CHANGELING! ―勇者を取り巻く人々の事情―

かとりあらた

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あなたのための私のこれから

第30話 姉の事情(17)

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 執拗なまでの丁寧さは、強引すぎた過去を払拭したいからだとすれば。
 俺としては、なかったことにされるのは寂しい気もするが。イオニスがこれ以上苦しむよりはずっといいと思った。
 しかしさほど間を置かず、イオニスは小さく首を振った。
「あの一件がなければ、私はあなたへの気持ちを自覚することさえできなかったでしょう。たとえ罪の記憶であっても……過去がなければ、今の幸せへ繋がれません」
 イオニスの中ではとっくに答えが出ていたのだろう。
 穏やかな声音で紡がれた言葉は、つかえることなく俺の胸に落ちた。
「ただ、その……心残りが、なくもなく」
 しかし続けて、イオニスは何やら恥ずかしそうに言いよどむ。少し視線を泳がせた後、赤い顔で俺を見つめて曰く。
「欲ではなく、愛を以てあなたと結ばれたい。今夜をその始まりとしたいのです」
 つまりこのねちっこい前戯は、イオニスなりの精一杯の愛情表現ということか。
 ……まったく、不器用な奴め!
 俺まで余計に照れていると、イオニスが不安そうな顔をしていた。
「んもう、嫌だとは言っておりませんわ」
 我ながら可愛くない言い方だったと思うのだが、イオニスはぱあっと顔を明るくする。
「ありがとうございます」
 お前が可愛いかよ。まがりなりにも女として生きてきた身としては、いくばくかの敗北感を覚えなくもない。
「続けますね……」
 いそいそと再開するイオニス。
「ん……♥」
 ようやく指が根元近くまで埋まった。
 そして指をなじませるように挟まれた小休止で、俺は息を整える。
「動かします」
「はい……あ……っ♥」
 イオニスの指が、触診するかのように俺の中を探ってきて。目も、ささいな反応だろうが見逃さないと言うかのごとく見つめてくる。
「やはり、ここが……」
「ん……っ♥」
 そこ、いい。
 以前も触れられたことがある所。軽く押されただけで、足をぎゅっと閉じてしまう。
「あ……あぁ……ん、ん♥」
 指はやがて二本となるが、変わらずいい所へ優しく触れてくる。
 胸を揉んでいた左手も、この頃には先端ばかりを弄るようになっていた。
「ん……は、ん……あ、あ……んん……あ…………あンンッ、ん、くぅン♥」
 与えられては、もっと欲しくなって。ゆっくり、ゆっくりと昇っていく感覚。そして、ついに――。
「あ、あぁ――……♥」
 脱力した俺はイオニスの胸にくたりともたれる。広く逞しい胸は素晴らしい安定感だった。
「大丈夫ですか?」
「ん……」
 小さく頷き返す。
 イオニスは俺をベッドへ下ろすと、最後の服を脱いだ。
 無造作に置かれる服を見て、そこは適当に済ますのだなと少しおかしくなる。
「喉は渇いていませんか?」
「あ……ありがとうございます」
 イオニスは銀色の水差しから注いだ水を渡してくれた。
 冷たい水が火照った身体に心地よい。
「もう一杯いかがですか?」
「いただきます」
 素直に貰って飲み干す。おかわりも美味しい。
 満足した俺を見て、イオニスは自らも一杯あおると俺に迫った。
「どうかしましたか?」
 唇が触れ合う直前でイオニスが止まる。
 俺はやや迷いつつも、そっと口を開いた。
「あなたの顔を見ながら、私の顔を見られずに済む方法はないかと……どうして笑うのですか?」
「いえ、それはあまりにも……」
 我慢しようとしてはいるものの、といった様子でイオニスが笑い声を漏らす。
「目を瞑っても構いませんが……なんなら、目隠しでもしましょうか?」
 あっさりと提案され、怪訝な気持ちでイオニスの顔を見る。
「そういうご趣味で?」
「あなたに触れられるだけでも十分幸せですから」
「……そういうのはやめてください。ただ恥ずかしいだけです。本気で顔も見られたくない相手と、こんなことをしようとは思いません。あなただからなんですよ? あなただけ……」
 俺はイオニスから顔を逸らす。
「私達、夫婦となるのでしょうに」
 最後は恨み言みたいになってしまったか。少々反省しつつイオニスの返事を待つ。
 待ったが、イオニスの反応がない。
 そろりと視線だけで窺えば、イオニスはまじまじと俺を見ていて……目が合うと、柔らかく笑った。
「では、このままでもよろしいですか?」
「……そこの、ランプだけ」
 いやににこやかな調子で言われると、それはそれでと思わず尻込みしてしまった。
 そんな俺にイオニスは気を悪くする様子もなく、わかりましたとあっさり受け入れる。そして俺が何か言うより早く、ベッド脇に置かれたランプを点け、他の灯りを消した。
 俺は息を呑む。
 たき火色の硝子が目を惹くランプから溢れる色彩に染まり、陰影が濃くなった室内で。肌を朱く照らされるイオニスが、あまりに艶めかしくて――。
「レジーナ殿」
 気付いた時には、イオニスの手が俺の肩に触れていた。
 微笑むイオニスが俺を横たえる。
 それに俺は熱い息を吐いて、
「イオニス、さん……」
 甘く甘く、その名前を呼んだ。
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