断罪魔嬢・ザ・ダークヒーロー ~破滅のさだめの令嬢は黒き魔鎧で無双する〜

草葉ノカゲ

文字の大きさ
59 / 64
第三部 天嬢篇

決戦の空

しおりを挟む
 ──レイジョーガー、絶聖騎装パラディンフォーム

 漆黒と白銀の魔鎧を纏った私は、背のマントが一瞬で変形した白翼つばさを大きく拡げ、火球の待ち受ける青空へと飛翔していた。

 魔力が負の側に変質すれば、万物に害を為す魔瘴ましょうになる。
 対して、教団が管理する聖なる魔紋──聖魔紋を通して正の側に昇華されたものが、治癒や護りの形で発現する聖なる魔力。ちなみに魔学上で正式には「綺力きりょく」と呼ばれる。

 マリカは、この聖なる魔力──綺力を聖魔紋なしで自力生成できる。
 そういう者は稀に存在して、教団に招聘スカウトされゆくゆくは高位の神官になったりする。マリカが聖女とくべつ扱いされているのは、その出力と容量、そして応用力が尋常じゃないからだ。
 まあ、そのへんについてはこの目で見てよく知っている。

 彼女から絶聖の加護を受け、その綺力を共有した状態の私は、再び地上に向けて放たれた巨大な火球の表面に、つい先刻と同様に掌を向けていた。
 ただし漆黒の右手ではなく、白銀の左手を。

 ──昇華サブリメイション

 それはなにひとつ特別な技ではない。聖女として、自分マリカの内側で普通にやっていたことを、ただ外側に向けるだけ。

 掌で優しく触れた火球の紅い表面が、そこから純白に変じてゆく。すべてを焼き尽くす紅蓮の火球は一瞬で、淡く光る無数の羽根の塊に変じ──空中に、四散していた。
 もしかすると絶聖の加護とは、この凄まじい力の乱用を防ぐための、二段階認証的な仕組みシステムなのかも知れない。

 そんなことを考察する私の視界に、舞い散る光の羽根たちの上空で黒翼つばさを拡げる、巨大な黒龍の姿が映っていた。
 その頭部、額の中央に埋め込まれた紅仮面ジブリール柘榴石ガーネットの双眸と、目が合う。

「なんだ──なんなんだそれは! そんなもの、そんな出鱈目でたらめあっていいものか!」

 そこから発せられたジブリールの声は怒りに震えていて、仮面も同様に震えているように見えた。ただ、魔鎧龍ファヴニールは無感情な六眼で私ごと地上を睥睨みおろしながら、黒翼つばさをはばたかせている。

「あなたが無知なだけでしょう? 絶聖の加護が最強だなんて、王国このくにじゃ乳飲み子でさえ知っている」

 瞬間、黒龍の右腕──魔玄籠手マガントレットに相似した巨腕から、私の頭上へと攻撃予測線レッドラインが描かれた。絶聖騎装パラディンフォームでも変わらず、紫水晶アメジスト第三の目サードアイは私をサポートしてくれている。

「黙れよ小娘ッ!」

 黒翼がごうと空を叩く。高速で降下してくる黒龍の振り上げた右腕の、五指に並ぶ馬上槍ランスじみた爪が、うそぶく私を強襲していた。

 ──激突の衝撃波が、眼下にそびえる王城の尖塔をびりびりと震えさせる。

 頭上にまっすぐ掲げた私の漆黒の右腕、その先の手のひらは、黒龍の巨大な中指の爪の先端を、ぴたりと受け停めていた。
 空中なのに?とジブリールも疑問を抱いたことだろう。
 しかし、そもそも私の背の翼はすでにマントに戻っている。にもかかわらず、大地に根差したように悠然と天に立つ・・私の足元には、先ほど舞い散った羽根たちが集って、光の足場を作り出していた。

「はあアァッ?!」

 苛立ちに満ちた奇声を上げるジブリールを、私は白銀の左手で指差す。その動きに連動して、周囲の空間を漂う羽根たちが黒龍の額に殺到した。獲物をむさぼ殺人魚ピラニアのように。

「やめろッ、やめろぉッ!」

 黒龍の首を振りまわして羽根を払いのけるも、すでに仮面の八割は昇華されて、ジブリールの引きった素顔が露わになる。

 ただ、受け停めた黒龍の爪を昇華することはできそうになかった。神遺物レリックの力に加え、疑神化チートで絡み合うよう複雑に増強された魔鎧龍ファヴニール本体の魔力結合は、さすがに堅固だった。
 
 そして同時に私は、手のひらから流れ込む子供たちの苦しみと哀しみと怨嗟の声に、心臓を絞めつけられていた。マリカが号泣していたのは、おそらくこれを何倍もの解像度で、たったひとりで、身構える間もなく受け止めたからなのだろう。

 ダンケルハイトの声は言った。全員みんなを守って、と。
 私にできるだろうか。いや、やるしかない。でなければ、推しヒーローたちに顔向けできない。

 メギャッ──と、どこかで覚えのある異音を響かせ、私の黒き悪魔の右手は、黒龍の爪の先端を握りつぶしていた。

「……ぐッ……ああ……まったく貴女アナタは、つくづく私の計画シナリオを邪魔するのですね」

 ジブリールの声に、冷徹さが戻ってゆく。黒翼つばさを大きくはばたかせて離脱しながら放った、後ろ足の爪の一撃を、しかし私は白銀の左手の甲に形成した光盾バックラーで弾き飛ばしていた。
 それを意にも介せず上空に舞い上がった魔鎧龍ファヴニールの、振り回した長い尻尾は、先端から順に関節ごとばらばらに分離して、空中に放出されてゆく。
 少しずつ形状の違う無数のそれらの姿は、紅い単眼ひとつめと黒い牙ならぶ顎を持つ、歪形いびつなクリーチャーだった。

「しかし最後にわらうのは私だ! 行け、鱗蟲リンムども!」

 クリーチャーたち──鱗蟲から攻撃予測線レッドラインは伸びない。つまり、狙いは私ではないということ。彼らは半透明の薄紅い蟲翅はねを高速で震わせ、一斉に地上へと降下していった。
 それは伝説にも記載のある、絶聖の加護の攻略法。すなわち加護の供給源である聖女への攻撃だ。そして本来、それを守ったのが魔戦士ダンケルハイトだった。

 影狐一人で、この数からマリカを守り切るのはさすがに難しいだろう。ジブリールは用意周到で、いつも結局、最後の最後に私の手は届かない。そして今回も──

 私は地上に目を向ける。
 そこでは縦横無尽に跳びはねる影狐が、魔刀玄逸クロイツを片手に空中の鱗蟲を斬り伏せていた。

 その合間を縫って、長く長く伸びた腕で鱗蟲を掴み、地面に叩きつけては、そのままゼリー状の物体で包み込んで動きを封じる、魔物じみた動きの赤黒い人型。
 それはお父様とアリオスが昨夜も遅くまで熱心に共同研究していた、全身を瘴粘スライムで覆う擬似魔鎧……あれ、完成したんだ……。
 纏っているのは、だいぶイメージを覆されて私の中のエリシャの部分がざわついているが、適正のあるミハイルだろう。

 更には空を裂いて飛ぶ三日月状の刃も、鱗蟲を撃墜してゆく。その使い手は、きっとマリカのヒロイン力に陥落したのだろう、四鎧将シガイショウ死神型デスだった。

 それらの防衛圏をかいくぐった先に待ち受けるのは、蒼き魔鎧を右腕にのみ纏ったアズライルの神速の鉄拳だ。劃式纏装かくしきてんそう、これもお父様の仕業か。

 ──とてつもなく心強い仲間たちを一瞥して、視線を上空の黒龍に戻す。

 私の中に、少しだけ不安が生まれた。
 だって、こんな最高の物語を実体験してしまったら、もう、大好きな特撮フィクションを楽しめなくなってしまうんじゃないか、と。
 まあでもきっと大丈夫。推しそれ推しそれ実体験これ実体験これ

 うん。なにひとつ迷いはない。

 私はマントを翻す。白い光を纏ってひらめくそれは、周囲に舞う光の羽根たちを巻き込みながら大きく拡がって、真横にまっすぐ伸ばした私の黒い右腕を包み込んでゆき──

零聖剣れいじょうけん──」

 ──おそろしく長大な、光の剣を形成していた。
 刃渡りは、私の身長の三倍以上あるだろう。日本刀を思わせる、ゆるやかに反り返った白光の片刃には、断罪刃ギロチン紫光かがやきが波打つ刃紋として宿る。

 この剣で、運命、宿命、天命、すべて断ち斬る!
 
 左肩にわずかに残っていたマントが、片方だけの翼となった。
 右の手首を返して刃を上に向け、足場となる羽根たちを蹴り、片翼をはばたかせ──光の軌跡を引きながら、私は天へと飛翔する。

「──天冥斬てんめいざん!」

 そして黒龍の股下から、呆然とするジブリールの脳天までを、翔け昇りざま一刀に両断した。
 断末魔の咆哮と共に、中央センターに真っすぐ紫光の線が走り、そこから巨体は上下に──次の刹那、すべてが白い羽根となって散華する。
 
 雪のように踊る羽根の中を、片翼だけでゆっくりと舞い降りる私。剣はすでに翼に戻っていたけれど、包み込むように折りたたんだまま、そちらで羽ばたくことはしない。

 鱗蟲はすべて黒龍──魔鎧龍ファヴニールと同時に消滅し、地上には残っていなかった。
 荒れ放題の庭園に降り立った私はひざまずいて、折りたたんでいた右の翼を、地面を優しく撫でるように拡げる。

 光の羽根が敷き詰められて、その上に並んで寝転んだ子供たちが、安らかな寝息を立てていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

転生モブは分岐点に立つ〜悪役令嬢かヒロインか、それが問題だ!〜

みおな
恋愛
 転生したら、乙女ゲームのモブ令嬢でした。って、どれだけラノベの世界なの?  だけど、ありがたいことに悪役令嬢でもヒロインでもなく、完全なモブ!!  これは離れたところから、乙女ゲームの展開を楽しもうと思っていたのに、どうして私が巻き込まれるの?  私ってモブですよね? さて、選択です。悪役令嬢ルート?ヒロインルート?

政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~

巫叶月良成
ファンタジー
政治家の娘として生まれ、父から様々なことを学んだ少女が異世界の悪徳政治をぶった切る!? //////////////////////////////////////////////////// 悪役令嬢に転生させられた琴音は政治家の娘。 しかしテンプレも何もわからないまま放り出された悪役令嬢の世界で、しかもすでに婚約破棄から令嬢が暗殺された後のお話。 琴音は前世の父親の教えをもとに、口先と策謀で相手を騙し、男を篭絡しながら自分を陥れた相手に復讐し、歪んだ王国の政治ゲームを支配しようという一大謀略劇! ※魔法とかゲーム的要素はありません。恋愛要素、バトル要素も薄め……? ※注意:作者が悪役令嬢知識ほぼゼロで書いてます。こんなの悪役令嬢ものじゃねぇという内容かもしれませんが、ご留意ください。 ※あくまでこの物語はフィクションです。政治家が全部そういう思考回路とかいうわけではないのでこちらもご留意を。 隔日くらいに更新出来たらいいな、の更新です。のんびりお楽しみください。

転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す

RINFAM
ファンタジー
 なんの罰ゲームだ、これ!!!!  あああああ!!! 本当ならあと数年で年金ライフが送れたはずなのに!!  そのために国民年金の他に利率のいい個人年金も掛け、さらに少ない給料の中からちまちまと老後の生活費を貯めてきたと言うのに!!!!  一銭も貰えないまま人生終わるだなんて、あんまりです神様仏様あああ!!  かくなる上はこのやり直し転生人生で、前世以上に楽して暮らせる隠居生活を手に入れなければ。 年金受給前に死んでしまった『心は常に18歳』な享年62歳の初老女『成瀬裕子』はある日突然死しファンタジー世界で公爵令嬢に転生!!しかし、数年後に待っていた年金生活を夢見ていた彼女は、やり直し人生で再び若いままでの楽隠居生活を目指すことに。 4コマ漫画版もあります。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

処理中です...