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①
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その少女と出会ったのは去年の年末。
十二月も終わりの頃であった。
僕が卒論を書き終え自分へのご褒美として一人で温泉旅行へ行った時、旅館のチェックアウトがたまたま同じタイミングになった家族がいた。
優しそうな母親と背が高く寡黙そうな父親、十九歳か二十歳くらいの父親似の長男、長男より少し身長が低く髪を後ろで結んでいる高校生くらいの次女、携帯ゲームに夢中になって下を向きながら歩いている小学生くらいの次男の三兄弟の五人家族だった。
同じタイミングで旅館を出る時少し自動ドアを譲りあった時に長女と少し目が合い会釈をした。その後は当然会うこともなく一日観光をして夕方、帰りの新幹線に乗り込んだ。
指定席で予約していた僕は二席の窓側に座ってスマホをいじりながら発車を待っていた。すると後ろから数人の慌ただしい声と足音が近づいてきた。
「だから先にお土産買っておこうって言ったのに!」
「忘れてたんだもん仕方ないじゃん」
「喧嘩しないの。とにかく席を見つけましょう。歩き疲れちゃった。えーっと六号車の4のA~Dと5のAだから・・・あそこだわ」
なんだか騒がしい家族だなと思っていると自分の真隣の列だった。
「うわーマジか」
心の中でため息が出た。
「あっ」
一人が僕の方を見ながら声を出した。目線をスマホからそちらに向けると今朝旅館で同時にチェックアウトした家族であった
気まずい。
そんな僕の隣の席には旅館の自動ドアで会釈をした女の子が座り、通路を挟んだAからCには父親と母親と一番小さい子供が座り、その後ろに長男が座った。通路を挟み飲み物やお菓子を母親が渡していた。
発車後しばらくすると女の子がリュックから手紙と一枚の写真を取り出した。その手紙を見る彼女の顔はとても悲しそうであった。
なんだか気まずくなってしまった僕は真っ暗で自分の顔が反射しているだけの窓の方を見た。5分くらい外を眺めてそろそろいいだろうと思い正面を向き直しながら少し横目で彼女の方に目をやると、さっき取り出した写真を両手で握りしめながら俯いてボロボロと涙を流していた。
とにかく驚き戸惑った僕は反対側の両親の方に助けを求めるように視線を送ったが末っ子をはじめ全員眠っていた。
それを見てさらに困った僕はもう一度彼女の方を見た。握られて少し歪んでいるその写真には小さな女の子と男の子が笑顔でピースをしている姿が写っていた。
服装から見て陸上競技だった。
とにかく側から見たら自分が彼女を泣かせているようにも見られてしまうと思い少し混乱した僕はつい彼女に声をかけてしまった。
「その写真、陸上系の競技?」
我ながら何を言っているのかわからない。
すると。
「え?」
彼女が顔を上げて聞き返してきた。
当然だ。
泣いているとはいえ隣の席の男に急に声をかけられたのだから。
僕はさらに混乱しながら言った。
「僕も大学2年生まで短距離の選手をやっていてね。高校の時は県優勝もしたことがあるんだ。その写真に写っている女の子は君?」
全て本当のことであった。僕は中学から始めた陸上の短距離で県大会優勝も経験がしたことがあるほど真剣に取り組んでいた。大学に入り将来陸上で食べていくことは自分にはできないと考え徐々に離れて今では月に数回ランニングをする程度になってしまった。
彼女は涙を拭きながら
「はい。小学校2年生の時の写真です。私も短距離をやっていて陸上部なんです。今は・・・あんまり走る気が起きないんです・・どうしても」
スンスンと鼻を啜りながら途切れ途切れにそう話してくれた。そこから徐々に会話を進めていった・・・
十二月も終わりの頃であった。
僕が卒論を書き終え自分へのご褒美として一人で温泉旅行へ行った時、旅館のチェックアウトがたまたま同じタイミングになった家族がいた。
優しそうな母親と背が高く寡黙そうな父親、十九歳か二十歳くらいの父親似の長男、長男より少し身長が低く髪を後ろで結んでいる高校生くらいの次女、携帯ゲームに夢中になって下を向きながら歩いている小学生くらいの次男の三兄弟の五人家族だった。
同じタイミングで旅館を出る時少し自動ドアを譲りあった時に長女と少し目が合い会釈をした。その後は当然会うこともなく一日観光をして夕方、帰りの新幹線に乗り込んだ。
指定席で予約していた僕は二席の窓側に座ってスマホをいじりながら発車を待っていた。すると後ろから数人の慌ただしい声と足音が近づいてきた。
「だから先にお土産買っておこうって言ったのに!」
「忘れてたんだもん仕方ないじゃん」
「喧嘩しないの。とにかく席を見つけましょう。歩き疲れちゃった。えーっと六号車の4のA~Dと5のAだから・・・あそこだわ」
なんだか騒がしい家族だなと思っていると自分の真隣の列だった。
「うわーマジか」
心の中でため息が出た。
「あっ」
一人が僕の方を見ながら声を出した。目線をスマホからそちらに向けると今朝旅館で同時にチェックアウトした家族であった
気まずい。
そんな僕の隣の席には旅館の自動ドアで会釈をした女の子が座り、通路を挟んだAからCには父親と母親と一番小さい子供が座り、その後ろに長男が座った。通路を挟み飲み物やお菓子を母親が渡していた。
発車後しばらくすると女の子がリュックから手紙と一枚の写真を取り出した。その手紙を見る彼女の顔はとても悲しそうであった。
なんだか気まずくなってしまった僕は真っ暗で自分の顔が反射しているだけの窓の方を見た。5分くらい外を眺めてそろそろいいだろうと思い正面を向き直しながら少し横目で彼女の方に目をやると、さっき取り出した写真を両手で握りしめながら俯いてボロボロと涙を流していた。
とにかく驚き戸惑った僕は反対側の両親の方に助けを求めるように視線を送ったが末っ子をはじめ全員眠っていた。
それを見てさらに困った僕はもう一度彼女の方を見た。握られて少し歪んでいるその写真には小さな女の子と男の子が笑顔でピースをしている姿が写っていた。
服装から見て陸上競技だった。
とにかく側から見たら自分が彼女を泣かせているようにも見られてしまうと思い少し混乱した僕はつい彼女に声をかけてしまった。
「その写真、陸上系の競技?」
我ながら何を言っているのかわからない。
すると。
「え?」
彼女が顔を上げて聞き返してきた。
当然だ。
泣いているとはいえ隣の席の男に急に声をかけられたのだから。
僕はさらに混乱しながら言った。
「僕も大学2年生まで短距離の選手をやっていてね。高校の時は県優勝もしたことがあるんだ。その写真に写っている女の子は君?」
全て本当のことであった。僕は中学から始めた陸上の短距離で県大会優勝も経験がしたことがあるほど真剣に取り組んでいた。大学に入り将来陸上で食べていくことは自分にはできないと考え徐々に離れて今では月に数回ランニングをする程度になってしまった。
彼女は涙を拭きながら
「はい。小学校2年生の時の写真です。私も短距離をやっていて陸上部なんです。今は・・・あんまり走る気が起きないんです・・どうしても」
スンスンと鼻を啜りながら途切れ途切れにそう話してくれた。そこから徐々に会話を進めていった・・・
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