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狼の巫女 全国版 6 雪香の想い
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狼の巫女 全国版 6
ここからは藤島雪香(二女)の語りとなります。普段わふわふしか言わない彼女は何を語るのでしょうか。
~~~
「明日は調査は無さそうだね」
お姉さんが真剣な顔でそう話す。狼の山への人間の調査。私たちにとって、山を荒らされて狼の調査が行われるというのは、死に直結する。調査と言って、私たちを檻に入れて拷問する。お姉さんに一度、動物たちが檻に入れられている施設に連れてってもらったことがある。そこでは、うさぎも猿も狸もりすも丸々と太っているが、檻に閉じ込められていた。話したら、餌には困ってないし、拷問なんてされていないという。それはもはや洗脳されているだけ。彼らは二度と野生に帰って、野山を走り、仲間と眠り、子供を作るなんてことはできないと思う。
「ああ、でも近いうちにあるだろうな。瑞穂もそういう情報を手にしたと言ってたし」
「いつでも山に出られるようにしておかないとな。しかし、山に出て戦ったところで勝機はあるのか?相手には夏のリベンジだとか、そういうのに燃える警察もいるんだぞ」
「大丈夫、私は超能力あるし、幻聴幻覚を植え付けられるやつね」
「なるほど、流石三百年続いた巫女だな」
「でも、不意に来られたら怖いよね」
お姉さんやお兄さん、それに雪輝さんは私たちの立場をよく理解してくれて、狼を守ろうと協力してくれる。お姉さんは昔、違う意見を持ってたらしいけど、よく知らない。
「自然を守る」という人たちは他にもいるけど、私が信用しているのはここの三人と、あとたまに来る瑞穂くんだけ。町にいる人たちは私を可愛がってくれるけど、狼を守ってくれるかどうかは分からない。
自然を守ると言って最近神社の前に押し掛けている人たちがいる。あいつらは信用ならない。自分の利益や見栄で狼を守る、といっているだけで、本心から狼を守る気なんてさらさらないと思っている。
「ま、とりあえずお風呂入ろうかな。雪香、一緒にはいるよ」
「わふ(はーい)」
お姉さんは私がここに来てからでも、私を人間と狼の両面から見ている。嫌じゃなくて、とてもありがたい。体は間違えなく人間だけど、かなり長い間狼として暮らしてきたから、お風呂に入ったり、箸をつかってご飯を食べたりなんてしなかった。食べ物だって、お米を食べることなんて全然なかったから、はじめはお腹を壊したけど、その時もちゃんと面倒を見てくれた。だからお姉さんがとても好き。だから、そのお姉さんが好きな瑞穂さんのことがとても気になる。私からするそこまで良い男に見えないのだけれど。
「わふわふ(ねえお姉さん)」
「なにー雪香」
「わふーわふー(瑞穂さんのどこが好きなんですか)」
「私は巫女で立場が強かったからね、私に忠告するひとなんていなかったんだよ。でも私が間違った道に進もうとしたとき、瑞穂くんが初めて私に忠告して、正してくれたんだよ」
「わふわふわふ、わふわふーわふー(そうなんですか、でも、それは頼りになるっていうので、好きっていうのと違うと思うんです)」
「んーそうかもね。でも、私がそれでも好きなんだ。だから、理由とかだけじゃ説明できないね」
「わふ(そうなんですね)」
「雪香は、そういう感情持ったことあるの?」
「わふぅ(一回だけ昔あったけど、よく覚えてないかな)」
「そうなんだ」
背中や髪をよく洗ってもらって、お風呂から上がったあとはゆっくり過ごす。
私はほかの人と違って、主に夜に起きている。狼の仲間と暮らしてきたときからの習慣。昼間は夏は暑いから影で寝てた方がいいし、冬は夜に寝ると死にかねない。それにみんなそうだったから。
雪が降っている景色を窓の外から眺めているけど、いまいち気分が出ない。玄関から靴を履いて外へ出る。きんとする寒さときらめく星たち。そしてそびえ立つ私のふるさとの山。私の仲間のいる雪山。
遥か遠くまで続いていて、どこまであるかは分からない山脈。私の知らない狼の群れがあるかも知れないし、狼や熊より大きい動物がいるかもしれない。と、ずっと思っていた。世界はすべて山と海で、人もある程度の小さい村を作って過ごしているだけだと思っていた。でも人間は鋼の馬で地を走り、鋼の鳥で空を飛び、鋼の鯨で海を進む。そして今輝いている月にまでいったという。狼は他の山では人間に追いやられ、死に絶えた。
そんなこと、知らなければ良かったのに。狼に優しくしてくれる人間もいる。でも、圧倒的少数で、そういうことを考えると、私が狼の群れにまた顔を出したりしたら、裏切り者と罵られるかもしれない。私を無視するかもしれない。怖い。食い殺すかもしれない。
だからって、人間たちは私の仲間を殺そうとする。だから、私は仲間を守らなければならない。それは絶対に変わらない。
気がつくと私は山に入っていた。狼の群れを目指していたのだ。
「わふううぅぅぅぅぅぅ」
「・・・・・・あぉぉぉぉぉん」
私の仲間は確かに答えてくれた。
「わふううぅぅぅぅぅぅわふぅぅぅぅぅ」
「あぉぉぉぉぉんおぉぉぉん」
いつでも帰ってこい。と。私はいつか帰る、と答えて山を下った。
続きます。
ここからは藤島雪香(二女)の語りとなります。普段わふわふしか言わない彼女は何を語るのでしょうか。
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「明日は調査は無さそうだね」
お姉さんが真剣な顔でそう話す。狼の山への人間の調査。私たちにとって、山を荒らされて狼の調査が行われるというのは、死に直結する。調査と言って、私たちを檻に入れて拷問する。お姉さんに一度、動物たちが檻に入れられている施設に連れてってもらったことがある。そこでは、うさぎも猿も狸もりすも丸々と太っているが、檻に閉じ込められていた。話したら、餌には困ってないし、拷問なんてされていないという。それはもはや洗脳されているだけ。彼らは二度と野生に帰って、野山を走り、仲間と眠り、子供を作るなんてことはできないと思う。
「ああ、でも近いうちにあるだろうな。瑞穂もそういう情報を手にしたと言ってたし」
「いつでも山に出られるようにしておかないとな。しかし、山に出て戦ったところで勝機はあるのか?相手には夏のリベンジだとか、そういうのに燃える警察もいるんだぞ」
「大丈夫、私は超能力あるし、幻聴幻覚を植え付けられるやつね」
「なるほど、流石三百年続いた巫女だな」
「でも、不意に来られたら怖いよね」
お姉さんやお兄さん、それに雪輝さんは私たちの立場をよく理解してくれて、狼を守ろうと協力してくれる。お姉さんは昔、違う意見を持ってたらしいけど、よく知らない。
「自然を守る」という人たちは他にもいるけど、私が信用しているのはここの三人と、あとたまに来る瑞穂くんだけ。町にいる人たちは私を可愛がってくれるけど、狼を守ってくれるかどうかは分からない。
自然を守ると言って最近神社の前に押し掛けている人たちがいる。あいつらは信用ならない。自分の利益や見栄で狼を守る、といっているだけで、本心から狼を守る気なんてさらさらないと思っている。
「ま、とりあえずお風呂入ろうかな。雪香、一緒にはいるよ」
「わふ(はーい)」
お姉さんは私がここに来てからでも、私を人間と狼の両面から見ている。嫌じゃなくて、とてもありがたい。体は間違えなく人間だけど、かなり長い間狼として暮らしてきたから、お風呂に入ったり、箸をつかってご飯を食べたりなんてしなかった。食べ物だって、お米を食べることなんて全然なかったから、はじめはお腹を壊したけど、その時もちゃんと面倒を見てくれた。だからお姉さんがとても好き。だから、そのお姉さんが好きな瑞穂さんのことがとても気になる。私からするそこまで良い男に見えないのだけれど。
「わふわふ(ねえお姉さん)」
「なにー雪香」
「わふーわふー(瑞穂さんのどこが好きなんですか)」
「私は巫女で立場が強かったからね、私に忠告するひとなんていなかったんだよ。でも私が間違った道に進もうとしたとき、瑞穂くんが初めて私に忠告して、正してくれたんだよ」
「わふわふわふ、わふわふーわふー(そうなんですか、でも、それは頼りになるっていうので、好きっていうのと違うと思うんです)」
「んーそうかもね。でも、私がそれでも好きなんだ。だから、理由とかだけじゃ説明できないね」
「わふ(そうなんですね)」
「雪香は、そういう感情持ったことあるの?」
「わふぅ(一回だけ昔あったけど、よく覚えてないかな)」
「そうなんだ」
背中や髪をよく洗ってもらって、お風呂から上がったあとはゆっくり過ごす。
私はほかの人と違って、主に夜に起きている。狼の仲間と暮らしてきたときからの習慣。昼間は夏は暑いから影で寝てた方がいいし、冬は夜に寝ると死にかねない。それにみんなそうだったから。
雪が降っている景色を窓の外から眺めているけど、いまいち気分が出ない。玄関から靴を履いて外へ出る。きんとする寒さときらめく星たち。そしてそびえ立つ私のふるさとの山。私の仲間のいる雪山。
遥か遠くまで続いていて、どこまであるかは分からない山脈。私の知らない狼の群れがあるかも知れないし、狼や熊より大きい動物がいるかもしれない。と、ずっと思っていた。世界はすべて山と海で、人もある程度の小さい村を作って過ごしているだけだと思っていた。でも人間は鋼の馬で地を走り、鋼の鳥で空を飛び、鋼の鯨で海を進む。そして今輝いている月にまでいったという。狼は他の山では人間に追いやられ、死に絶えた。
そんなこと、知らなければ良かったのに。狼に優しくしてくれる人間もいる。でも、圧倒的少数で、そういうことを考えると、私が狼の群れにまた顔を出したりしたら、裏切り者と罵られるかもしれない。私を無視するかもしれない。怖い。食い殺すかもしれない。
だからって、人間たちは私の仲間を殺そうとする。だから、私は仲間を守らなければならない。それは絶対に変わらない。
気がつくと私は山に入っていた。狼の群れを目指していたのだ。
「わふううぅぅぅぅぅぅ」
「・・・・・・あぉぉぉぉぉん」
私の仲間は確かに答えてくれた。
「わふううぅぅぅぅぅぅわふぅぅぅぅぅ」
「あぉぉぉぉぉんおぉぉぉん」
いつでも帰ってこい。と。私はいつか帰る、と答えて山を下った。
続きます。
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