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第二部 炎嬢編
【第二部完結】守り人
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王妃、リーリヤ・パラディオン。
彼女はお母様の級友──すなわち、お父様やアリオスとも同じクラスの一員だったことになる。
改めて考えるとすごいクラスだ。いや、聖女と王子と忍者と悪役令嬢がいるうちのクラスも大概か。
若々しくはあるけれど、それは決して重ねた年齢が見えないという意味ではなく、あくまで年相応の自然な美しさをまとって彼女はそこに立っていた。
しなやかに、強く優しく美しく。その姿は、王国のほぼ全ての女性にとっての憧れだ。エリシャも、そして記憶の中でしか面識がない衿沙さえ例外ではなく。
彼女が十歳上の王子──現国王に見染められたとき、まだこの学園に在学中だったという。そして彼女もまたアリオス同様に下級貴族の出であり、当時は耳を覆いたくなるような憶測や流言飛語が飛び交ったらしい。
──あるいはアリオスの件が有耶無耶にされたのも、同じクラスでそれ以上の問題を起こしたくなかったから……なのかも知れない。
しかしそれら外野の声を黙らせ、さらに当時まだ根強かった家柄による格差も撤廃すべしという時流を生み出したのは、ひとえに彼女の聡明にして快活な人柄によるものだった。
「もう、五年も経つのね。やっぱりあなたは私の思った通り、とってもすてきな女の子になった」
つかつかと歩み寄り、私の顔を覗き込む。ふわりと、やわらかな花の香りがした。遠くからお姿を目にすることはあったけど、こんな風に間近でお声を掛けていただくのはお母様の葬儀以来だろう。
「うちの息子たちがね、みんなあなたのこと大好きだから。あの子たちから、ちょこちょこあなたの話を聞いていて、ひさびさに会いたいなって思っていたの」
「えっ、そんな……」
「それで用事のついでに、もしかしてとうろうろしていたのだけど。会えて良かった」
私を、探して? というか、いくら隣接しているとはいえ護衛もなしにおひとりでうろうろしていて大丈夫なのだろうか。あーだめだ、雄弁も考察も、緊張でまともに働いてくれない。
「明日は、あなたも参列するのでしょう? 聖女様とも仲が良いと聞いているし」
「あ……はい! もちろんです。あ、でも、マリカとはそこまでじゃ……」
ようやく、まっすぐ目を合わせてお返事ができた。
たしか、体調のすぐれない国王の名代として、王妃様は明日の「式典」にもおひとりで列席されると聞いていた。
「──でもね。なんとなくだけど、胸騒ぎがするの」
私は、特にエリシャは、その言葉に驚いた。彼女の直感の鋭さに。そして常に朗らかに、あるいは凛々しく振舞っている王妃様の、見たこともないような儚く不安げな表情に。
──いや、ちがう。エリシャはそれに近しいものを見たことがある。お母様の葬儀の日。私の肩を抱いてすすり泣いていた彼女の、そのまま透けて消えてしまいそうに儚い泣き顔を。
幸い、周囲に私たち以外の気配はない。──もしかしたら、だからこそ私に見せてくれた表情なのかも知れない。
「もしも……」
私は、急激に冴えていく思考の中で、転生前に友から聞いた言葉を思い出していた。私の行動次第では王妃様さえ命を落とす展開もありえる、ということを。
「……もしも何かあったら、必ず私がお守りいたします」
その言葉に、王妃様はきょとんとした表情で応える。それから、ふわり優しく微笑んでくれた。
「ふふ、そうね。エリーゼもよく、私のために怒ったり、泣いたり、守ってくれたのよ。きっとみんなに言われるでしょ、お母様によく似てるって」
私は黙ってうなずく。
「でも、あなたはエリーゼに成らなくてもいいの。あなたにはあなたの人生があるのだから、それは大切にしてほしい。きっとエリーゼも、そう願っているはず」
エリシャは、その言葉を噛みしめるように、もういちど黙ってうなずいた。
「──リーリヤ様! こちらにおられたのですか!」
廊下の突き当りから現れた護衛の女性騎士が、慌てた様子で小走りに駆け寄ってきたのは、その直後のこと。
「それじゃあエリシャ、逢えて嬉しかったわ。お父上にも、たまには顔を見せるよう伝えておいて。……また、明日ね」
「はい!」
しゃんと真っすぐな後姿が見えなくなるまで見送りつつ、私は自分の背筋を正す。そして歩き出す。行き先は地下迷宮、最後の実戦訓練に臨むため。
私は守ってみせる。王妃様も、エリシャの人生も、私の手の届く限りのみんなを──この輪具に宿る黒き魔鎧で。
明日は聖騎士任命式典──ついに、運命の日。
彼女はお母様の級友──すなわち、お父様やアリオスとも同じクラスの一員だったことになる。
改めて考えるとすごいクラスだ。いや、聖女と王子と忍者と悪役令嬢がいるうちのクラスも大概か。
若々しくはあるけれど、それは決して重ねた年齢が見えないという意味ではなく、あくまで年相応の自然な美しさをまとって彼女はそこに立っていた。
しなやかに、強く優しく美しく。その姿は、王国のほぼ全ての女性にとっての憧れだ。エリシャも、そして記憶の中でしか面識がない衿沙さえ例外ではなく。
彼女が十歳上の王子──現国王に見染められたとき、まだこの学園に在学中だったという。そして彼女もまたアリオス同様に下級貴族の出であり、当時は耳を覆いたくなるような憶測や流言飛語が飛び交ったらしい。
──あるいはアリオスの件が有耶無耶にされたのも、同じクラスでそれ以上の問題を起こしたくなかったから……なのかも知れない。
しかしそれら外野の声を黙らせ、さらに当時まだ根強かった家柄による格差も撤廃すべしという時流を生み出したのは、ひとえに彼女の聡明にして快活な人柄によるものだった。
「もう、五年も経つのね。やっぱりあなたは私の思った通り、とってもすてきな女の子になった」
つかつかと歩み寄り、私の顔を覗き込む。ふわりと、やわらかな花の香りがした。遠くからお姿を目にすることはあったけど、こんな風に間近でお声を掛けていただくのはお母様の葬儀以来だろう。
「うちの息子たちがね、みんなあなたのこと大好きだから。あの子たちから、ちょこちょこあなたの話を聞いていて、ひさびさに会いたいなって思っていたの」
「えっ、そんな……」
「それで用事のついでに、もしかしてとうろうろしていたのだけど。会えて良かった」
私を、探して? というか、いくら隣接しているとはいえ護衛もなしにおひとりでうろうろしていて大丈夫なのだろうか。あーだめだ、雄弁も考察も、緊張でまともに働いてくれない。
「明日は、あなたも参列するのでしょう? 聖女様とも仲が良いと聞いているし」
「あ……はい! もちろんです。あ、でも、マリカとはそこまでじゃ……」
ようやく、まっすぐ目を合わせてお返事ができた。
たしか、体調のすぐれない国王の名代として、王妃様は明日の「式典」にもおひとりで列席されると聞いていた。
「──でもね。なんとなくだけど、胸騒ぎがするの」
私は、特にエリシャは、その言葉に驚いた。彼女の直感の鋭さに。そして常に朗らかに、あるいは凛々しく振舞っている王妃様の、見たこともないような儚く不安げな表情に。
──いや、ちがう。エリシャはそれに近しいものを見たことがある。お母様の葬儀の日。私の肩を抱いてすすり泣いていた彼女の、そのまま透けて消えてしまいそうに儚い泣き顔を。
幸い、周囲に私たち以外の気配はない。──もしかしたら、だからこそ私に見せてくれた表情なのかも知れない。
「もしも……」
私は、急激に冴えていく思考の中で、転生前に友から聞いた言葉を思い出していた。私の行動次第では王妃様さえ命を落とす展開もありえる、ということを。
「……もしも何かあったら、必ず私がお守りいたします」
その言葉に、王妃様はきょとんとした表情で応える。それから、ふわり優しく微笑んでくれた。
「ふふ、そうね。エリーゼもよく、私のために怒ったり、泣いたり、守ってくれたのよ。きっとみんなに言われるでしょ、お母様によく似てるって」
私は黙ってうなずく。
「でも、あなたはエリーゼに成らなくてもいいの。あなたにはあなたの人生があるのだから、それは大切にしてほしい。きっとエリーゼも、そう願っているはず」
エリシャは、その言葉を噛みしめるように、もういちど黙ってうなずいた。
「──リーリヤ様! こちらにおられたのですか!」
廊下の突き当りから現れた護衛の女性騎士が、慌てた様子で小走りに駆け寄ってきたのは、その直後のこと。
「それじゃあエリシャ、逢えて嬉しかったわ。お父上にも、たまには顔を見せるよう伝えておいて。……また、明日ね」
「はい!」
しゃんと真っすぐな後姿が見えなくなるまで見送りつつ、私は自分の背筋を正す。そして歩き出す。行き先は地下迷宮、最後の実戦訓練に臨むため。
私は守ってみせる。王妃様も、エリシャの人生も、私の手の届く限りのみんなを──この輪具に宿る黒き魔鎧で。
明日は聖騎士任命式典──ついに、運命の日。
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