向日葵堂~依頼は突然やってくる~

真銀ちび助

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動き出す影

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きらびやかなシャンデリア。
豪華な食事や飲み物が隅に置かれているテーブルに綺麗に並べられ、広い会場の中は大勢の着飾った人々で賑わっていた。

ロット・バレンシア公爵家では、今宵、愛娘の十六歳の誕生日パーティーの真っ最中。

メイド達がいそいそと忙しそうに会場を出入りする。
お酒や果物を絞った飲み物が入ったグラスを持ちながら、オレンジ色の髪を丸くまとめたメイドが会場内にいる人々へ配って周っていた。

そのメイドは、変装したユズリハだ。

レイが調べていた首謀者とみられる者のリストにロット公爵の名前が記されていたため、今宵のパーティーに潜入。関係しているかどうかを調べることになっている。

配り終えた飲み物を補充するため、隅にあるテーブルに行き、飲み物をグラスについでいると近くで話している貴婦人達の声が耳に届く。

「バレンシア公爵、最近、羽振りがいいそうですわね?」

「そうね。今回、初めてでしょう?こんな豪勢な誕生日の祝いごとなんて」

「でも、不思議ですわね?行っている商談は上手くいっていないと聞いていたのに…」

(商談が上手くいっていないのに、羽振りがいい?一体、どういうこと?)

商談が上手くいっているのならつじつまが合う話だ。
だが、それが合わないとなると何か裏があると考えざるを得ない。

(他のことで稼いでいる…?)

「おい、君」

「……はい!」

考えているユズリハに突然声をかけてきたのは、公爵家に使える執事だった。

黄色の短髪の青年で淡い緑色の瞳を持つ。
公爵家の愛娘に使えている方の執事でハリ-と言う名だったはずだ。

「…どうかなさいましたか?」

ユズリハは冷静を装いながらも、心臓はバクバクと脈打つ。

「お嬢様が果実酒をご所望だ。注いでくれるか?」

「かしこまりました」

女も男も十六歳になると、大人の仲間入りとしてお酒を飲むことが許される。

そして、今宵の主役も初めてのお酒に口をつけることになるのだ。

「林檎と密の果実酒でございます。飲みやすく、甘めのお酒となりますので、初めて口にされるお嬢様にはピッタリかと」

「気遣い感謝する」

そう言って主のもとに戻る執事を見送る。
見えなくなったところで、ユズリハは軽く息をついた。

(危ない。一人のメイドとして紛れているんだから、集中しなきゃ)

周りを見渡せば、人々はほろ酔い気分で談笑している。

(今なら、他の場所は手薄のはず。少し探って見るか)

ユズリハは使った食器を片付ける振りをして会場をあとにする。

その後は、手薄の警備に感謝しながら、ユズリハは誰もいない各部屋を調べ歩いた。

だが、これといっていい情報は出てこない。

次の場所に向かう途中、右側に色とりどりの花が咲き誇る庭がある廊下を歩いていると、ユズリハは人の話し声が聞こえてくるのに気がついた。

声のする方に足音をたてず歩いていく。

声が大きくなったところで立ち止まり、壁に背を預け、ゆっくりと壁から少しだけ顔をだす。

そこには二人の男がなにやら話し込んでいた。

一人は小太りの白髪混じりで茶色の短髪の男。ここの主―ロット・バレンシア公爵その人だ。

その隣にいるのは、銀色の仮面を被った謎の男。長身ではあるが、仮面を被っているため、顔は分からない。

「突然、何を言い出すんだ!」

公爵が声を荒げる。

「そんなことをしてみろ!私の首が危ないではないか!」

「おかしいですね……今までやって来たことは罪にはならないと?」

銀色の仮面の男は不思議そうに言う。

「あれは…私が直接下したものではない!今回は違うではないか!直接、王子に刃を向けるなど…」

(…………………!?)

なにやら物騒な話になり、ユズリハは息をのむ。

「毒を飲んだ弱った王子に止めを刺すだけです。何も、それを群衆の前で行えと言うものではありません。こっそりとするのですよ。貴方が失敗しなければ、誰も分かりません」

「し、しかし……」

「王子が憎いのでしょう?貴方が提案した計画を全て白紙にした張本人なのですから」

銀色の仮面を被った男がそういうと、ロット公爵はうつむきながらも、ふるふると震えていた。

「今回のことが失敗すれば、次はないと思ってくださいね?」

「な、何?」

「当然です。これまでやって来たことは全て失敗に終わっている。これ以上失敗を続けては、向こうにも勘づかれてしまいますから。いえ…もしかすると、もう勘づかれているかも知れませんね?」

(……………………!?)

ユズリハはすぐに壁に身を隠す。
一瞬、銀色の仮面を被った男と目があったような気がしたからだ。

(勘づかれているのは、こちらも同じか…?)

コツコツと足音がこちらに近づいてくる。

ユズリハはゆっくりと足音を立てないように後ずさると、背中に何かが当たる。
振り返ろうとする前に口を塞がれた。

足音が近づき、ユズリハがいた場所に銀色の仮面を被った男の姿が現れる。

「………………………」

「急にどうしたと言うのだ…?ん?」

「お父様!もう、どこに行っていたのです?探しましたわ」

こちらへと向かってくるのは、濃い茶色の長い髪を腰まで伸ばし、花の髪飾りを着け、鮮やかな赤色のドレスに身を包んだ今宵の主役―アリア・バレンシアだった。

「お、おお…アリア。どうしたのだ?」

「お祖父様達がいらっしゃってお話ししたいと…。御話し中でしたか?」

そう言って、銀色の仮面を被った男を見てアリアは問う。

「話しは済んだので大丈夫ですよ。ところで、アリア様。ここへ来るとき、誰かとすれ違いましたか?」

「会場近くでメイド達とすれ違いましたが、ここに来るまでは、誰とも…」

「…そうでしたか。なら、いいのです。それでは、ロット公爵、私はこれで失礼させて頂きます。また、お会いしましょう」

深く頭下げて、銀色の仮面を被った男はその場から立ち去った。

「…見ない方ですね?」

「あ、ああ。古い友人だよ。今日は数年ぶりに会ったから、つい話し込んでしまった」

ははは、と苦笑するロット公爵は愛娘―アリアを連れて会場へと戻って行く。

静かになった廊下に使っていた魔法が消え、姿を現したのは、口を手で塞がれたままのユズリハとユズリハを後ろから抱きすくめてユズリハの口を塞いでいる男だった。

「行ったな…」

ホッと息をつく男の腕をユズリハは叩く。
このままでは息が持たない。

「あ、悪い」

そう言ってパッと手を離すとユズリハから男は離れた。

空気を吸ったり吐いたり、呼吸をゆっくり整える。

「…驚きました。まさか、貴方がいたなんて…」

ユズリハが振り替える。

そこにいる男は、紫紺色の短髪に前髪を短く切り揃え、水色の瞳を持つユズリハの同期―ジーク・ルヴァンスが執事に扮した姿で立っていた。

    
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