断罪魔嬢・ザ・ダークヒーロー ~破滅のさだめの令嬢は黒き魔鎧で無双する〜

草葉ノカゲ

文字の大きさ
40 / 64
第二部 炎嬢編

託されたもの

しおりを挟む
「アリオスという名前は卒業生名簿にいくつか載っているけど、どれも目立つ生徒じゃなかった」

 第三区郭安息地点セーフポイントの壁に据え付けられた銀の通信機コップから、響く声の主はユーリイ・パラディオン──第三王子にしてエリシャわたし婚約者フィアンセ、そしてこのダンジョン探索の起案者でもある策士キレものだ。

 ちなみに、能ある鷹的に爪を隠しすぎたせいか、当の婚約者エリシャからは嫌われている。衿沙おねえさんとしては、けっこう可愛いと思うんだけど。

「それよりも、卒業生名簿に載ってないこっちが気になる。アリオス・フレイザー、長い学園の歴史上でも最高位の秀才にして、最強級の戦士でもあったという、文武両道の極みみたいなやつだ」

 第二区郭からの連絡時に実兄ラファエルより依頼された調査を、彼は見事にこなしてくれていた。
 第三区郭道中には魔物ザコもほとんどおらず、ボスも存在しなかったため、けっこうな短時間攻略だったはずだが。
 ちなみに、ボス不在そのへんについては先行する影狐カゲコ達からの報告の共有で、再配置リポップに時間が必要ということがわかっていた。道中ザコについても同様なのだろう。つまり迷宮の魔物は、際限なく湧きつづけるわけではないということ。

「このアリオスくん、記録では卒業直前に自主退学したことになっているんだが、それほどの俊英にも関わらず以降の足跡が王国のどこにも見当たらない。──それが約三十年前、事故が起きて迷宮が封印されたという時期と重なる」

 ──なるほど、話がつながってきた。

「そして今、迷宮の主を自称する存在ものがその生徒と同じ名を名乗っている、というわけだね」
「そういうことになる。……それと兄貴、確認したいことがあるんだが」

 ラファエルの総括まとめを肯定して一息つくと、彼はこちらに問いかけてきた。ここまでの流暢さとは打って変わって、ところどころ口ごもりながら。

「……その、そっちにあいつ……エリシャが居たりなんてことは、ないよな?」

 さすがはユーリイキレもの、鋭い。

「仮面をつけた忍者っぽい女生徒と、見たことのない美少年が同行したって、魔学専攻の女生徒せんぱいが目にハート浮かべながら言ってるんだが、それって……」

 苦笑を浮かべた私の視線を、穏やかな微笑みで返しつつ、ラファエルは弟に答える。

「まさか、いるわけないじゃないですか。きみが婚約者あのこを大好きなのはわかりますが、心配しすぎですよ。いま僕と一緒にいるのは、とても頼れる戦士の少年です」

 第二区郭を踏破する間に、私はラファエルに全てを話していた。彼は何の疑問も挟まずそれを受け入れて、出来る限りの協力を約束してくれた。
 もちろん、転生とかゲームとかの話は省いてある。そのへんに後ろめたさはあったけど、しかたないよね……。

 ちなみに、私がエリシャであることは、魔術士としての魔力感知能力によって初対面の時点でだいたいわかっていたという。なんか恥ずかしい。
 でも、それって魔術士相手ならバレバレということ? と焦ったけど、先日校内ですれ違った際に私の魔力が急成長していたことに驚いて気に留めていたらしい。
 それに、そもそもラファエルほど高い精度の魔力探知ができる魔術士は限られているということなので、まずは一安心だ。

「…………そうか。兄貴がそう言うなら、そうなんだろうな。あとは、ボスの再配置リポップ間隔についてだが」

 すこしの沈黙の後、ユーリイはいろいろ飲み込むように、次の話題に移った。彼の専属の忍びであるジン君が迷宮に単身で潜入し、いろいろ追加調査してくれているらしい。

 そして様々な情報と事実と推察から、私たちは新たな方針を決めた。すなわち、ボスの再配置リポップ前に私が単身で最深部まで駆け抜ける、というものだ。
 魔力の配分さえ誤らなければ、紐状素体ワイヤードスーツの補助とエリシャわたしの体力でそれが充分に可能だというのが、ラファエルの見立てだった。
 さらに、彼の魔杖マジョウには魔力を他者に譲渡する特殊な術の魔紋も刻まれている。これを使って残りの魔力を私に託し、彼自身は安息地点セーフポイントに待機する、というわけだ。

 その決断に至ったのは、影狐からの伝言にあったアリオスの「ミノタウロスには絶対に勝てない」という言葉があったから。アリオスがというのなら、それなりの根拠あっての言葉だろう。
 そしてラファエルが心配しているのは、先行パーティを率いるリヒトが「退く」という選択肢をタイプだから。

 ──かくして。

 ラファエルの「お願いします」という一言と微笑に送り出された私は、影狐の付けてくれた目印を頼りに迷宮を駆け抜け、最深部まで辿り着いたのだ。
 先行パーティの面々の「リヒトを助けて」という声を背に受け、途中ですれちがった影狐に心の中でねぎらいの言葉をかけながら、という言葉を全力で肯定したくなる瘴牛鬼そいつの威容を見上げる。

 うん、さすがに巨大でかすぎて、客観オタク視点の余裕もない。そもそもこれは等身ヒーローではなく、相応に超巨大ウルトラな存在が対峙すべき怪獣しろものだろう。
 けれど、すくみそうな足を止めるわけにはいかない。
 左手に握った仄かな温もりを──ラファエルから託された小さく白い魔力塊メラるんを胸の真んなかに押し当てる。
 瞬間、凝縮された膨大な魔力が、彼の信頼おもいと共に全身に流れ込んできた。私は信頼それに、応えなくちゃいけないから。

 「纏装《てんそう》──!」

 右腕を掲げて叫んだ。天よりせまる隕石の如き巨拳に晒されたマリカと、ラファエルの実兄たるリヒトミハイルを守るため──

「レイジョーガー!」

 ──託された魔力おもいを黒き魔鎧マガイに変えて!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

笑顔が苦手な元公爵令嬢ですが、路地裏のパン屋さんで人生やり直し中です。~「悪役」なんて、もう言わせない!~

虹湖🌈
ファンタジー
不器用だっていいじゃない。焼きたてのパンがあればきっと明日は笑えるから 「悪役令嬢」と蔑まれ、婚約者にも捨てられた公爵令嬢フィオナ。彼女の唯一の慰めは、前世でパン職人だった頃の淡い記憶。居場所を失くした彼女が選んだのは、華やかな貴族社会とは無縁の、小さなパン屋を開くことだった。 人付き合いは苦手、笑顔もぎこちない。おまけにパン作りは素人も同然。 「私に、できるのだろうか……」 それでも、彼女が心を込めて焼き上げるパンは、なぜか人の心を惹きつける。幼馴染のツッコミ、忠実な執事のサポート、そしてパンの師匠との出会い。少しずつ開いていくフィオナの心と、広がっていく温かい人の輪。 これは、どん底から立ち上がり、自分の「好き」を信じて一歩ずつ前に進む少女の物語。彼女の焼くパンのように、優しくて、ちょっぴり切なくて、心がじんわり温かくなるお話です。読後、きっとあなたも誰かのために何かを作りたくなるはず。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ライバル悪役令嬢に転生したハズがどうしてこうなった!?

だましだまし
ファンタジー
長編サイズだけど文字数的には短編の範囲です。 七歳の誕生日、ロウソクをふうっと吹き消した瞬間私の中に走馬灯が流れた。 え?何これ?私?! どうやら私、ゲームの中に転生しちゃったっぽい!? しかも悪役令嬢として出て来た伯爵令嬢じゃないの? しかし流石伯爵家!使用人にかしずかれ美味しいご馳走に可愛いケーキ…ああ!最高! ヒロインが出てくるまでまだ時間もあるし令嬢生活を満喫しよう…って毎日過ごしてたら鏡に写るこの巨体はなに!? 悪役とはいえ美少女スチルどこ行った!?

処理中です...