CHANGELING! ―勇者を取り巻く人々の事情―

かとりあらた

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俺のためのお前のこれまで

第22話 囚人の事情(2)

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 牢屋から出してもらえた俺は、馬くらい大きくて、眩しいくらい明るい緑色の、鳥みたいな生き物に乗せられた。
 メイカラっていう動物で、背中に人を乗せて飛べるんだって。名前はブロンっていうらしい。
「じゃあ、しっかり掴まってろよ?」
「う、うん」
 馬にも乗ったことがない俺は、前からジオさんに抱き付くよう言われた。念のためと太い紐でも結ばれる。
 二人でマントに包まるのはあったかいけど……恥ずかしいよ……。
「よし、飛べ」
「ピョロオォ――」
 わ、広げるとすごく羽おっきい。
 ブロンが走り出して、跳んで。上へ。
「おおぉ、やっぱすごいなあ。ほら、カナンも下見てみろよ」
「無理……ッ」
 ジオさんは楽しそうだけど……俺には高すぎる。それに風が強くて寒い。
 目をぎゅっと閉じて、ジオさんもぎゅうってする。恥ずかしいなんて言ってられない。
「ふ、はは、エイミみたいだ」
 エイミ? 気になってジオさんを見る。
「友達の、オーキスの妹だよ。貴族のお姫様で、ブロンもオーキスとエイミの家のなんだ。恥ずかしがりで怖がりだが、気の優しい子でさ。――カナンと一緒だな?」
 ジオさんがからから笑う。俺はますます恥ずかしくなった。
「痛い痛い……そんな力入れなくても、ふざけるか、よっぽど運が悪くなきゃ落ちないって」
「……俺、運の悪い奴だってよく言われる」
「そっか……」
 ジオさんが頭を撫でてくれた、けど。これはあんまり嬉しくないかも……。

「ポイペンにある一番大きな山が、もうすぐ噴火する」
 顔がくっつきそうなくらい近いから、びゅうびゅうって音がすごくてもジオさんの声がなんとか聞こえる。
 ポイペンってたぶん、二番目の都って言われてる所だ。俺は行ったことないしよく知らないけど、二番目なのに一番だって誰か言ってたのを聞いたことがある。
「噴火するだけならまだいいんだが、今回は火砕流ってのが起きるらしい。こう、山の上からとんでもなく熱いのがばーって噴き出して、一気に下へ流れるんだ。その熱いのはすごい量で、麓の家も人も埋まってしまう」
 フンカもカサイリュウもよくわからないけど……、
「埋まった人はどうなるの?」
「まず助からないだろうな」
「みんな? 死んじゃうの?」
「みんな巻き込まれたら、そうなるな」
 大変じゃないか!
「そうならないために、今から助けに行くんだ」
「助けるって、どうやって?」
 俺なんかにできることがあるのかな?
「避難はシエロ様と辺境伯に任せて、俺達は火砕流を防ぐ」
 辺境伯は、ポイペンの領主様のことだよね。でもシエロ様って誰だろう? 熱いのはたくさんなのに、たった二人で止められるの?
「順番に説明するな? まずシエロ様は枢機卿のひとりで、まあ教会のすごーく偉い人だよ。今丁度ポイペンにいて、あの人なら俺の話を聞いてくれる。辺境伯はちょっとわからないが……シエロ様ならきっと説得してくれるはずだ。ただそれでも、全員を避難させることは無理だろうな」
 それに、とジオさんは言う。
「もし避難させられたとしても、今の教会にポイペンの人全員を保護する蓄えはない。今年はただでさえ不作だし、もうすぐ冬だし」
「あの……王様は?」
「残念ながら、あの王は駄目だ。鼻で笑って見捨てるよ」
 ジオさんは前を見たまま怖い顔をする。嫌いな人を睨むみたいな顔で、この人でもこんな顔するんだと驚いてたら、今度は俺を見た。
 もう怖い顔じゃない。よかった。
「そうなったら、まず犠牲になるのは子供だ。俺を育ててくれた孤児院にいるような、身寄りのないガキンチョ達だ。それに……いや。まあとにかく、ポイペンが埋まるのは駄目なんだよ」
 難しい話はわからないけど、みんな死んじゃうのが駄目なことは俺でもわかる。
「あとは、火砕流の防ぎ方だが。噴き出すこと自体は止められないから、流れてきたのがポイペンに入らないようにする。俺の聖具でな」
 せいぐってなんだろう? あまり訊いてばっかりだと怒られるかな?
 考えていたら、ジオさんがカナンって俺を呼んだ。
「わからないなら訊いていいんだからな?」
「……うっとうしくない?」
「ないぞー。あ、でも寝てる時に叩き起こして訊かれるのはちょっとなあ」
「そんなことしないよ……」
「いや、するんだよ。うちの可愛い弟に妹達は」
「……兄弟いるんだ」
「みんな血は繋がってないけどな」
 同じ孤児院で育った子達のことだよってジオさんは教えてくれた。
「聖具っていうのは、主が与えてくれたすごい道具のことだ。剣とか盾とか槍とか形はいろいろある。俺は杖なんだが、こう、きらきらした壁が出せるんだ。ただ、立ってないと使えなくてな」
「座ったら駄目なんだ?」
「駄目なんだよ。だから俺が最後まで立っていられるよう、お前に支えて欲しい。怖い思いをさせるだろうが……お願いだ」
「……うん。俺、頑張るよ」
「ありがとな」
 本当は怖いけど……断わって、ジオさんと一緒にいられなくなったりする方が嫌だった。
 こんなに優しい人は、きっと他のどこにもいない。この人と、もっと、ずっと一緒にいたいな……。

「そろそろ降りるぞ」
「お城まで飛んで行かないの?」
 初めて見たポイペンは大きな壁に囲まれていて、その少し前でジオさんはブロンに降りるよう言った。
「それができたら早いけど、そんなことしたら射落とされても文句は言えないからなあ。派手な色で目立つしいい的だ」
 ブロンを引いて歩くジオさんの後ろに付いていく。
 ジオさんが大きくて怖そうな門番のおじさんに話しかける。俺はジオさんの後ろに隠れてた。
 おじさんはジオさんと俺とブロンを見て、なんだか余計怖い顔をしたけど、ジオさんが服の中から銀色の小さな板を引っ張り出して見せたらすごく驚いて、いっぱい頭を下げてきた。
「ほら、行こうぜ」
「う、うん」
 上から見たのより、中で歩いて見るポイペンの街はすごい所だった。
 明るい茶色の石みたいのをたくさん積んでできた家も店も綺麗で、擦れ違う人達もみんな明るい顔をしていて元気そうだ。
 最初はわあって言うだけだったけど、
「……王都もこんなだったらいいのに」
 少し落ち着いてから思った。王都の壁は、白なのにポイペンの茶色よりずっと汚く見えるんだ。たぶん、本当に汚いんだろうな……。
「もう少し辛抱すれば、王都もここみたいによくなるよ」
「ほんと?」
「ああ。そのためにも、ここを守らないと。急ごう」
 ジオさんが俺の手を握る。
 びっくりしてジオさんの顔を見たら、ジオさんが面白そうに笑った。
「人が多いから、はぐれたら困るだろ?」
「そこまで子供じゃないよ俺……」
 ……でも。
 俺はぎゅっと、ジオさんの手を握り返した。
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