常夜の徒然なる日常 瑠璃色の夢路

真野蒼子

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第一章

第十四話 華屋

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 若旦那に連れられて華屋へ行くと、私は思わず眉間にしわを寄せた。

「うわ……」

 鯉屋の外観はちょっとした城のように大きなお屋敷だ。ぴかぴかに輝く外壁に美しい黄金の装飾、世界の中心かと思うように荘厳なその景観は誰もが見惚れることだろう。
 そしてそれは本来なら紫音お嬢さんが住まう店だ。女神さながらなあの美貌以外にあれを背景にできる者はいないだろう。
 若旦那も綺麗な容貌をしている。高級な着物も着こなしと優雅な所作、堂々とした佇まいは多くの魂を統べる者であることを納得させる。
 それでも紫音お嬢さんと比較すれば、世界に選ばれてもやはり庶民なんだなと思ってしまう。
 それほどの美しさを誇る紫音お嬢さんの率いる新たな店、それも華を冠するとなればさぞ美しいことだろう。そうでなくては紫音お嬢さんには似合わない。
 けれど今目の前にある店は酷いものだった。何のために置いているのか分からない空の木箱や桶、室内にあるはずの戸棚が幾つも外に出されている。それも掃除はしていないようで、埃にまみれて汚らしい。窓の内側に見えるカーテンは日に焼けてくすんでいる。

「オフィス経営ができてないんだね。環境推進とか労働環境保持とか」
「え……単に掃除してないだけじゃ……」
「お嬢様は掃除なんてしないんだよ」
「本人がやらなくても使用人とか職員とかいるでしょう」

「人を使ったことがないんだよ。何も言わずとも誰かが全てをやっていた。けどそれは鯉屋から給料が出てたからだ。でも紫音さんは給料を与えるっていう概念すらないんだ。それでも最初は皆やってたけど、彼等だって収入がなければやっていけない。一人二人と離れて行って、今残ってるのは先代の頃から仕えていて収入が無くても家財で生きていけるご子息ご令嬢だけ」
「……助けてあげればいいじゃない。やり方教えるとか」
「そういうのもひっくるめて白練びゃくれんさんが引き取ったんだ。紫音さんの教育もするからって」
「で、この惨状?」
「そう。けどそれも仕方ないんだよね。ほら、あれ」

 若旦那は後ろを振り向き一軒の店を見た。
 そんなに大きな店ではないけれど、色とりどりの花や煌びやかな着物と装飾品。店先で呼び込みをする女の子はとても愛らしく、舞い歌うように華やかな呼び込みをしている。これこそ華屋というなに相応しい。

「あれは何屋なの? アクセサリー屋?」
「元は雑貨屋だよ。けど金魚屋関係者、僕サイドの人がちょっとアドバイスたらあの繁盛ぶりだ。看板娘の咲楽さくらちゃんは舞いと歌の名手でもあって、広場で公演をすれば客が大勢集まる。今じゃ技藝を率いるのは彼女だ。すっかり華屋の地位を奪われてしまったんだ」
「最悪じゃない」
「そうだね。けど紫音さんにできないことなんてやる前から分かってた。だから鯉屋で看板娘を続ける方が良いって言ったんだよ。なのに白練さんが連れ出すから」
「それは何でそうなったのよ」
「さあ。僕にも分からない。何でだろうね」
「……なんかあの人が黒幕に見えて来たわね」
「それはどうだろうね。白練さんは鯉屋領地には居辛いだろうからって鈴屋所有の別領地に置いてあげてたんだよ。そこで華屋を仕切り直して当主になれば鯉屋と対等だって」
「え? それがいいじゃない」
「僕もそう思ったよ。でもやっぱり鯉屋に想い入れがあるんだろうね。なら紫音さんが戻りやすいように僕が頭を下げたって構わないって言ったのにそれも断るし。僕は結構気を配ってあげてるんだよ」
「ふーん……」

 てっきり若旦那が嫌がらせでもしてるのかと思ってたけど、こう聞くとお嬢さんの方にも問題があるように思える。
 単なる矜持かもしれないけど、きっと違う。私は紫音お嬢さんの本音を聞いている。
『どうして結様は私よりこんな小娘を』
 きっと紫音お嬢さんが求めてるのは鯉屋当主の座とか経営じゃない。
 ちらっと若旦那を見ると大きくため息を吐いている。
 世界を救ったなんて言われてるけど、意外と不器用な普通の男の子なのかもしれない。紫音お嬢さんもそうなのだろう。
 そう思うと急に二人が可愛く見えてくる。自然と私の口からは笑みがこぼれたこれど、そんな空気をぶち壊すように悲鳴があがった。

「出目金よ! 部屋に入って!」
「え!? また!?」
「は~。随分増えたな」
「何落ち着いてんのよ! 行くわよ!」
「あ! こら! 君は行かなくていいよ!」
「馬鹿言わないで! こういう時に使わなくてどうするのよ!」

 最近は数珠をもち歩くようにしている。破魔矢として役立つものがこれしかないならやるしかない。
 私はポケットから数珠を取り出し悲鳴の元へと向かった。
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