常夜の徒然なる日常 瑠璃色の夢路

真野蒼子

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第一章

第二十四話 選択(一)

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 そこにあったのは真っ白で清潔そうなベッドに眠る私だった。
 
「何で!? 私がいる!」
「肉体だよ。君は魂であっちが肉体」
「あ、ああ、そういう……あれ? 破魔矢を作るには肉体が必要なんじゃないの? 血とか、そういう」
「それは方法の一つで全てじゃないよ。紫音さんが引き継いだのはほんの一端にすぎない。博識気取るには千年早いかな」
「え」

 若旦那よりはるかに棘のある言い方をしたのは累さんだ。紫音は花のような美貌を歪めて怒りを顕わにしている。
 仲悪いのかな……
 何となく目を泳がせると、くいくいっとひよちゃんに袖を引かれた。

「累様は紫音さんが大嫌いなんですよ」
「それは何となく分かったけど何で?」
「結様の奥さんになる可能性が一番高いからですよ。累さんは結さんを取る人には容赦しません。ご両親の魂を出目金に食わせようとしたくらいです。命が惜しければ結様と個人的な付き合いはしない方が良いですよ」
「あ、はい……」

 単なるブラコンかい! いや、度が過ぎるわ!

「破魔矢の作り方については俺もいくつか引き継いでもらってる。ただ知ってるだけで君にしかできないんだけど」
「どういうことですか」
「これ以上は君が常夜で生きる決意をしたらね。今はこっち」

 累さんは意味ありげに笑みを浮かべると足元を指差した。
 私の身体と、よく見れば隣のベッドには玻璃も眠っていた。そして私たちの間に女性が一人座っていた。

「瑠璃、玻璃……」

 女性は私と玻璃を交互に見ては目に涙を浮かべている。

「あの人は?」
「君のお母さんだよ」
「えっ!?」

 この人が……

「玻璃はこの人と一緒に生活してたんだよ。君の親権だけは黒曜さんが持ってたんだ」

 女性は決して目を覚まさない私と玻璃の抜け殻の体温を確かめている。きっとあれが『生きている』ということなのだろう。

「……この人も常夜に関係してるの?」
「いいや。何も知らない普通の人間だよ。奪われたもう一人の娘とようやく再会できたとこだけど、望んだ再会じゃなかったみたいだね――っと。タイムアップ」
「え? きゃああ!」

 今度は上から何かに摘まみ上げられるように体が浮いた。
 私の身体!
 手を伸ばせば届きそうだったのにどんどん遠ざかり、私は揺らいだ足元に耐え切れずごろんと尻もちをついて転がった。

「痛っ! うわっ!」

 落ちた場所は元のお風呂場だった。お湯が流れていたせいで滑ってさらに転んで頭を打った。

「叶冬。戻し方雑だよ」
「だから夏生を連れて来れてこいと言ったんです。僕はこれ専門外ですよ」
「八重子さんが貸してくれなかったんだよ」
「そりゃそうでしょうけどね」

 誰よナツキとヤエコって……ていうか私の心配をしてくれませんかねえ……

「大丈夫?」
「……ありがと」

 支えてくれたのは、珍しいことに若旦那だった。

「ナツキとヤエコって誰?」
「金魚屋だよ。金魚の通り道ってのは本来金魚屋しか使えないから君を通すには誰かに手を引いてもらう必要がある。行きは累が付いてれば良いけど、戻りは誰かに引っ張ってもらわないといけないんだ」
「便利なんだか不便なんだか……」
「あれは金魚の回収専用だからね。かなちゃんは回収専用アルバイト雇ってるからあんまり使ったことないんだよ」
「アルバイトなんているの?」
「いるよ。かなちゃんにはあきちゃんでやえちゃんにはなっちゃん。あ、かなちゃんとこはゆきちゃんもいるね」
「あ、うん。もういい」

 ちゃんちゃんちゃんちゃんしててこんがらがってきたな。

「金魚屋も色々なんだよ。さて、気も解れたところで」
「え」

 若旦那は湯舟に近付くと膝を付いた。伸ばした指先は水面に揺蕩う玻璃の髪をすくい上げた。

「そろそろ決めようか」

 私の脚は止まった。
 そうだ。決めなくてはいけないんだ。

「君の選択肢は二つだ。玻璃を諦め現世に戻るか、生を諦め常夜で生きるか。現世に戻れば元の家で暮らせるし母親とも暮らせる」
「母親、ですか……」

 さっきの人よね。母親って言われてもな……でも……

「玻璃にとっては母親なのよね」
「君にとっても母親だよ」
「そうだろうけど……」

 一緒に育ってないなら他人だ。私にとってはお父さんだけが家族だったし、玻璃を目の前にしても妹と感動の再会なんて思えなかった。母親だってどちらさま、という感じだった。まあ、秒だったから考える暇もなかったけど。

「でも私が常夜にいないと困るのよね」
「まね。けど本来なら君には関係のない話だ。無視してもいい。けどその場合は出目金が消せないから常夜の魂は減り続け、いずれ現世は少子化が進み人口が減っていく」

 結構なことなのよね、これ……

「けどそれが表面化するのも数百年は先の話だ。ただその時は君の子孫を貰うことになるけど」
「あ、そ、そう、か……そうだよね……」
「黒曜さんは何も犠牲にできない優しい人だった。その彼が君を犠牲にすると決めたなら僕は有難く乗っかるよ」

 犠牲……
 そうよね。これって結局、鯉屋の跡取りを常夜に縛るのと同じだ。つまりは生贄のようなもの。
 お父さんは、私にそれを――
 ぐらりと頭が揺れた気がしたけれど、ぱんっと紫音が手を叩いて場を一括して意識を引っ張られた。

「若旦那。言葉が正しくありませんよ」
「うん?」
「瑠璃。私は黒曜様から大事なお役目を頂いているわ」
「お役目?」
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