断罪魔嬢・ザ・ダークヒーロー ~破滅のさだめの令嬢は黒き魔鎧で無双する〜

草葉ノカゲ

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第二部 炎嬢編

こんなこともあろうかと

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 ここ王立学園には、地下迷宮ダンジョンがある。
 
 そもそも前身である兵士訓練施設が、地下迷宮を含む古代遺跡の上に建てられたのだとか、建設後に見つかった地下の洞窟を利用して作られたのだとか色々な説があるが、定かではない。

 とにかくその地下迷宮ダンジョンには、実践的な戦闘訓練用設備として、弱体化した魔物を自動発生させ徘徊させるという自動機構システムが組み込まれていた。おそらくは、魔物の発生源である「魔瘴溜り」を内部に取り込んでいるのだろう。

 学園でもこの訓練用地下迷宮ダンジョンは、上級生向けの特別カリキュラムとして活用されていたらしいのだが、数十年前に事故で一人の生徒が命を落として以来、封印されて久しい。
 それは流れる年月の中で禁忌のような扱いとなり、自動機構システムの詳細を記した資料もいずこかへ紛失してしまったという。

 ユーリイから受け取った魔紋記録板メモリディスクの表面に浮かび上がる文字列をスマホのように親指でスライドさせながら読む。その内容のうち、ここまではエリシャわたしも噂程度に知っていたことだ。

 中庭の、開かずの扉の向こうの地下迷宮ダンジョン。いわゆる学園七不思議のようなものだ。

 しかし、つい先日のこと。これに興味を持ち、自動機構システムの凍結あるいは何らかの転用を謳って迷宮の封印を解き、内部に潜入した者がいたという。
 
 それが、臨時講師として学園を訪れていた魔学者ジブリールとその従者だった。

 ──若作り変態魔学者あんにゃろう

 脳内に響くいやらしい笑い声を頭ぶんぶん振ってかき消しつつ、私はいろいろなことが腑に落ちた。
 そもそもジブリールを臨時講師として学園に紹介したのは、うちのお父様だったはずだ。もしかすると、そのへんも取引きの一環だったのかも知れない。
 そしてここのところ音信不通な彼のことを不審に思ったユーリイが、ジンに調査を依頼した、という経緯のようだ。

 渡された資料の限りでは、帝国の関与まで辿り着いてはいないようだった。しかし「エリシャでないかも知れない」私に、切れ者である彼が、手の内をすべて明かすと思わないほうがいいだろう。

「──完成です、エリオット様」

 例のように恍惚うっとりとした表情かおでミオリが言う。楽器棚の影、私が魔紋記録板メモリディスクを読んでいる間に、あいかわらず見事な手際で彼女は私を、銀のショートボブも魅惑的な謎の美少年エリオット君に仕立て上げてくれた。
 ちなみに服装も、どこから調達したのか、学園の男子生徒のものになっている。

「じゃあミオリ──じゃないや、影狐カゲコは先に中庭の方に向かって」

 同じく女生徒の制服姿のまま黒い狐面をつけた彼女は、私の言葉に「御意はい」と答えるや駆け出して、さきほどジン君が消えた天井の穴に吸い込まれるように消えていった。そして天井パネルは元通りになっている。
 あれって、ジン君は彼女のために開けっ放しにしていったのだろうか。もしかして、意外と紳士なのかも知れない。

 ──今さら思い出したのだけど、たしか彼も、ユーリイ同様に攻略対象のひとりだった気がする。彼がデレる姿とかはちょっと見てみたいかも知れない。いつかあっちの世界に戻れたら、ゲームやってみようかな。

 そんなことを思いつつ、私も学園内の廊下を走って中庭の方へと向かう。魔紋を利用した四角い箱型の拡声装置スピーカーから、校内に居る生徒は教室に避難するようにとアナウンスが流れた。

 魔物とは遭遇しなかったが、剣を帯びた騎士専攻クラスの上級生とすれ違う。学生と言えど彼らはエリート、校内に放たれたのが弱体化された魔物ならば、問題なく仕留めてくれるはず。

 次の角を曲がれば、ちょうど私のクラスの教室の前だ。ここを真っすぐ突っ切れば、中庭はもうすぐ。逆に言えば、魔物に遭遇する可能性も高いことになるだろう。

「このっ! こっち来ないでっ!」

 案の定、赤黒い影がそこにあった。壁を背にして震える声で威嚇する女生徒ふたりと、舌なめずりしながら一歩ずつ距離を詰める瘴犬コボルド
 私は、走りながらそっと右腕の輪具に触れる。

「──劃式纏装かくしきてんそう!」

 さすがに、ここで纏装は目立ちすぎる。それにこれから地下迷宮に挑むのなら、魔力も節約すべきだろう。それならば──

零星籠手レイガントレット!」

 声に呼応して紫の炎が私の右腕から肩口までを包み込み、黒い装甲を形成する。

 これぞ魔玄籠手マガントレットを使った経験と、特撮における数人の人気キャラクター(詳細はご想像にお任せ)から発想し、お父様にお願いして搭載していただいた、腕部限定変身。そう、まさに備えあれば憂いなしこんなこともあろうかとだ──!

 そしてこちらに気付き飛び掛かる瘴犬コボルドを、黒い手刀の一閃で両断し、そのまま私は足を緩めることなく教室の前を駆け抜けていた。

 ──見送る二人の女生徒がクラスメイトのイザベラとライラで、しかも二人の目にミオリと同じ恍惚いろが浮かんでいた気がするけれど、見なかったことにしておこう……。
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