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読心術と、独占欲

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アザゼル様も私と同じように、水面を覗き込む。黒髪がさらりと頬にかかる様を、私はじっと見つめていた。

「ここに来てから随分目まぐるしかったな」

視線を下にしたまま、アザゼル様がぽつりと口にする。

「そうですね、確かに色々なことがありました。瘴気を無事に消すことができて、本当によかったです」
「アレイスターのヤツ。イザベラが絶対に断らないと分かってたからな」
「アレイスター様はこの国のことを、とても大切に思っておられるのですね」
「どうだか。今の国王陛下に恩でも売っとこうって腹だろ。その気になれば、どこにでも行けるしな」

アザゼル様やアレイスター様、イアンにロココさん。私の知っている魔術師は皆自分の足でしっかりと立っていて、強くて頼もしくて、そして優しい。

アザゼル様は以前、魔術師には情のない人が多いと言っていたけれど。少なくとも私が出会った人達は、尊敬できる素晴らしい人物だと思う。

なにより、こんな私を受け入れてくれたことが、言葉では表せない程に嬉しい。

「レイリオも一緒に生活をすることになったし、益々賑やかで楽しくなりそうです」
「まぁ、アイツのことは一応認めてやった。だがイザベラに近過ぎて腹が立つ」
「そうなのですか?」
「今度近付かれたらぶっ飛ばしとけ」

割と真顔でそう言われ、返答に困った私は曖昧に笑みを浮かべた。

「アザゼル様。私ずっと疑問に思っていたことがあるのですが」
「あ?何だそれ」
「アザゼル様には、読心術の心得がおありなのですか?」
「…は?」

アザゼル様は、心底意味が分からないとでも言うようにぐっと眉間に皺を寄せる。私としては至極真面目な質問だったので、そんな反応をされることに驚いてしまった。

「そんなわけねぇだろ」
「私てっきり、アザゼル様は心が読めるのかと思っていました」
「なんでそう思ったんだ?」
「それは…」

(しまったわ)

私の思考の中では「実はそうなんだ」などという展開になるものだと思っていたので、質問を返される想定をしていなかった。

「いつも私がこうしてほしいと思っていることを、してくださるから…」
「ふうん?」

途端、アザゼル様の口角がにやりと上がる。私は蛇に睨まれた蛙のように、慌てて視線を横に逃した。

「例えばどんな?」
「それはあの…昨日のお祭りの時も、私とても楽しかったんです。大勢の人に囲まれて、最後は皆で綺麗な花火を見ることもできて、本当に幸せでした。ですが、その…アザゼル様と二人になれないことが少しだけ、寂しくて…」

(ああ、恥ずかしい)

まさかこんな形で、吐露することになるなんて。

一度ごくりと唾を飲み込み、意を決して彼の瞳を見上げる。

「私は、アズ様を独り占めしたいと思ったのです」

内心ふるふると震えているけれど、いつも率直に気持ちを伝えてくれるアザゼル様に、私はいつだって幸せをもらっているから。

私も、彼を見習いたい。

アザゼル様は一瞬瞳を揺らし、私から距離を取ろうとする。咄嗟にその手を掴み、指をきゅっと握った。

「私の、アズ様…」
「…ああ、くそっ」

掠れた声の後、唇に僅かに触れた温かな感触。キスをされたと気が付いた時にはもう遅く、アザゼル様はその腕にしっかりと私を収める。

「可愛すぎるお前が悪い」

耳元でそんな風に囁かれたらもう、どうしようもない。私の体からは力が抜け、アザゼル様にしなだれかかるより他なかった。
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