サンライズ

湯殿たもと

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夏休み編

サンライズその9 夏休み編

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サンライズ その9 夏休み編その5



翌朝。目が覚めたのは朝の五時すぎだった。ここ数日でまた知らない天井を見ながらの目覚めだ。同じ部屋に立っていたのは、白いワンピースを着た美少女。不覚にも目を奪われる。そしてこの美少女が俺を拉致したのだと理解した。

とりあえず顔を洗う。やたらと冷たい水。そして目を完全に覚ますと、窓の外を見る。ここはいったいどこなんだ。しかし解るような目印は無かった。木々の海が広がるのみ。

美少女(もういいか)が扉をあけてどこかへ行ってしまった。ついていってみる。朝御飯の匂いが漂ってくる。どうやらこの家にはほかにも住人がいるようだ。と、廊下を歩いているとふすまがするりと開き、おじいさんが顔を見せた。一瞬ぎょっとして顔を見る。

「新入りさんか?」

例の少女がつれてきたことを伝えるとお爺さんは咎めるような表情で、

「勝手に連れてきて騒ぎになったらどうする。帰してやりなさい」

と言う。

「大丈夫」と少女は言う。何が大丈夫なのか。純和食朝ごはんを済ませると少女と二人で部屋に戻る。少女少女と、まだこいつの名前を聞いていない。

「俺はまだお前の名前を聞いてないぞ、自己紹介してくれ」

「そういえばそうだね、私は湯殿たもと。よろしくね」

「よろしくな」

湯殿たもとというのか。しかし、ここにいると、何をされるか果たして、まったくわからない。

「何かしよう?」

「竹馬と競争はやだぞ」

「ボードゲームは?」

「ボードゲーム?」

「まあそれなら」

「超次元オセロで良い?」

「なんだその超次元って」

「イカサマオセロ?」

「せっかくだしそのイカサマとやらを見てみようか」

どうやら敵対心はないらしい。脅迫の材料や食事の材料にはならないらしい。敵対心をこのまま持たれないようになんとか合わせるか。

・・・・・・とか考えていたのはほんのちょっとで、正直ここで湯殿といて悪い気はしなかった。あっという間に夕方。

「湯殿さん」

「どうしたの」

「どうして俺を誘拐したんだ、何をさせるってわけでもないのに」

「どうしてだと思う?」

「見当つかないな」

「高校生の男の子からは特に美味しい鍋が出来るんだよ」

「鍋の時期じゃないだろう」

「冗談だよ」

「だったら何でだよ」

「寂しかったからね」

「・・・・・・」

湯殿さんは、どこか悲しそうな目をしていた。さっきからしていたのだけど、今気がついた。友達がいないのだろうか、そういえばこの家に他にいる同居人は年齢もバラバラだった。そうか・・・・・・。

夜ご飯を食べて、湯殿の部屋に戻ると何故かいない。どこかに行ったのか。ひとり部屋に残され、手持ちぶさたにしていると、ここはよく考えたら、近い年の女子の部屋にいるということに気がついてしまった。意識しなければなんということはなかったのに、その机の引き出し、押入れの中、すべて気になる。机に手を伸ばしたそのタイミングで湯殿さんが帰ってくる。ぐおっ!

その表情を見ると、やたら悲しげ。いったいどうしたのだろうか。

「ひので君」

「どした?」

「あした、九尾の狐がひので君のこと迎えにくるらしいよ」

「そうなのか」

「そしたら、私はひので君を誘拐したわけだから、真っ先に逃げるからね」

「わかった」

微妙に不思議なところがあるが、こんなものなのかもしれない。そして

翌朝、湯殿さんのいったとおり、九尾の狐が迎えに来て、丸1日いた謎の家を出て山を降りた。来るときは夜なので解らなかったが、深くて美しい山だった。

そして下の温泉街に戻ってくると、旅行は取り止めだね、と九尾は言い、その日のうちに電車で家に帰った。

「おかえり!」

はるかときぼう姉さんを顔を四日ぶりに見る。なんか落ち着くのは、家族だから。

「旅行どうだった?」「なにか美味しいもの食べた?」「写真みせて」などとたくさんはるかに聞かれる。誘拐されたときはケータイは置いていってしまったので、その前の荒海さんと出掛けたときの写真や、行き帰りの九尾との写真は残っていた。

「いいなー、私も今度連れてってほしい」

楽しそうな写真や話はもちろんあるけれど、誘拐された一日は、不思議で、どこか悲しげな女の子と一日いた、妙な一日だった。あいつとまた会うことは、あるのだろうか。俺はそのことを一週間は頭から離れなかった。



夏休み編 おしまい






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