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休戦と和解
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三日三晩の戦い。
後の【原初の聖戦】と語り継がれるその戦いは、この世界の四分の一に影響が出てしまう程の戦いであった。戦闘の範囲は大規模では無いが、その余波が影響が凄まじい。そこから新たな生命の誕生の要因となるのは、アルケーも大狐も知る由もない。
“……降参じゃ”
『降参、だと?』
“これ以上、年寄りをいじめてくれるな。アルケー殿。わしとて、何故この世界にいるか分からんのじゃ。じゃが……余所者であるからな。ここで死ぬ方がよかろうて”
『……………………ここで死ぬと?』
“そうじゃ。既に死ぬ運命じゃったからの”
『………………』
突如、降参した大狐。
そしてアルケーに殺される事を良しとしたのだ。恐らく大狐は戦っている内に、これ以上は意味はないと感じたのだろう。そもそも死ぬ運命。今更殺されて死ぬことになっても変わりはしない。
一方のアルケーは、自ら死を望む大狐に困惑していた。確かに侵入者として敵対し、攻撃していたが敵として申し分ない程。いや、己と対等に戦える者など初めてであった。
故に、不意に思ってしまう。
実に勿体ない、と。
『侵入者、では無いようだな』
“左様。侵入したつもりはない”
『そう、か。して、お前を好きにしてよいのか?』
“好きにされるのはお断りじゃ。さっさと殺せ”
『……………………………………………断る』
“なに?”
殺す事を拒否するアルケー。
それに対して眉を顰める大狐であったが、何か言おうとする前にアルケーが提案するのだ。提案、というより勧誘だ。
『名は』
“教えるつもりは毛頭ない”
『ならば、これからは……完成された者、【ロゴス】と名乗れ。これは我、別天津神アルケーがお主に授ける』
勧誘でもない、決定事項だ。
アルケーは、大狐に【ロゴス】という名を授けたのだ。アルケーが認め、名を授けたのはこれが最初で最後。【ロゴス】とは、アルケー自身が大狐を《完成された存在》だと認識したのだ。それはアルケーという星を産んだ存在と同等としてである。
“……貴様”
『この世界で死ぬのは許さん。我が唯一認めた者【ロゴス】。我と戦い、未だに余裕があるのはわかっている。しかし、死ぬには惜しい。せめて、我の手伝いをして眠れ』
“手伝い?”
『今しがた……ロゴスよ。この星を浄化したのだ』
“浄化、じゃと……?いや待て、神が言う浄化など一つしかあるまい!……貴様、沈めたのか!?”
どの世界でも浄化、或いは掃除というのは唯一つ。この世界を一度リセットに近い状態にすること。つまり、地上の生命をほぼ全滅に近い状態にしたと、アルケーは言ったのだ。
『それも知るか。あぁ、そうだ。お前の言う通り浄化した。それ故に、我は困っている。我は一度眠りにつかなければならないのだ』
“……いや待てお主。まさか、わしを、パシる気か?”
『眠っている間、上手くやってくれぬか?』
アルケーは大狐、ロゴスの言葉を何食わぬ顔で要求したのだ。ロゴスの言う通り、パシられるのである。先程まで唯一認めたと言っていたのは何処の何者だろうか。
“上手くって……何をじゃ”
『眠っている間、この世界を上手く動かしてほしいのだ』
“……………………やじゃ”
『む?』
“いやじゃいやじゃぁぁぁあっ!せっかく、せっかく死ぬ運命じゃったのに!もう疲れたんじゃわしはぁぁあっ!!!”
突如、幼児退行の如く大狐ロゴスはごねてしまう。子供の様に地団駄を踏んだり、身体を伸ばして暴れるのだ。余程、アルケーの頼みが嫌なのだろう。
『待て待てロゴス。既にお前は神と成ったのだ。もうこの世界からは逃れられん』
“か、神じゃと……?い、いつの間に、そ、そんな……”
『我が名を授けたからな。ロゴスとは神の名、【神名】だ』
“お、おまえぇぇぇぇえっ!?!?”
激高するロゴス。
しかし、この意味を知らぬ訳がない。その意味を理解していたロゴスはスイッチが切れたかの様に真っ白になってしまう。精神が、だが。
“わ、わし……死ねないじゃん”
『うむ』
“最悪じゃろ貴様”
『褒めるでない』
“どぉ~こが褒めとるか、クソトカゲ!!!”
『過ぎた事だ、許せロゴス。さて、我は暫く眠るがその間お前にはこの世界を監視してほしいのだ。無論、拒否権はないっ!!!』
“ほんと、サイテーじゃな!!!このクズが!!!”
『クズはクズでも、神にとっては星屑でしかない。故に、全く気にしない!』
“かっこよくないからな!なに決まった、的な顔をしとるかこの戯け者ッ!!!意味不明じゃ、意味不明じゃぁっ!!!”
しかし、もうやるしかない状況になった。
かなりの怨念を抱くロゴスであったが、渋々―――心底嫌そうな表情でアルケーから具体的にどの様な事をすればいいのか聞かされることになる。
“……で、何じゃ。手伝いとは。監視だけでいいのかの”
『まず一つ目は――――』
“一つ目ッ!?”
まさかの一つ目である。
何個あるかは恐ろしくて絶望するしかない。
すると、アルケーはロゴスの前に様々な色をした……まるで、宝玉の如き“8つの欠片”を何処からともなく出したのだ。
水色・金色・赤色・茶色・土色・空色・紺色・黒色。
それは、あまりにも美しいが、同時に非常に恐ろしいもの。この8つの欠片が一体何なのか……ロゴスは容易に勘付いていた。
“これ、は……貴様……”
『気付くかロゴス。流石だ。この8つの欠片は……理由は分からぬが、襲ってきた侵略者を葬った際に残った魂の残骸。魂とは言えど、既に抜け殻であり器だ。彼奴らの気配は一切ない。故に、これらを利用しようと……な』
“……まさか、じゃとは思うがこの欠片を使って”
『左様。新たな神を作る』
神の作成。
それは、アルケーにとっての眷属である。この世界の創造神側の存在ではなく、この星にとっての神だ。人間にとっての善人ではない。
“して、神の作成に何故ゆえにわしが手伝わねばならんのじゃ”
『いや、我、不器用でな』
“………………因みに、この世界を浄化した理由は”
『世界に悪が広がり、滅ぼさなければ―――――――』
“ぶっちゃけ?”
『人間共、ちょーヤバいことするから一度滅ぼしちゃえって』
“不器用どころじゃないじゃろ、マジで。まあ良い。一度作ってみるのじゃ”
『後悔するなよ?』
“安心せい。もう後悔しておる”
アルケーは、手始めに一つの生命を作る。神ではないのは万が一、つまりアルケーは本当にものづくりに関しては自身がない様だ。
『よし!出来たぞ』
“どれど、れ………………………”
ロゴスの思考は停止する。
暫くして、一応確認するのだ。
“これは、なんじゃ?”
『…………動物』
“種類は”
『猫科』
“正式名称は”
『フェリス・シルヴェストリス・カトゥス……だったか?』
“うむ、猫か。何処に目を、口を付けておるっ!脚に関しては触手じゃろっ!!!”
あまりにも猫から掛け離れたもの。
と、いうより一目では猫だとは分からない。分かるとすれば、この世に存在している訳がない地獄絵図。エイリアン、宇宙生物と言えば分かりやすいだろう。
『やはり、な』
“……自覚は、あるようじゃな。まあよい、貸してみぃ”
『うむ』
若干、可哀想に感じたロゴスはアルケーが己の力で形作った猫?を改めて形作っていく。
慎重に、繊細に。尚且、妥協は許さず。
時間は計り知れない程費やしたのだろう。
アルケーが、待つのが飽きたのか昼寝をしてしまっている。更にはイビキをかいて、だ。
“……よし、完成じゃ”
『むっ!これは――――』
作り上げたのは、黒猫だ。
毛並みの一本一本まで充実に再現された黒猫に、先程までサボっていたアルケーは素直に称賛した。恐らく、誰でもアルケーより上手く作れるだろう。その為、誰に対してもこの対応になるのは言うまでもない。
『うむ、うむ!採用だ。では早速――――――』
“む、何をする気じゃ”
アルケーの身体から、一つの小さな光がただの置物でしかない筈の黒猫に宿る。それが何をしているのか検討付かないロゴスは、ただ見ているだけ。
『して、ロゴス。因みにその黒猫を使って、人を作れぬか。どれだけ時を費やしても構わぬ』
“……………まぁ、暇じゃからな”
そのまま、せっかく作った黒猫をこねこねと粘土のようにこねてアルケー要望の人を作っていく。人、と言ってもモデルが無い為、己が理想とする背の高さや肉体、容姿を形作ろうとしたのだが………。
『もう少し背を低く』
“……わかったのじゃ”
『可愛らしく出来ぬか?尚且、クールに』
“……………うむ”
『少女の様な華奢な身体付きで……』
“………………………”
『髪は黒く、健康そうな褐色肌……あ、追加の素材と色も用意したからよろしく』
“………………………………………………”
『さて、最後はイチモツを付けるか具を付けるか。男の娘か少女……悩むな。やはりここは……いや、しかし――――――――ぶべらっ!?』
注文が多いアルケーに、一発尻尾に大打撃を放ち撃墜させるロゴス。流石に横から、何もせずただ要望だけを吐くアルケーに心底腹が立ったのだろう。
そして、ロゴスはイチモツを付けた。
『なっ、ロゴス!男の娘とは………………そっちの趣味が』
“黙れ、注文の多い変態”
『シュン……』
キッパリ言い切ったロゴスは、黒猫から作った人を放置してそのまま不貞寝する。やはり人となると作るだけでも大変なのに、横から注文してその要望を応えたのだ。
サイズ的にも、事前に用意したアルケーの力も存分に使った。やはり実物の猫から人を作るのはより、多く量が必要となるのだ。
不貞寝しているロゴスをいい事に、アルケーは作られた人に近づくと、その作られた完璧の美しさに鑑賞した後に自らの力の一端をその人に埋め込んだのだ。
『よし、お前の神名は【アクアリウス】だ』
“………………何やっておる?”
『む?新たな神を生み出したのだが』
“新たな神を……そうか――――――――は?”
何と言ったのだ、此奴と一瞬そんな表現をするロゴスであったが、アクアリウスと名付けられた人の形をしたモノがひとりでに動き出したのだ。
「ぁ…………ぼ、ボク、あく、あ、りう、す」
“なんと……!”
『ふふんっ!ロゴスが作ったこの土人形に、我の力を込めて生み出した新たな神【アクアリウス】。これからはロゴスの右腕として精進せよ』
「……よろ、しく、おねがい、します。あるじ、さま」
“お、おぅ?”
『あ、あの……生み出したのは我だし。どちらかと言うと親みたいなものなのじゃが……なぜゆえ、ロゴスだけに』
「……だれ、です?」
『ひどぃ』
アルケーが魂を吹き込んで生まれた新たな神【アクアリウス】。しかし、最初に忠義を見せ挨拶をした相手はアルケーではなくロゴスに。しかもアルケーに関しては生みの親の筈なのに、全く興味はない。むしろ単なるそこらの石や雑草などの背景の一部しか思っていない。
不憫。
“……ん?待てアルケー、こやつをわしの右腕?”
『む、ロゴス一人では荷がキツいであろう』
“荷がキツい、とかではなくフツーに嫌なんじゃが”
『アクアリウスは、お主の相棒として色々と活躍出来るだろう。我の権能の一部を譲渡しているからな。司るは、《水》。簡潔に言うと、我が浄化した大洪水を起こすのも可能だ』
“……かなり破格の力を譲渡したのぅ”
『我が眠る間、地上の生命体が何をするかわからん。ロゴスならば何とか出来ようが……万が一、最終手段だ』
“水”の権能を宿した神【アクアリウス】。
かつて、アルケーが起こした世界を沈める程の大洪水を起こした力を有する人形の神は、少女の様な華奢な身体に夜をも思わせる漆黒の長い髪。健康そうな褐色肌に、月光を感じさせる金色の目は、物静かな雰囲気を感じさせる。
「ボクの、マスター」
“なんじゃ、お主のマスターになった覚えないぞ”
「マスターの為なら、ボクの身も心も、捧げるよ」
『え、我は?』
「……?何言ってるか、意味わからないよ」
『ひどくない?我に、対して酷くない?一応我の力の一部だよね?ひょっとして、我のこと嫌い?嫌ってない?』
「マスター、助けて」
“わしに助けを求めるでない。むしろこっちが助けてほしいわい”
完全にアルケーを嫌っているアクアリウス。理由としては、至って単純。アルケーが最初に形作った器が、あまりにも酷過ぎた為、もしかするとそのあまりにも名状し難いモノの器になりかけていた為、新たに作成したロゴスに忠誠心を誓う程に感謝していたのだ。
人の中でも、作られたものではあるが完成度が高い美しい器は身体に酷く馴染む。
「マスター、ボクの器からだ作ってくれてありがとう。大好き」
まるで親愛の相手に対しての様にロゴスへ抱き着いて嬉しそうにせるアクアリウス。一方のロゴスは、妙に懐かれてしまい、困惑してしまう。
『わ、我のことも……そ、そうだ、父上と……!』
「?意味分かんないかな。マスター、殺していい?」
“や、一応お主を生み出した存在じゃし……”
「マスターが困るならやめておくよ。よかったね、クソトカゲ」
『うっ、うううぅぅぅぅ~~~っ!!!い、いいもん!いいもん!我のことを敬う神を作るんだもんっ!ロゴス、頼むぞっ!』
“ぇ゛っ、あの何体作るんじゃ”
『ざっと、八体くらい?』
“恨むぞアルケー……”
「マスター、手伝うよ」
こうして、更に新たな神の器の作成に取り掛かるロゴスとそれを手伝うアクアリウス。またもや製作途中に、アルケーから止めどなく注文を押し続けられるのだが、痺れを切らしたアクアリウスがロゴスの怒りを代弁するかの如くぶん殴るのは、言うまでもない。
後の【原初の聖戦】と語り継がれるその戦いは、この世界の四分の一に影響が出てしまう程の戦いであった。戦闘の範囲は大規模では無いが、その余波が影響が凄まじい。そこから新たな生命の誕生の要因となるのは、アルケーも大狐も知る由もない。
“……降参じゃ”
『降参、だと?』
“これ以上、年寄りをいじめてくれるな。アルケー殿。わしとて、何故この世界にいるか分からんのじゃ。じゃが……余所者であるからな。ここで死ぬ方がよかろうて”
『……………………ここで死ぬと?』
“そうじゃ。既に死ぬ運命じゃったからの”
『………………』
突如、降参した大狐。
そしてアルケーに殺される事を良しとしたのだ。恐らく大狐は戦っている内に、これ以上は意味はないと感じたのだろう。そもそも死ぬ運命。今更殺されて死ぬことになっても変わりはしない。
一方のアルケーは、自ら死を望む大狐に困惑していた。確かに侵入者として敵対し、攻撃していたが敵として申し分ない程。いや、己と対等に戦える者など初めてであった。
故に、不意に思ってしまう。
実に勿体ない、と。
『侵入者、では無いようだな』
“左様。侵入したつもりはない”
『そう、か。して、お前を好きにしてよいのか?』
“好きにされるのはお断りじゃ。さっさと殺せ”
『……………………………………………断る』
“なに?”
殺す事を拒否するアルケー。
それに対して眉を顰める大狐であったが、何か言おうとする前にアルケーが提案するのだ。提案、というより勧誘だ。
『名は』
“教えるつもりは毛頭ない”
『ならば、これからは……完成された者、【ロゴス】と名乗れ。これは我、別天津神アルケーがお主に授ける』
勧誘でもない、決定事項だ。
アルケーは、大狐に【ロゴス】という名を授けたのだ。アルケーが認め、名を授けたのはこれが最初で最後。【ロゴス】とは、アルケー自身が大狐を《完成された存在》だと認識したのだ。それはアルケーという星を産んだ存在と同等としてである。
“……貴様”
『この世界で死ぬのは許さん。我が唯一認めた者【ロゴス】。我と戦い、未だに余裕があるのはわかっている。しかし、死ぬには惜しい。せめて、我の手伝いをして眠れ』
“手伝い?”
『今しがた……ロゴスよ。この星を浄化したのだ』
“浄化、じゃと……?いや待て、神が言う浄化など一つしかあるまい!……貴様、沈めたのか!?”
どの世界でも浄化、或いは掃除というのは唯一つ。この世界を一度リセットに近い状態にすること。つまり、地上の生命をほぼ全滅に近い状態にしたと、アルケーは言ったのだ。
『それも知るか。あぁ、そうだ。お前の言う通り浄化した。それ故に、我は困っている。我は一度眠りにつかなければならないのだ』
“……いや待てお主。まさか、わしを、パシる気か?”
『眠っている間、上手くやってくれぬか?』
アルケーは大狐、ロゴスの言葉を何食わぬ顔で要求したのだ。ロゴスの言う通り、パシられるのである。先程まで唯一認めたと言っていたのは何処の何者だろうか。
“上手くって……何をじゃ”
『眠っている間、この世界を上手く動かしてほしいのだ』
“……………………やじゃ”
『む?』
“いやじゃいやじゃぁぁぁあっ!せっかく、せっかく死ぬ運命じゃったのに!もう疲れたんじゃわしはぁぁあっ!!!”
突如、幼児退行の如く大狐ロゴスはごねてしまう。子供の様に地団駄を踏んだり、身体を伸ばして暴れるのだ。余程、アルケーの頼みが嫌なのだろう。
『待て待てロゴス。既にお前は神と成ったのだ。もうこの世界からは逃れられん』
“か、神じゃと……?い、いつの間に、そ、そんな……”
『我が名を授けたからな。ロゴスとは神の名、【神名】だ』
“お、おまえぇぇぇぇえっ!?!?”
激高するロゴス。
しかし、この意味を知らぬ訳がない。その意味を理解していたロゴスはスイッチが切れたかの様に真っ白になってしまう。精神が、だが。
“わ、わし……死ねないじゃん”
『うむ』
“最悪じゃろ貴様”
『褒めるでない』
“どぉ~こが褒めとるか、クソトカゲ!!!”
『過ぎた事だ、許せロゴス。さて、我は暫く眠るがその間お前にはこの世界を監視してほしいのだ。無論、拒否権はないっ!!!』
“ほんと、サイテーじゃな!!!このクズが!!!”
『クズはクズでも、神にとっては星屑でしかない。故に、全く気にしない!』
“かっこよくないからな!なに決まった、的な顔をしとるかこの戯け者ッ!!!意味不明じゃ、意味不明じゃぁっ!!!”
しかし、もうやるしかない状況になった。
かなりの怨念を抱くロゴスであったが、渋々―――心底嫌そうな表情でアルケーから具体的にどの様な事をすればいいのか聞かされることになる。
“……で、何じゃ。手伝いとは。監視だけでいいのかの”
『まず一つ目は――――』
“一つ目ッ!?”
まさかの一つ目である。
何個あるかは恐ろしくて絶望するしかない。
すると、アルケーはロゴスの前に様々な色をした……まるで、宝玉の如き“8つの欠片”を何処からともなく出したのだ。
水色・金色・赤色・茶色・土色・空色・紺色・黒色。
それは、あまりにも美しいが、同時に非常に恐ろしいもの。この8つの欠片が一体何なのか……ロゴスは容易に勘付いていた。
“これ、は……貴様……”
『気付くかロゴス。流石だ。この8つの欠片は……理由は分からぬが、襲ってきた侵略者を葬った際に残った魂の残骸。魂とは言えど、既に抜け殻であり器だ。彼奴らの気配は一切ない。故に、これらを利用しようと……な』
“……まさか、じゃとは思うがこの欠片を使って”
『左様。新たな神を作る』
神の作成。
それは、アルケーにとっての眷属である。この世界の創造神側の存在ではなく、この星にとっての神だ。人間にとっての善人ではない。
“して、神の作成に何故ゆえにわしが手伝わねばならんのじゃ”
『いや、我、不器用でな』
“………………因みに、この世界を浄化した理由は”
『世界に悪が広がり、滅ぼさなければ―――――――』
“ぶっちゃけ?”
『人間共、ちょーヤバいことするから一度滅ぼしちゃえって』
“不器用どころじゃないじゃろ、マジで。まあ良い。一度作ってみるのじゃ”
『後悔するなよ?』
“安心せい。もう後悔しておる”
アルケーは、手始めに一つの生命を作る。神ではないのは万が一、つまりアルケーは本当にものづくりに関しては自身がない様だ。
『よし!出来たぞ』
“どれど、れ………………………”
ロゴスの思考は停止する。
暫くして、一応確認するのだ。
“これは、なんじゃ?”
『…………動物』
“種類は”
『猫科』
“正式名称は”
『フェリス・シルヴェストリス・カトゥス……だったか?』
“うむ、猫か。何処に目を、口を付けておるっ!脚に関しては触手じゃろっ!!!”
あまりにも猫から掛け離れたもの。
と、いうより一目では猫だとは分からない。分かるとすれば、この世に存在している訳がない地獄絵図。エイリアン、宇宙生物と言えば分かりやすいだろう。
『やはり、な』
“……自覚は、あるようじゃな。まあよい、貸してみぃ”
『うむ』
若干、可哀想に感じたロゴスはアルケーが己の力で形作った猫?を改めて形作っていく。
慎重に、繊細に。尚且、妥協は許さず。
時間は計り知れない程費やしたのだろう。
アルケーが、待つのが飽きたのか昼寝をしてしまっている。更にはイビキをかいて、だ。
“……よし、完成じゃ”
『むっ!これは――――』
作り上げたのは、黒猫だ。
毛並みの一本一本まで充実に再現された黒猫に、先程までサボっていたアルケーは素直に称賛した。恐らく、誰でもアルケーより上手く作れるだろう。その為、誰に対してもこの対応になるのは言うまでもない。
『うむ、うむ!採用だ。では早速――――――』
“む、何をする気じゃ”
アルケーの身体から、一つの小さな光がただの置物でしかない筈の黒猫に宿る。それが何をしているのか検討付かないロゴスは、ただ見ているだけ。
『して、ロゴス。因みにその黒猫を使って、人を作れぬか。どれだけ時を費やしても構わぬ』
“……………まぁ、暇じゃからな”
そのまま、せっかく作った黒猫をこねこねと粘土のようにこねてアルケー要望の人を作っていく。人、と言ってもモデルが無い為、己が理想とする背の高さや肉体、容姿を形作ろうとしたのだが………。
『もう少し背を低く』
“……わかったのじゃ”
『可愛らしく出来ぬか?尚且、クールに』
“……………うむ”
『少女の様な華奢な身体付きで……』
“………………………”
『髪は黒く、健康そうな褐色肌……あ、追加の素材と色も用意したからよろしく』
“………………………………………………”
『さて、最後はイチモツを付けるか具を付けるか。男の娘か少女……悩むな。やはりここは……いや、しかし――――――――ぶべらっ!?』
注文が多いアルケーに、一発尻尾に大打撃を放ち撃墜させるロゴス。流石に横から、何もせずただ要望だけを吐くアルケーに心底腹が立ったのだろう。
そして、ロゴスはイチモツを付けた。
『なっ、ロゴス!男の娘とは………………そっちの趣味が』
“黙れ、注文の多い変態”
『シュン……』
キッパリ言い切ったロゴスは、黒猫から作った人を放置してそのまま不貞寝する。やはり人となると作るだけでも大変なのに、横から注文してその要望を応えたのだ。
サイズ的にも、事前に用意したアルケーの力も存分に使った。やはり実物の猫から人を作るのはより、多く量が必要となるのだ。
不貞寝しているロゴスをいい事に、アルケーは作られた人に近づくと、その作られた完璧の美しさに鑑賞した後に自らの力の一端をその人に埋め込んだのだ。
『よし、お前の神名は【アクアリウス】だ』
“………………何やっておる?”
『む?新たな神を生み出したのだが』
“新たな神を……そうか――――――――は?”
何と言ったのだ、此奴と一瞬そんな表現をするロゴスであったが、アクアリウスと名付けられた人の形をしたモノがひとりでに動き出したのだ。
「ぁ…………ぼ、ボク、あく、あ、りう、す」
“なんと……!”
『ふふんっ!ロゴスが作ったこの土人形に、我の力を込めて生み出した新たな神【アクアリウス】。これからはロゴスの右腕として精進せよ』
「……よろ、しく、おねがい、します。あるじ、さま」
“お、おぅ?”
『あ、あの……生み出したのは我だし。どちらかと言うと親みたいなものなのじゃが……なぜゆえ、ロゴスだけに』
「……だれ、です?」
『ひどぃ』
アルケーが魂を吹き込んで生まれた新たな神【アクアリウス】。しかし、最初に忠義を見せ挨拶をした相手はアルケーではなくロゴスに。しかもアルケーに関しては生みの親の筈なのに、全く興味はない。むしろ単なるそこらの石や雑草などの背景の一部しか思っていない。
不憫。
“……ん?待てアルケー、こやつをわしの右腕?”
『む、ロゴス一人では荷がキツいであろう』
“荷がキツい、とかではなくフツーに嫌なんじゃが”
『アクアリウスは、お主の相棒として色々と活躍出来るだろう。我の権能の一部を譲渡しているからな。司るは、《水》。簡潔に言うと、我が浄化した大洪水を起こすのも可能だ』
“……かなり破格の力を譲渡したのぅ”
『我が眠る間、地上の生命体が何をするかわからん。ロゴスならば何とか出来ようが……万が一、最終手段だ』
“水”の権能を宿した神【アクアリウス】。
かつて、アルケーが起こした世界を沈める程の大洪水を起こした力を有する人形の神は、少女の様な華奢な身体に夜をも思わせる漆黒の長い髪。健康そうな褐色肌に、月光を感じさせる金色の目は、物静かな雰囲気を感じさせる。
「ボクの、マスター」
“なんじゃ、お主のマスターになった覚えないぞ”
「マスターの為なら、ボクの身も心も、捧げるよ」
『え、我は?』
「……?何言ってるか、意味わからないよ」
『ひどくない?我に、対して酷くない?一応我の力の一部だよね?ひょっとして、我のこと嫌い?嫌ってない?』
「マスター、助けて」
“わしに助けを求めるでない。むしろこっちが助けてほしいわい”
完全にアルケーを嫌っているアクアリウス。理由としては、至って単純。アルケーが最初に形作った器が、あまりにも酷過ぎた為、もしかするとそのあまりにも名状し難いモノの器になりかけていた為、新たに作成したロゴスに忠誠心を誓う程に感謝していたのだ。
人の中でも、作られたものではあるが完成度が高い美しい器は身体に酷く馴染む。
「マスター、ボクの器からだ作ってくれてありがとう。大好き」
まるで親愛の相手に対しての様にロゴスへ抱き着いて嬉しそうにせるアクアリウス。一方のロゴスは、妙に懐かれてしまい、困惑してしまう。
『わ、我のことも……そ、そうだ、父上と……!』
「?意味分かんないかな。マスター、殺していい?」
“や、一応お主を生み出した存在じゃし……”
「マスターが困るならやめておくよ。よかったね、クソトカゲ」
『うっ、うううぅぅぅぅ~~~っ!!!い、いいもん!いいもん!我のことを敬う神を作るんだもんっ!ロゴス、頼むぞっ!』
“ぇ゛っ、あの何体作るんじゃ”
『ざっと、八体くらい?』
“恨むぞアルケー……”
「マスター、手伝うよ」
こうして、更に新たな神の器の作成に取り掛かるロゴスとそれを手伝うアクアリウス。またもや製作途中に、アルケーから止めどなく注文を押し続けられるのだが、痺れを切らしたアクアリウスがロゴスの怒りを代弁するかの如くぶん殴るのは、言うまでもない。
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侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
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※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
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ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
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こうご期待。
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