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第三部 天嬢篇
魔鎧将
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「零星 煌閃ッ!」
額の紫水晶から迸る、私の身長と変わらぬ径の光束が、魔鎧兵たちを呑み込んでいく。
一体も逃さぬよう舞台上から見下ろして視線を巡らせ、会場中央を庭園の端まで掃討する。それは少なからず参列者たちも巻き込みながら、やがて細く収束して消えた。
「なんてことを!」
声を荒げるリヒトの背を、よく見なさいと言いたげにマリカがぽんぽんと叩く。
光を浴びた参列者たちは、驚き慌ててはいたが、無傷でそこに立っていた。
ただ魔鎧兵たちだけが、まとっていた紅い装甲の大半を消し飛ばされ、紅い粒子の残滓をまといながら呆然と立ち尽くしている。
ど真ん中で直撃を喰らった数人は、ほぼ下着姿だった。
原型により近い魔紋による、下位魔紋への干渉。
これを突き詰め、魔鎧を自壊させる魔力照射としてお父様が作り上げた対魔鎧兵の切り札こそ、この「零星煌閃」である。
実際に魔鎧に対して使うのは初めてだったが、さきほどの魔力を込めた乱打の結果と、お父様への信頼から、効果があることは確信できていた。
ただし、使用するには調整した魔力を事前に紫水晶に充填する必要があるため、再充填しない限り、放てるのは一発だけだ。だからこそ、使うからには一網打尽を狙う必要があったのだ。
丸腰で棒立ちの帝国兵に近衛騎士たちが素早く駆け寄り、手際よく取り押えていく。今日の会場警備の指揮統括はユーリイのはず。あとでたくさん褒めてあげなくては。
「マリカ、どんな感じ?」
そこで私は彼女に、とても漠然とした問いかけをする。この襲撃に最速で気付いたのも彼女だった。聖女としての天啓じみた危機察知は、現状をどう見るのか。
「──まだ。これからが、本番っぽい」
やっぱりそうか、と私はひとつ頷く。
エリシャが魔鎧兵に蹂躙される運命は、たった今ねじふせた。そしてここからが本番──「修正力」との戦いになるのだろう。
半年前、私は「修正力」を前に、魔玄籠手の強奪を防ぐことが出来なかった。だが、今日こそは守る。私はエリシャを守り切ってみせる。
──決意を固めて見上げた空に、待っていたかのように黒穴がひとつ開いた。
そこから会場の中央に降り立ったのは、通常の魔鎧兵より鮮やかな真紅の装甲だった。その額には一角獣の如き一本角が屹立している。私は、その真紅に見覚えがあった。
「ふぅ、やれやれ。まさか先行試整品を隠していたとは。クラウスどのも、なかなかに食えない男ですね」
そいつは大袈裟に肩をすくめながら、芝居がかった調子でのたまう。
「とは言え完成した試整壱型改め、この華麗なる魔鎧将グレギオンの前に、そんな邪悪な外見では端役の運命しかなさそうですが」
やはりあいつ──エリシャの破滅の元凶たる、変態魔学者ジブリールに違いない。
試整壱型と試整零型は、兄弟のようなもの。使用者限定を解除していないぶんこちらの方が原型魔紋に近いものの、干渉効果は期待しないほうがいいとお父様から助言を受けている。
不完全だった装甲を補うような追加装甲と、魔鎧将とかいう仰々しい名から、きっとそれなりの強化改造も施されていることだろう。──まあ、そのネーミングは嫌いじゃないけど。
とにかく量産型とは別物と考えるべき。決して油断ならぬ相手だ。
「それにしても、避難が早すぎますね。もっとこう阿鼻叫喚の大虐殺を期待していたのに、あれだけの人数を一体どこへ隠したんです?」
完全無視を決め込んだ私からの回答を諦めて、ぐるりと会場を見渡した彼は、その後方、庭園の端に目を停めた。
そこでは、ちょうど逃げ遅れた数人がメラるんに先導されて、石碑の台座の影に消えていくところだった。
「ほう、これは……あの地下迷宮を避難場所にしたか……」
声のトーンが、急に変わった。おそらく、一瞬で私が瘴牛鬼を倒したことまで理解し、警戒レベルを引き上げたのだろう。その明晰さも、やはり侮れない。
「いやあ、過剰戦力かと思いましたが、やはり全投入で正解だったようですね」
「──まだ来る。あと四か、五」
ジブリールの言葉を受け、上空を見て呟くマリカ。それを追うように、続けざま開いた黒穴から、真紅の魔鎧が地響きを上げ降着していく。
「試整弐型、参型、四型、伍型」
自分を囲んでゆく彼らを、ジブリールは誇らしげにカウントしていった。
額には番号と同じ本数で大小の角が生え、武装も異なっている。
それぞれ、鋸刃の大剣を携える戦鬼型、巨大な戦槌を引きずる重装型、大鎌を担ぐ死神型、両腕が異様に巨大な獣人型──といったところか。
私の思考に追随して、視界の中の彼らにも名札が付与されていく。
「見たまえ、彼らこそグレギオン四鎧将! 恐れ入ったかな!」
フハハハと言い放ち高笑いをはじめた彼を、私は冷めた目で見つめながら。
「聞いてリヒト先輩、いいえ──」
そう呼びかける。彼が未だ私──レイジョーガーに猜疑心を抱いていることはわかっている。しかしここからはきっと、彼の力が必要になる。
「──ミハイル王子」
額の紫水晶から迸る、私の身長と変わらぬ径の光束が、魔鎧兵たちを呑み込んでいく。
一体も逃さぬよう舞台上から見下ろして視線を巡らせ、会場中央を庭園の端まで掃討する。それは少なからず参列者たちも巻き込みながら、やがて細く収束して消えた。
「なんてことを!」
声を荒げるリヒトの背を、よく見なさいと言いたげにマリカがぽんぽんと叩く。
光を浴びた参列者たちは、驚き慌ててはいたが、無傷でそこに立っていた。
ただ魔鎧兵たちだけが、まとっていた紅い装甲の大半を消し飛ばされ、紅い粒子の残滓をまといながら呆然と立ち尽くしている。
ど真ん中で直撃を喰らった数人は、ほぼ下着姿だった。
原型により近い魔紋による、下位魔紋への干渉。
これを突き詰め、魔鎧を自壊させる魔力照射としてお父様が作り上げた対魔鎧兵の切り札こそ、この「零星煌閃」である。
実際に魔鎧に対して使うのは初めてだったが、さきほどの魔力を込めた乱打の結果と、お父様への信頼から、効果があることは確信できていた。
ただし、使用するには調整した魔力を事前に紫水晶に充填する必要があるため、再充填しない限り、放てるのは一発だけだ。だからこそ、使うからには一網打尽を狙う必要があったのだ。
丸腰で棒立ちの帝国兵に近衛騎士たちが素早く駆け寄り、手際よく取り押えていく。今日の会場警備の指揮統括はユーリイのはず。あとでたくさん褒めてあげなくては。
「マリカ、どんな感じ?」
そこで私は彼女に、とても漠然とした問いかけをする。この襲撃に最速で気付いたのも彼女だった。聖女としての天啓じみた危機察知は、現状をどう見るのか。
「──まだ。これからが、本番っぽい」
やっぱりそうか、と私はひとつ頷く。
エリシャが魔鎧兵に蹂躙される運命は、たった今ねじふせた。そしてここからが本番──「修正力」との戦いになるのだろう。
半年前、私は「修正力」を前に、魔玄籠手の強奪を防ぐことが出来なかった。だが、今日こそは守る。私はエリシャを守り切ってみせる。
──決意を固めて見上げた空に、待っていたかのように黒穴がひとつ開いた。
そこから会場の中央に降り立ったのは、通常の魔鎧兵より鮮やかな真紅の装甲だった。その額には一角獣の如き一本角が屹立している。私は、その真紅に見覚えがあった。
「ふぅ、やれやれ。まさか先行試整品を隠していたとは。クラウスどのも、なかなかに食えない男ですね」
そいつは大袈裟に肩をすくめながら、芝居がかった調子でのたまう。
「とは言え完成した試整壱型改め、この華麗なる魔鎧将グレギオンの前に、そんな邪悪な外見では端役の運命しかなさそうですが」
やはりあいつ──エリシャの破滅の元凶たる、変態魔学者ジブリールに違いない。
試整壱型と試整零型は、兄弟のようなもの。使用者限定を解除していないぶんこちらの方が原型魔紋に近いものの、干渉効果は期待しないほうがいいとお父様から助言を受けている。
不完全だった装甲を補うような追加装甲と、魔鎧将とかいう仰々しい名から、きっとそれなりの強化改造も施されていることだろう。──まあ、そのネーミングは嫌いじゃないけど。
とにかく量産型とは別物と考えるべき。決して油断ならぬ相手だ。
「それにしても、避難が早すぎますね。もっとこう阿鼻叫喚の大虐殺を期待していたのに、あれだけの人数を一体どこへ隠したんです?」
完全無視を決め込んだ私からの回答を諦めて、ぐるりと会場を見渡した彼は、その後方、庭園の端に目を停めた。
そこでは、ちょうど逃げ遅れた数人がメラるんに先導されて、石碑の台座の影に消えていくところだった。
「ほう、これは……あの地下迷宮を避難場所にしたか……」
声のトーンが、急に変わった。おそらく、一瞬で私が瘴牛鬼を倒したことまで理解し、警戒レベルを引き上げたのだろう。その明晰さも、やはり侮れない。
「いやあ、過剰戦力かと思いましたが、やはり全投入で正解だったようですね」
「──まだ来る。あと四か、五」
ジブリールの言葉を受け、上空を見て呟くマリカ。それを追うように、続けざま開いた黒穴から、真紅の魔鎧が地響きを上げ降着していく。
「試整弐型、参型、四型、伍型」
自分を囲んでゆく彼らを、ジブリールは誇らしげにカウントしていった。
額には番号と同じ本数で大小の角が生え、武装も異なっている。
それぞれ、鋸刃の大剣を携える戦鬼型、巨大な戦槌を引きずる重装型、大鎌を担ぐ死神型、両腕が異様に巨大な獣人型──といったところか。
私の思考に追随して、視界の中の彼らにも名札が付与されていく。
「見たまえ、彼らこそグレギオン四鎧将! 恐れ入ったかな!」
フハハハと言い放ち高笑いをはじめた彼を、私は冷めた目で見つめながら。
「聞いてリヒト先輩、いいえ──」
そう呼びかける。彼が未だ私──レイジョーガーに猜疑心を抱いていることはわかっている。しかしここからはきっと、彼の力が必要になる。
「──ミハイル王子」
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