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第二部 炎嬢編
スクールデイズ
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──襲撃の日までに、私がすべきことは二つある。
まずは、実戦経験を積むための魔物退治。どんなに強い力を手に入れても、それを本番で使いこなせなくては意味がない。
それに何より、この力で民を守ることはお母様の望みでもあるから。
もうひとつは、とにかく平穏な学園生活、なにごともない日常を送ること。
下手に元の運命と異なる選択をして「修正力」を発動させ、状況を悪化させてしまわないため。
式典の日に襲撃がある。この事実を知っていることこそが私のアドバンテージなのだから、それを変える必要はない。
相反するようだけれど、謎の令息の仮面も駆使してこの二つをこなしていくしかない。
──なので。周りの同世代の生徒たち同様、落ち着いた灰色のAラインが清楚な王立学園制服を着込んだ私は、おとなしく授業に参加しているのでした。
「……と、こうして聖騎士パラディオンは、聖女ミレイアから『絶聖の加護』を授かり、この地を支配していた魔物の王『瘴鏖龍』を打ち倒して、王国の礎を築いたのです」
眼鏡の女性教師が淡々と教科書の内容を読み上げる。今日の題目は建国史、エリシャがいちばん嫌いな科目だ。
わからないから苦手とかではなく、わかるけど嫌いなのだ。
「はい、せんせー」
教室の斜め後ろ。気の抜けた声とともに手を上げる少年がいた。
金色のくせっ毛に、なんとも眠そうな蕩けた瞳は琥珀色。けれど上品に整った顔立ちは、彼の高貴な家柄を示していた。
ちなみに男子の制服も同色で詰襟の軍服じみたものだが、これもよく似合っている。
「ユーリイくん、質問ですか?」
ユーリイ・パラディオン。何を隠そう彼こそは、この王国の第三王子であり、そしてエリシャの婚約者ということになっている。
運命によっては、彼から婚約を破棄されることになるわけだ。
「その戦いのときって、魔戦士ダンケルハイトはどうしてたんですかー?」
「そうですね、これは諸説あるところですが、魔戦士は最後の戦いには参加していないという見方もありますね。これについては……」
「──はい!」
教師の言葉に割り込んで、私は手を挙げる。指名を待たずに立ち上がる。
「魔戦士ダンケルハイトはその場に居ました。聖女を守るために、数百匹の魔物の群れをひとりで相手していたのです。聖女が倒れてしまっては『加護』の効果も失われる。だからこそダンケルハイトも、建国の英雄として讃えられているのです」
そうして我が家の蔵書から得た知識をすらすらと、唇に乗せ教室に響かせた。それは一般に正史として語られてはいない、あくまで「一説」ということになるが、教師も反論せずうなずいている。
あれから一か月ほどの学園生活で実感したのだが、エリシャの雄弁はどうやら、「オマモリ」解除の影響で増した威光/魅力によって底上げされ、さらに強化されているようだった。
「えー、数百匹はさすがに盛りすぎじゃないの?」
「いいえ。決して非現実的ではないわ」
ユーリイだけは、平気で反論してくるのだが。それも、ぴしゃりと否定する。
──実際、あの神遺物の力を完璧に使いこなせれば、そのくらいできてもおかしくはないということを、私は実感していたから。
「そのへんにしましょうか」
困り顔の教師の顔を立てて、そこまでにしておく。ユーリイもまた、それ以上は何も言わなかった。
これまでも似たようなやり取りが何度となくあって、だからエリシャは建国史と、それから彼のことが嫌いだった。
ただ……。彼があの質問をしたことによって、授業ではスルーされていたダンケルハイトが、実は決戦の場にいたかも知れないという情報を発信できたのも事実である。
あの手の飄々とした偽悪の匂いのする人種は、実際は切れ者で、しかも何だかんだ良いやつだったりするのが特撮では定石だ。
だから衿沙は、彼に関しての評価を保留にしておく。
「あー。エリシャ、これ」
そんな彼が、教室移動のすれ違いざまに、小さく畳んだ紙切れを押し付けてきた。それ以上は何も言わずに、次の授業──魔法実技の行われる屋内闘技場とは別方向へと去っていく。
サボる気なのだろう。まあ、いつものこと。
私は紙切れを広げて、彼の汚い字を読む。そこには、こう書かれていた。
『放課後、音楽室に来てほしい。お父上のことで話がある』
ほうら来た、切れ者仕草。しかし味方かどうかまでは判断できない。
お父様の技術漏洩を知っているとしたらあまり良い予感はしないが、まず私に接触してきたということは、交渉の余地もあるやも知れない。
場合によっては彼、未来のダンケルハイト侯爵でもあるわけだし。エリシャとしては、とても不本意だが。
そんなことをぐるぐると考えていたせいで、せっかくのリミッター解除した魔力をクラスメイトに見せつける機会は、「あれ、今日は調子いいんじゃない?」ぐらいの微妙な感じに終始してしまった。
──そして放課後。私は、無人の机が並ぶ薄暗い音楽室にぽつんと、彼を待っていた。
「いやあ、ごめんごめん。昼寝し過ぎちゃった」
「良くてよ。あなたがそういう人だって、知っているから」
頭を掻きながらようやく姿を現すユーリイに、淡々と応じる私。
「ははー、そりゃ返す言葉もないなあ」
部屋の真ん中で私と対峙した彼は、たっぷり寝てきた割に眠そうなままの気の抜けた表情を、急にきりりと引き締めてこう言った。
「──で、きみはいったい誰なんだ?」
まずは、実戦経験を積むための魔物退治。どんなに強い力を手に入れても、それを本番で使いこなせなくては意味がない。
それに何より、この力で民を守ることはお母様の望みでもあるから。
もうひとつは、とにかく平穏な学園生活、なにごともない日常を送ること。
下手に元の運命と異なる選択をして「修正力」を発動させ、状況を悪化させてしまわないため。
式典の日に襲撃がある。この事実を知っていることこそが私のアドバンテージなのだから、それを変える必要はない。
相反するようだけれど、謎の令息の仮面も駆使してこの二つをこなしていくしかない。
──なので。周りの同世代の生徒たち同様、落ち着いた灰色のAラインが清楚な王立学園制服を着込んだ私は、おとなしく授業に参加しているのでした。
「……と、こうして聖騎士パラディオンは、聖女ミレイアから『絶聖の加護』を授かり、この地を支配していた魔物の王『瘴鏖龍』を打ち倒して、王国の礎を築いたのです」
眼鏡の女性教師が淡々と教科書の内容を読み上げる。今日の題目は建国史、エリシャがいちばん嫌いな科目だ。
わからないから苦手とかではなく、わかるけど嫌いなのだ。
「はい、せんせー」
教室の斜め後ろ。気の抜けた声とともに手を上げる少年がいた。
金色のくせっ毛に、なんとも眠そうな蕩けた瞳は琥珀色。けれど上品に整った顔立ちは、彼の高貴な家柄を示していた。
ちなみに男子の制服も同色で詰襟の軍服じみたものだが、これもよく似合っている。
「ユーリイくん、質問ですか?」
ユーリイ・パラディオン。何を隠そう彼こそは、この王国の第三王子であり、そしてエリシャの婚約者ということになっている。
運命によっては、彼から婚約を破棄されることになるわけだ。
「その戦いのときって、魔戦士ダンケルハイトはどうしてたんですかー?」
「そうですね、これは諸説あるところですが、魔戦士は最後の戦いには参加していないという見方もありますね。これについては……」
「──はい!」
教師の言葉に割り込んで、私は手を挙げる。指名を待たずに立ち上がる。
「魔戦士ダンケルハイトはその場に居ました。聖女を守るために、数百匹の魔物の群れをひとりで相手していたのです。聖女が倒れてしまっては『加護』の効果も失われる。だからこそダンケルハイトも、建国の英雄として讃えられているのです」
そうして我が家の蔵書から得た知識をすらすらと、唇に乗せ教室に響かせた。それは一般に正史として語られてはいない、あくまで「一説」ということになるが、教師も反論せずうなずいている。
あれから一か月ほどの学園生活で実感したのだが、エリシャの雄弁はどうやら、「オマモリ」解除の影響で増した威光/魅力によって底上げされ、さらに強化されているようだった。
「えー、数百匹はさすがに盛りすぎじゃないの?」
「いいえ。決して非現実的ではないわ」
ユーリイだけは、平気で反論してくるのだが。それも、ぴしゃりと否定する。
──実際、あの神遺物の力を完璧に使いこなせれば、そのくらいできてもおかしくはないということを、私は実感していたから。
「そのへんにしましょうか」
困り顔の教師の顔を立てて、そこまでにしておく。ユーリイもまた、それ以上は何も言わなかった。
これまでも似たようなやり取りが何度となくあって、だからエリシャは建国史と、それから彼のことが嫌いだった。
ただ……。彼があの質問をしたことによって、授業ではスルーされていたダンケルハイトが、実は決戦の場にいたかも知れないという情報を発信できたのも事実である。
あの手の飄々とした偽悪の匂いのする人種は、実際は切れ者で、しかも何だかんだ良いやつだったりするのが特撮では定石だ。
だから衿沙は、彼に関しての評価を保留にしておく。
「あー。エリシャ、これ」
そんな彼が、教室移動のすれ違いざまに、小さく畳んだ紙切れを押し付けてきた。それ以上は何も言わずに、次の授業──魔法実技の行われる屋内闘技場とは別方向へと去っていく。
サボる気なのだろう。まあ、いつものこと。
私は紙切れを広げて、彼の汚い字を読む。そこには、こう書かれていた。
『放課後、音楽室に来てほしい。お父上のことで話がある』
ほうら来た、切れ者仕草。しかし味方かどうかまでは判断できない。
お父様の技術漏洩を知っているとしたらあまり良い予感はしないが、まず私に接触してきたということは、交渉の余地もあるやも知れない。
場合によっては彼、未来のダンケルハイト侯爵でもあるわけだし。エリシャとしては、とても不本意だが。
そんなことをぐるぐると考えていたせいで、せっかくのリミッター解除した魔力をクラスメイトに見せつける機会は、「あれ、今日は調子いいんじゃない?」ぐらいの微妙な感じに終始してしまった。
──そして放課後。私は、無人の机が並ぶ薄暗い音楽室にぽつんと、彼を待っていた。
「いやあ、ごめんごめん。昼寝し過ぎちゃった」
「良くてよ。あなたがそういう人だって、知っているから」
頭を掻きながらようやく姿を現すユーリイに、淡々と応じる私。
「ははー、そりゃ返す言葉もないなあ」
部屋の真ん中で私と対峙した彼は、たっぷり寝てきた割に眠そうなままの気の抜けた表情を、急にきりりと引き締めてこう言った。
「──で、きみはいったい誰なんだ?」
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