは我々の想定外だ。原因は若旦那が調べてるところだけれど、世界の理はそうそう人間に従ってはくれないようだ。だから目先の対処として破魔矢が必要になった」
「ふうん。作り方は誰も知らないの?」
「知らないね。若旦那へ教えてなかったのなら我らには知りようもない」
……私は物心ついた時には教えてもらってた。なら二十年以上も前にこの方法は編み出されていたはず。
それでも教えていないのなら、あえて教えなかったということになる。
「どうして教えなかったのかしら。結構重要なことだと思うけど」
「その作り方は誰でもできるのかい?」
「どうかしら。やってみる?」
「……いや、止めておこう。黒曜が君にしか伝えなかったのならそれ自体に意味があるはずだ」
「例えば?」
「君の身を守るためさ。君にしかできないのなら常夜は総力を挙げて君を守る必要がある。それこそ若旦那が直々にお出ましになるくらいにね」
「確かにね。若旦那は作る方法を考えなかったの?」
「調べてはいるみたいだよ。けれど数千年を支えた黒曜の成果を一朝一夕でどうにかしようなんて無理な話だ」
「数千年?」
え? お父さんてそんな長生きしてたの? そんなの人間じゃないわよ……
ここまでの話を聞くだけで常人とは違うのだろうことは、さすがの私でも分かっている。
「……けどそんな長年守ってたなら引継ぎはちゃんとやりそうな気がするけどね。少なくとも私には教えておくべきよ。事の重大さを分かってれば大人しく若旦那に協力だってしたかもしれない」
「ふむ。君は若旦那と協力する気はないのかい?」
「ないわね」
「それはどうして?」
「だって嫌なやり方するじゃないあいつ! 言ってることは正しいかもしれないけど、単純に頭くるわ! あの鉢だってそうよ。あの生活格差はなんなの? 何の意味があるのよ」
「それはしょうがないね。彼等は魂の罪人だ」
「だからその意味が分からないの! せめて仕事を用意してあげるとか配給をするとか、何かあるでしょう。農作業をやってもらえれば自給自足はできるんだし。大店のごみ掃除って仕事があるなら仕事をすること自体が禁止なわけじゃないでしょう?」
私としては当然の怒りをぶつけたつもりだったが、青年は一瞬きょとんとしてからくすくすと笑った。
笑われるようなこと言った?
「なるほど。若旦那が君を鯉屋ではなく金魚屋へ置いた理由が分かったよ」
「何よ理由って」
「君は彼に似ている」
「彼?」
青年は少し寂しそうに微笑むと、立ち上がり戸棚から何かを取り出した私の目の前に置いた。
それは手のひらほどある大きな鈴で、まるで金魚のように赤い。
「これをあげよう」
「これは?」
「卸鈴。大店への出入りができる」
「え?」
それは鈴屋という特別な人しかくれないという物のはずだ。
「あなた、まさか」
青年は鈴と一緒に取り出した白い狐面を顔に被せるふりをした。
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青年はにこりと微笑んだ。
「鈴屋当主、白練だ。お見知りおきを」
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