CHANGELING! ―勇者を取り巻く人々の事情―

かとりあらた

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俺のためのお前のこれまで

第2話 元幼なじみの事情(2)

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 ――話は今日の夕方まで遡る。
 ハンスは魔獣狩りの行きと帰りに、私のところへ顔を出すのが日課になっていた。再会したばかりの頃と違い、私のおしゃべりにも付き合ってくれる。
「……おみあい?」
 明日は朝早くから遠出するので会えないと言えば理由を訊かれ、素直に答えたら首を傾げられた。私が見合いをするのはそんなに意外か。失礼な奴だ。
「そう。ここらへんは昔から見合い結婚が多いんだ。私も前からたまにしてたけど、姉さんが美人で有名だからって勝手に期待して、実物見るとあからさまにがっかりするんだよ。酷いよなー」
「なら断ればいいだろ」
「簡単に言うなって。一生独身ってわけにもいかないし、二十過ぎたら話がこなくなるからあんまり余裕もないんだよ」
 そしてこの村には歳の近い独身男がいないから、遠征もやむなしというわけだ。
「せめて巨乳だったらなあ」
「巨乳だったらなんだよ」
「おっぱいさえあれば、一点突破も夢じゃない」
 そんな話をして別れたわずか数時間後、ハンスは私の部屋にやってきた。
 すっかり寝入っていた私は、突然の侵入者に押さえつけられ最初こそ混乱したが、
「なんだハンスか。脅かすなよ」
 親しい顔に安堵した。
「こんな時間にどうしたんだ?」
 普通に考えれば、頭の中がお花畑と言われたって仕方のない反応でも、相手はハンス。弟の悪戯を寛大に許す兄か姉の心境で、私に覆い被さるハンスの顔を見つめた。
「……見合いなんて行くな。どうせまたろくでもない男だ」
「無茶言うなよ。紹介してくれた人の顔もあるし……それに今度こそいい人かもしれないだろ」
「いい人だったら、なんだって言うんだ」
「うん? ――ん?」
 違和感のままに、視線を下ろす。
「え……なんで?」
 ハンスの手が私の胸を揉んでいた。ここで私は、ようやく自分がまずい状況であることに気付いた。
「なんでだと思う?」
 顔を歪めるハンスに、私がつい口走った答えとは。
「……悪戯?」
「レティのお見合いが失敗するのは、顔や胸とかの問題じゃなくて、単にレティがどうしようもない馬鹿だからじゃないか?」
 少なくともここで強気に出るほど馬鹿じゃなかった私は、今度こそ言葉を選んで丁寧に訊ねる。
「……馬鹿の私に教えて欲しいのですが、これから私はどうなるのでしょうか?」
「そんなに怯えなくても、いきなり突っ込んだりはしない。できるだけ痛くないよう、じっくり時間をかけて解すから」
「それはそれでいたたまれない気が……いやそうじゃなくて! なんで突っ込む気満々なの!?」
「男と結婚する気があるってわかったから」
「へ?」
「結婚なんてしたら、俺より旦那を優先するだろ? 俺より旦那を大切にして……俺よりずっと長く旦那と一緒にいるってことだ」
「……正直、深く考えてなかった」
 言われてみればその通り。男友達を旦那より優先するなんて許されるわけがない。浮気を疑われてしまう。
「やっぱり馬鹿だ。死んでも治らないなんてどこまで馬鹿なんだ」
 ハンスがあからさまに嘆いた。
「結婚は最初に考えた。でも前は男だったわけだし、男相手は抵抗があるのかと思うだろ。このまま一緒にいてくれるなら、無理強いするつもりはなかったのに……結婚する気だったってことは、男とするの無理じゃないんだろ? なら遠慮はしない」
「ま、待てって!」
 私はハンスの胸を押す。硬い胸板はビクともしない。
「お前男が好きなのか!?」
「レティは女だろ」
「でも俺だよ!?」
「だからいいんだ」
「……私はおまけか」
 思わず漏らした呟きは、ずいぶんと沈んでいた。当たり前のことを言われただけなのに、なんでこんなに胸が痛むのか。
「本当に馬鹿だな」
 俯いた私の頬に、ハンスの手が添えられる。
 硬くて大きな手が私の頬を撫で、長い指で私の唇をなぞる。
 妙な気恥ずかしさとくすぐったさに小さくなっていた私だったが、とうとう耐えきれず視線だけこっそり上げたら、ハンスとばっちり目が合ってしまった。
 ハンスはにっこりと笑い、私の顎を掴んで持ち上げた。
「馬鹿なレティ」
「ぁ――」
 すぐ目の前にハンスの顔があって息を飲んだ直後、私の唇に柔らかいものが押し当てられた。
 
「ん、んん、んむぅっ」
 すっかり大人になったハンスの舌は長くて分厚くて、私の倍はありそうな気がする。そんなのに勝てるわけがなくて、私の口の中は一瞬でハンスに占領されてしまった。私の舌は逃げ惑うが、あっという間に引きずり出され、嬲り者にされる。
 それだけでもいっぱいいっぱいなのに、胸まで弄ってくる。下から包むように揉んで、時々先端をすりっと擦られる。その度に甘い感覚が湧き立って、ぎゅっと目を瞑る。
 女に生まれ変わって十八年、自分で触ったこともそれなりにあるが、こんなに気持ちよかったことなんてない。ハンスに弄られてるだけでも恥ずかしいのに、しかも気持ちよくなってしまってることまで知られるなんてとても耐えられない。私は快感を必死に受け流そうと努力した。
「……ふあ」
 しばらくして、ようやく口を解放された。胸の甘い感じも消える。
 思わずほっとした私の寝間着を、ハンスが豪快にたくし上げた。
「な……やだ!」
 すかさず引っ掴んで元に戻す。
「終わったんじゃないのか!?」
「そんなわけないだろ」
 上に引っ張るハンスと、裾を掴んで止める私。
「じいさんも、人前で肌を見せるなって言ってたし!」
「俺はいいんだよ! 他の奴は駄目だけど、俺だけは!」
「その自信なんなの!?」
 半泣きで抵抗していれば、不意にハンスが私の寝間着を手放した。
 諦めてくれたのかと、私はこりもせず期待して――ハンスの顔を見て固まった。
 なぜそんなにも、凶悪な顔をしているのか。
「もっといいの買ってやるな?」
 びり、びりりりりりぃ――。
 力の向きを縦から横へ。勇者の腕力を前に、着古したぼろい寝間着はあっけなく敗れ去った。
 でも私に酷いと文句を言う暇はなかった。
「ううぇうっ!?」
 ハンスが丸出しになった私の乳首を吸う。
「っ……なんでぇ……?」
 乳首をこうも温かくねっとりと包み込まれる感覚は初めての経験で、未知の刺激に竦み上がる。
「やだ、や、ん、あぁ……っ」
 暴君の舌は舐めたり、突っついたり、押し潰したりと今度もやりたい放題だ。
 もう片方の乳首も弄られて、まだ紳士だと思われた手も、結局はハンスの一部でしかないと思い知らされた。
「あ、んん……ひあ……ひゃうぅ……」
 抑え切れず、恥ずかしい声がどんどん漏れてしまう。ハンスの頭を押し退けようとしても、ビクともしない。
 耐えるしかない私に、化けの皮が剥がれた紳士は更なる暴挙に出た。
「そこ、は……ん……っ」
 前から中指三本を横並びで股間に添え、ぐっと押し上げてきた。更に二度三度とぐいぐい押してくる。
「押さないで……んうぅっ」
 抗議すれば、今度は指一本でくすぐるようになぞられる。
「もう無理だから、や、ッ~~!」
 しまいには下着越しながら、割れ目の少し上を抓まれて私は仰け反った。
「あ、あ、や、あぁ、んっくぅぅ!」
 下着の中に手を突っ込まれて直接弄られたら、限界はすぐだった。
「あ、あぁ~~――……ッ」
 私はとうとう達してしまった。
「はあ……」
 頭がぽーっとする。すごかった……それしか言葉が浮かばない。するすると足からパンツが抜かれるのもただ見てた。
 そして気付いた時には、ハンスも上の服を脱ぎ捨ててしまっていた。
 想像通り、ハンスは鍛えた身体つきをしている。ぼんやりと見つめていたら、視界が滲んできた。
「……泣くほど俺が嫌なのか」
 違う。違うよ。馬鹿なハンス。でも私はもっと馬鹿だ。
「傷、いっぱいだ」
 逞しい筋肉の上には、たくさんの傷痕が刻まれていた。小さいものも大きいものも、深いものも浅いものも、数え切れないほどたくさんある。こんなのは、昔のハンスにはなかった。
 ハンスは同年代の誰よりも小さくて細くて、ケンカなんてせいぜい手は出さない俺との口ゲンカが限界だった。そんなハンスを守ってやらなくちゃと俺はいつも思ってた。
 それがどんな風に生きてきたら、こんなになるんだ?
「全部昔の傷だから。最近は怪我もほとんどしなくなった」
「でも、痛かっただろ?」
「……もう忘れた」
 転んで、足を擦りむいただけで泣いてたくせに。
「嘘つき」
 噛みつくみたいに口を塞がれた。でもなんだか滅茶苦茶で、さっきよりよっぽど激しいのに心は落ち着いてくる。このまま好きにさせるべきか悩ましくて、なんとなしにハンスの背をぽんぽんと叩く。
 軽くしたつもりだったが、ハンスの舌がぴたりと止まった。私の口から舌を抜き、すっと唇を離してしまう。
 もういいのかと思いつつ、顔の両脇に手を付いた体勢で見下ろしてくるハンスを見つめ返す。
「なあ、ひとつだけ訊いてもいいか?」
 いつの間にか私の涙は止まっていた。
「……なんだよ」
「ハンスは私をどう思ってる? ただ一緒にいたいだけで、これがただの手段なら……無理にしなくても、私が結婚しなければ済む話じゃないか。私はそれでもいいよ」
「俺はレティとしたい」
「そっか。わかった」
 私とすることで、ハンスが少しでも幸せを感じてくれるなら。
「抱いてくれ、ハンス」
「……いいのか?」
「その傷ごと、私はハンスを受け止めたい」
 私はハンスを抱き締めようとしたが、顔を歪めたハンスは、逃げるように上半身を起こしてしまった。身体を起こして、もう一度手を伸ばしてみても、またもや空振りする。
「……傍にいてくれるなら、無理にしなくてもいい」
「したいって言っただろ」
「怪我はレティのせいじゃない。責任なんて感じなくていい」
 脱ぎ捨てたばかりの服へ伸びた手を掴んで止める。
「言い方が悪かったな。うん、言い直す」
 私はハンスの目をまっすぐ見つめる。
「ハンス、愛してる」
 見開かれたハンスの目に、私が映っている。そんなことでも幸せを感じてしまう。
「愛してるから受け止めたいし、いろんなことを分かち合いたい。もうハンス以外は考えられない。私を受け止めてくれないか?」
 これが私の本当の気持ちだ。ごまかすために適当なことを言ってるんじゃない。
「レティ……」
「私を受け止めて、ハンス」
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