断罪魔嬢・ザ・ダークヒーロー ~破滅のさだめの令嬢は黒き魔鎧で無双する〜

草葉ノカゲ

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第三部 天嬢篇

閃光の如く

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「──仮面舞踏会マスカレイド開宴はじまりよ」

 私の宣言を聞いて、さらに後ずさる魔鎧兵レギオンたち。
 彼らはきっと、今日の任務を容易いものだと思っていたことだろう。対抗手段の存在しない最強の魔鎧の力で、祭りに浮かれた王城を奇襲し、蹂躙し、制圧する。
 そのはずだったのに。

「……怯むな!」

 絞り出すように、兵長が檄を飛ばした。

「ジブリール殿の言葉を思い出せ、我らが魔鎧兵レギオンは最強だ! それを贋物ニセモノに、思い知らせるッ!」

 同時に四方の魔鎧兵レギオンから攻撃予測線レッドラインが交差しながら殺到する。その表示速度と正確性は、明らかに以前より増していた。
 なぜならそれらを統括する額の紫水晶サードアイが、へと換装されているから。

「──あら、こちらのほうが神遺物ホンモノに近くてよ?」

 両サイドから挟撃する紅い拳を、それぞれの手首を掴んで止める。私の黒く鋭い魔爪が、紅い装甲に喰い込んでいた。

 二人の魔鎧兵とのがたの腕を掴んでそのまま、私は宮廷舞踏ダンスを舞うようにくるりと廻る。

 そして、前後から迫っていた残り二体がその廻転ターンに巻き込まれた瞬間に、両腕を離すのだ。結果、二体ずつの魔鎧兵レギオンが手足をおかしな方向にねじ曲げながら絡み合って、左右に吹っ飛び地面を転がることになる。

「な……!?」

 眼前で四人の部下を瞬時に無力化され、呆然とする兵長。彼が状況を理解し切る前に私は、その紅い鉄仮面で覆われた頭部を右手で鷲掴みにして。

「くっ、離せバケモノッ!」

 両手で必死にそれを引き剥がそうとする兵長の、ご立派な金ラインが走る胸部装甲に──

「ダメでしょう、令嬢レディにバケモノだなんて」

 ──込めた魔力の紫光を纏う、左拳の乱打を叩き込む!

「我が名はレイジョーガー、黒き魔鎧の魔戦士ダークヒーロー

 ボコボコに凹んだ胸部装甲が、その周辺から薄赤い光の粒子になって消滅していく。魔鎧が機能を失ったことで戦意喪失した兵長から、紅い兜を引き剥がし、顕わになった青年の怯え切った表情に、私は告げる。

「どうぞお見知りおき、くださいませ」

 あとは近衛騎士に任せればいいだろう。周囲の状況を把握すべく、私は額の第三の目サードアイに意識を集中する。
 そこに新たに埋め込まれているのは、私が五歳の誕生日から肌身離さず身に着けてきたお母様の形見──魔力制約器リミッターだった紫水晶。お父様の手で魔紋を書き換え、魔力制御器プロセッサーに作り変えた「オマモリ」だ。

 ──への換装、とはつまりそういうこと。

 そして視界に浮かぶ様々な情報。敵味方の数と位置関係、行動予測が半透明の3Dモデルとして投影される。パニックにまで到ってはいないが、参列者たちの避難はあまり上手く運んではいないようだ。

 マリカとリヒトは舞台上、その奥には王妃様もいる。
 マリカはだから言うまでもないが、王子も王妃も同様に、民を差し置いて避難するようなことはしないだろう。パラディオン王国にも高貴さの義務ノブレス・オブリージュが根付いているから。

 ならば、侯爵令嬢わたしの行くべき場所はひとつ。

 身を屈め、両手を地面に着けた私は、クラウチングスタートのように大地を蹴る。ただしダッシュではなく、上空への跳躍──の頂点から、両肩紫炎噴射ショルダージェットによる高速落下で、舞台上に三点着地を決めていた。

「貴公は──!」

 魔鎧兵レギオンと同様に上空から着地した、なおかつ一度こっぴどくやられた相手である私に、リヒトが当然の敵意と聖剣の切っ先とを向けてくる。

「待ってたよ、エリオットくん」

 対するマリカはリヒトの背後から身を乗り出し、来るのが当然と言わんばかりだ。その動きのせいで、リヒトは下手にこちらを攻撃することもできない。──聖女様に感謝。

 そして、会場に背を向けた恰好で屈んでいた私は、ゆらりと立ち上がりながら振り向いた。
 参列者は約百人と聞いている。対して第一陣の魔鎧兵レギオンは、兵長用一体と通常型四体からなる五体編成の五部隊、計二十五人。──うち五体は、たったいま私が瞬殺した。

「落ち着くのです、パラディオンの民よ」

 鋭い牙並ぶあぎとが意匠された口部マスクに、搭載した魔紋式拡声装置スピーカーから会場全体へと私の声が響き渡る。 

「そして、よく聞きなさい」

 魔力で増幅した音声には当然、魔力が乗る。この半年でさらに磨き上げた魔力に伴って、強まった威光オーラ求心力カリスマを両翼に、エリシャわたし雄弁ことばはここにいる全員の心に届くだろう。

 私は、右手に掴んできた魔鎧兵レギオンの兜を、高々と頭上に掲げた。所々から紅い光の粒子を血のようにこぼすそれを、まるで獲ってきた生首くびのように。

 その姿は、さぞや恐ろしく、忌まわしく映ることだろう。
 それでいい。ダークヒーローが大好きな私は、よく知っている。
 向けられる畏怖が大きければ大きいほど、深ければ深いほど──

「魔戦士ダンケルハイトの御名のもと──王国に仇なす者どもは、このレイジョーガーが討ち砕く!」

 ──味方になった時、最強に心強いということを。

 そして私は魔鎧兵レギオンくびに、魔力を込めた黒爪を喰い込ませ、ぐしゃりと握り潰した。粒子化が一気に進み、それは紅い花が散るように、舞台上で霧散していた。
 低い歓声が、ざわめきのように会場を包む。

「だから落ち着いて、この子たちの誘導に従いなさい」

 集まる視線のなか、たったいま敵を砕いた手で指し示した先には、いつの間にかふわふわと白く光る球体がいくつか浮かんでいる。
 その真下、舞台の前方で魔杖を掲げるラファエルが生み出した、メラるんたちだ。しかも彼らは事前に会場中のテーブル下に潜んでいて、このタイミングでラファエルの命を受け、一斉に活動を開始したのだ。参列者たちを、避難場所に導くために。

 そして、これで魔鎧兵かれらは私を最優先の排除目標にせざるを得ないだろう。案の定、全員の行動予測がこの舞台上に向かっていた。最初に吹っ飛ばした四体のうち二体も復活し、その動きに同調している。
 
「ダンケルハイト、だと……どういう、ことだ?」

 混乱しながらも、リヒトは剣の切っ先をゆっくりと降ろす。マリカはその背後うしろで、微笑んでいるように見えた。
 彼女たちには騙していたことを謝らなければいけないだろう。でも、それは後の話だ。運命に打ち勝つことが出来たら、その後で土下座でもなんでもしよう。
 
 だから今は、舞台前方に集結しつつある二十体超の魔鎧兵レギオンたちを倒さねばならない。
 私は再び額の紫水晶サードアイに意識を集中し、魔力制御器プロセッサー機能モードを、情報収集サーチから殲滅デストロイに切り替えていた。
 そして両手を左右からそれぞれ、額に指先そえるように構える。

零星──レイジョォォォ

 さあ! 一網打尽にしてあげる!

──煌閃ビィィィムッ!」

 紫水晶サードアイはげしく輝き、そこから紫光ひかりの束がほとばしっていた。
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