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祭りの後、二人の朝

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私はロココさんと同じ部屋で、それはもうぐっすりと眠った。ベッドに身体が沈み込むようなこの感覚は、久しぶりかもしれないと思う。

けれどスティラトールで聖女の力を行使していた頃は、身体が耐えきれず殆ど気絶のようにして毎夜眠りに就いていた。

確かに今日はとても疲れたけれど、それ以上に楽しくて幸せで、充足感でいっぱいの一日だった。

こんな幸せに包まれた疲労感があってもいいのかと、半分夢の世界に足を踏み入れながら、ふわふわとした頭でそんなことを思った。

翌朝まだぐっすりと眠っているロココさんを起こさないよう支度を整え、私は部屋を出る。アザゼル様はイアンと同室だと言っていたけれど、この時間だときっとまだ起きていないだろう。

部屋を訪れたら、イアンまで起こしてしまう。

分かっていたことであるのに、私の心は勝手に沈む。せめて朝の澄んだ空気で気分を持ち直そうと、帽子を目深に被り一人で宿屋を出る。

するとすぐに、後ろから腕を掴まれた。

「どこ行くんだイザベラ」
「キャ…ッ!」

突然のことに体勢を崩し、後ろに倒れる。私の体をしっかりと支えてくれたのは、アザゼル様の逞しい腕だった。

「アザゼル様!どうしてここに?」
「お前が出ていくのが見えたから」
「ですからなぜ…っ」
「まぁ、愛の力ってやつだな」

彼の部屋の前まで訪ねたけれど、結局踵を返してきたのに。まさかこんな風に追いかけてきてもらえるとは思わず、ただ驚きを隠せない。

「お前、一人で出歩こうとするな」
「朝が早いのでご迷惑になるかと思って」
「そんなこと気にしてんじゃねぇ」

アザゼル様は私の髪をくしゃりと撫でると、口角を上げる。

「ほら行くぞ」
「…っ、はい!」

慌てて彼の隣へ駆け出すと、さも当然のように手を繋がれる。街の人達の視線を思うと恥ずかしかったけれど、それよりも嬉しいという気持ちが身体中を駆け巡ったのだった。




訪れたのは、川に掛かる小さな橋。朝の街は人で溢れているけれど、昨日の感謝祭の時とはがらりと様子が違っていた。

皆、それぞれの日常を懸命に過ごしている。けれどどの人も、声にも表情にも張りと活気が見て取れた。

(スティラトールとは全然違う)

それは国王陛下や貴族達が必要以上に権力を握っていたからなのか、それとも大神官様の洗脳のせいなのか。

彼らは何があっても聖女の力でどうにかなると、そういう思考があったように思う。表情は暗く澱み、目の前でいざこざに遭遇したことも数えきれない。

今思えば、私がもう少し視野を広げていればもっと早くに国は救われていたかもしれない。エイルダイアンの人達を見ていると、余計にそう感じる。

橋から少し顔を覗かせ、揺れる水面をただじっと見つめた。

これからは、後悔のないように生きていきたいと。

「おいイザベラ」
「はい?ふぇ……っ」

名を呼ばれ顔を上げれば、アザゼル様の両手で頬を挟まれた。

「ふぁらふぇる、ふぁふぁ」
「俺のこと以外考えるな。妬くから」

不機嫌そうに眉根を寄せ、そんなことを言う。彼はきっと私の雰囲気を感じ取ってくれたのだろうと思うと、切ない程に胸が高鳴った。

「私の頭の中はいつだって、アズ様のことでいっぱいです」

頬に置かれた彼の手を取り、そう口にする。にこりと微笑めば、金の瞳が恥ずかしそうに揺れた。
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