断罪魔嬢・ザ・ダークヒーロー ~破滅のさだめの令嬢は黒き魔鎧で無双する〜

草葉ノカゲ

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第二部 炎嬢編

迷宮の主

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 ──私とマリカが最深部そこに到達したとき、先行パーティはすでに壊滅寸前だった。

 長い下り通路の先に突如として開けた、王城の広間ホールもかくやの大空間。
 その奥側の半分は赤黒い液体──おそらくは魔瘴ましょうの並々と満たされたプールで占められており、手前側では赤黒い人型の巨怪が先行パーティの面々を蹂躙していた。

 大瘴鬼オーガを越える巨体は、足元で聖剣を振るう金髪長身の男子生徒──リヒトの五倍近いだろう。魔物マモノの常として頭部は口のみで目鼻耳はないけれど、側頭部から左右にまさに牛のように湾曲して尖った巨大な角が伸びている。

 たがえようなく、この巨怪が瘴牛鬼ミノタウロスだろう。その名は地下迷宮に棲まう牛頭人身の魔物として広く知られていたけれど、実際の目撃例はなくて、大災厄と共に歴史に埋もれた存在とされてきた。
 ひょろりとしていた瘴鬼ゴブリン大瘴鬼オーガ系と違い、その肉体は分厚く筋骨隆々マッチョで、凄まじい威圧感を伴いそこに存在している。

「ひどい……」

 そう一言だけこぼして、マリカは躊躇なくその修羅場に飛び込んで行った。私も、手近に倒れて呻いている屈強な男子生徒に手を貸す。

「ああ、来てくれたのか聖女マリカ! それに、そちらは忍びの者か?」 

 私たちに気付いたリヒトが、瘴牛鬼ミノタウロスの剛腕から繰り出される打ち下ろしを盾でぎりぎりに逸らしながら声を上げた。それと同時に、丸太のような剛腕に聖剣の一太刀を浴びせる。相変わらず、隻眼とは思えない技の冴え。

「不甲斐ない、完全に私が判断を誤った。どうか彼らを、安全な場所まで退避させてくれ」

 こんな怪物と単騎で渡り合いながら、自分のミスを真摯に認め、そして自分以外の者たちのために助力を乞う。心技体とも、学園最高の騎士と呼ばれるに相応しい男である。

「──時間は、この命に代えても稼いでみせる」

 認めたくないけれど、エリシャ様が惹かれるのもやむを得まい。
 
安息地点セーフポイントから地上への緊急脱出通路があるらしいです。それと、ラファエル先輩もこっちに向かってます」

 神官ヒーラーと思しき白手袋の女生徒の、魔瘴に浸蝕された半身を浄化しつつ、マリカが手短に必要な情報を伝える。神官ヒーラーを回復させれば、そこからパーティの立て直しが可能になる。おそらく彼女は、そういうことを知識より直感で理解しているのだろう。

「やつの巨体では通路ここまでは追ってこれないはずだ。他の皆を、頼む」

 肩を貸して通路まで退避させた男子生徒が、痛みと悔しさがないまぜの苦悶を浮かべながら懇願する。
 マリカが浄化した女生徒も、自力でこちらに向かってきていた。彼のことは、彼女に任せればいいだろう。
 
 あと二人。うち一人、孤軍奮闘するリヒトのすぐそばで魔術士の魔杖マジョウに頼りながらふらふらと立ち上がった女生徒の元には、マリカが駆けていく。
 それを視界にとらえた私は、手前に倒れた細身の男子生徒の方に向かった。すぐ近くには大きな弓が落ちている。おそらく弓士アーチャーなのだろう。
 私が走りながら弓を拾い上げた、そのときだった。

 ヴモォォォォォ──

 凄まじい咆哮が轟いた。空気を震わせる、とかいうレベルのものではなく、全身を掴まれてぐいぐい揺さぶられるような明確な圧力を伴ってこちらの行動を阻害する。聴覚もしばらくは使い物にならないだろう。

 咆哮の主であろう瘴牛鬼ミノタウロスに視線を向ける。至近距離でそれを喰らったリヒトが、膝立ちになって聖剣に体重を預けている。しかし瘴牛鬼やつは目の前の彼よりも、マリカと魔術士のほうに狙いを定めていた。

 ──瘴牛鬼ミノタウロスは乙女を好んで喰らう魔物だという話もある。こちらの退却の動きに気付き、獲物を逃すまいと考えたのか。

 足元のおぼつかない魔術師を背に、地響きを上げ突進してくる巨怪と対峙するマリカは聖なる光の壁を顕現させていた。

「何なの、あれ……」

 通路の入り口、神官ヒーラーの女生徒が思わず治癒の手を停め呆然とその光景に目を向ける。やはり同業者でもあの聖套ヴェールは異常らしい。

「気持ちはわかるが、まずは彼らの治療を」
「あ、うん、そうよね」

 そんな彼女に、預けた弓士アーチャーを目で示しつつ、私は再び広間ホールに駆け出していた。いくら異常でも、あの瘴牛鬼バケモノの一撃を受け止めることができるとは思えない。

 ヴモォォォ!

 咆哮と共に瘴牛鬼ミノタウロスは、頭部の双角を突きさすように光壁へと激突していた。刹那、巨体は時間が止まったかのように静止して──光の壁には無数のひび割れが走り、粉々に砕け散っていた。
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