断罪魔嬢・ザ・ダークヒーロー ~破滅のさだめの令嬢は黒き魔鎧で無双する〜

草葉ノカゲ

文字の大きさ
14 / 64
第一部 誕嬢篇

従者ライル

しおりを挟む
 魔紋の人体刻印──それは「転移門ゲート」と並ぶもうひとつの禁呪「擬神化チート」と呼ばれるもの。ただし、禁呪である理由は前者とは異なり、とても単純だ。

 それはすなわち、魔力の成長期前である五歳以下の幼な子にしか刻印を施せないこと。そして想像を絶する痛みを伴うというその施術の結果、九分九厘99パーセントが適合できず死に至るという、あまりにも人道に反する行為だからだ。

 ライル──いや、アズライルと呼ばれた彼の、魔鎧マガイの一撃に(示しあわせて受け身を取ったのだとしても)耐え得る頑丈タフさ、瞬間移動としか思えないほどの速度、それらはおそらく擬神化チートによる肉体強化の賜物なのだろう。

「エリシャっ!!」

 父の声が鋭く響き、ミオリはその傍らでナイフを放ちつつ、前傾姿勢でこちらに駆け出す。そしてアズライルの剣はギロチンのような無慈悲さで、装甲に覆われていない私の華奢な右肩に振り下ろされてゆく。

 ──私はそれらの光景すべてを、スローモーションで目の当たりにしていた。

 これはおそらく、脳があらゆる処理能力リソースを危機回避のみに集中することで発生する体感時間遅延タキサイキア現象。特撮の演出に使われていたとき調べググったので知ってる。

 とは言え、自分の体もまたスローでしか動かない以上、凶刃をかわすことはできそうにない。結局のところ、私には破滅を回避することができないのか。やはり、人の身では運命の力に抗うことなど不可能なのだろうか?

 ──いいえ! いいえ!!

 私の中に響いたのは、エリシャわたしの声だ。現世どこかでは悪役令嬢とまで呼ばれる少女の、強くてまっすぐな声だ。

 そして私は思い出す。衿沙わたしの好きなヒーローたちもまた、どんな逆境にあっても諦めたりしなかった。それが誰かを守るためなら、絶対に退くことはなかった。

 ──そうだ。私はエリシャわたしを守ると決めたのだ。

 ならどうすればいい。諦めずに考えよう。そうだ、こっちは考察大好きな特撮オタクなのだから。

 まず、いま魔玄籠手マガントレットから作り出された装甲は私の二の腕までしかカバーできていない。しかし、この籠手をベースに作り出されたジブリールの魔鎧マガイは全身を覆っていた。

 ならば、同じことを本物オリジナルにできないはずがないのではないか。つまり、充分な魔力を供給できれば肩部まで装甲を生み出して、斬撃を防げるのではないか。

 私は左手に握ったままの紫水晶オマモリを、さらに強く握りしめた。エリシャわたしを守るため、ダンケルハイト家を守るため、お母様、どうか私に力を貸して。

 胸の奥から湧き上がり右腕に流れ込む魔力が、加速する。いまここで、すべて出し尽くしてもいい。

 刃が寸前まで迫るなか、魔玄籠手マガントレットの装甲のはしから溢れた紫の炎が、私の肩をゆっくり覆っていく。それが凝結して黒い装甲に──は、ならなかった。急激に、魔力の流れは停滞していた。

 ──ッ!?

 魔力の通路になっていた胸奥から右腕までを、凄まじい激痛が襲っていた。それにより集中が乱されたのだ。
 ずっと「オマモリ」によって制限されてきた魔力をあまりに急激に放出した、その反動リバウンドがいま襲ってきたのだろう。──それでも! 私はもう守ることを諦めない!

『……そう、それは誰かわたし誰かあなたを守るために遺《のこ》した力』

 そのとき、私の頭の中に誰かの声が響いた。エリシャではない、衿沙えりさでもない。どことなくお母様のそれに似た、静かで凛々しくて、ひたすらに優しい女性ひとの声だった。

 そして魔力が爆発的に溢れ出す──

 それは濃紫の烈火となって私のすべてを呑み込むと、炎の形状を遺した禍々しい漆黒の重装甲に凝結し、瞬く間に全身をよろい尽くしていた。

 ──客観《じぶん》で見えずとも、わかりきっている。

 黒き兜からは巨大な双角が天に伸びて、仮面《かお》は悪鬼の如き憤怒の形相、その中で紫水晶の双眸アメジスト・アイだけがしずかにかがやいていることだろう。

 その姿こそ、エリシャわたしが絵物語で憧れ焦がれた、魔戦士ダンケルハイトそのものだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

転生モブは分岐点に立つ〜悪役令嬢かヒロインか、それが問題だ!〜

みおな
恋愛
 転生したら、乙女ゲームのモブ令嬢でした。って、どれだけラノベの世界なの?  だけど、ありがたいことに悪役令嬢でもヒロインでもなく、完全なモブ!!  これは離れたところから、乙女ゲームの展開を楽しもうと思っていたのに、どうして私が巻き込まれるの?  私ってモブですよね? さて、選択です。悪役令嬢ルート?ヒロインルート?

政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~

巫叶月良成
ファンタジー
政治家の娘として生まれ、父から様々なことを学んだ少女が異世界の悪徳政治をぶった切る!? //////////////////////////////////////////////////// 悪役令嬢に転生させられた琴音は政治家の娘。 しかしテンプレも何もわからないまま放り出された悪役令嬢の世界で、しかもすでに婚約破棄から令嬢が暗殺された後のお話。 琴音は前世の父親の教えをもとに、口先と策謀で相手を騙し、男を篭絡しながら自分を陥れた相手に復讐し、歪んだ王国の政治ゲームを支配しようという一大謀略劇! ※魔法とかゲーム的要素はありません。恋愛要素、バトル要素も薄め……? ※注意:作者が悪役令嬢知識ほぼゼロで書いてます。こんなの悪役令嬢ものじゃねぇという内容かもしれませんが、ご留意ください。 ※あくまでこの物語はフィクションです。政治家が全部そういう思考回路とかいうわけではないのでこちらもご留意を。 隔日くらいに更新出来たらいいな、の更新です。のんびりお楽しみください。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

処理中です...