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11.キース
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ステファニアはフォルトを連れて街へと向かっていた。
馬車にはステファニアとフィーナがのり、フォルトは騎乗して並走している。
「ドレスをみたら、休むわ。…わかっているわよね?」
口元は扇で隠して見えないが、きっと醜く歪んでいることだろう。
どんなに可憐な容姿でも、高価なドレスに身を包んでいても、その醜さは隠しきれないわ。
この負の感情が態度に現れてしまったのか、ステファニアは目を吊り上げた。
「おまえは わたくしの言う通りにしていればいいのよ!」
左頬に強い痛みを感じたと同時に、床に投げ出された。更に何度も打ち据えられる。
ウィリアスさま、ウィリアスさま!
痛みに耐えながら恋しい人の名を 心の中で繰り返す。
あの香りと優しい腕がフィーナの支えだった。
そして、ステファニアがフォルトと逢瀬を重ねるたびに、ウィリアスさまに近づく理由ができるのだ。
事を話す時とき、彼の手は髪を撫でる。
あの香りは私を包み込み、優しい声で癒してくれるのだ。
馬車が止まり、ステファニアの手がようやく止まった。
フォルトに向けて艶のある笑顔を向けてステファニアは、その手をとり馬車をおりる。乱れた衣服を直し、髪を撫でつけてフィーナも続く。
公爵家御用達の店構えは、ホテルのようだ。
貴族の多くが贔屓にするだけあり、フィッティングも個室を使う。
高位貴族ともなれば、屋敷に店側を招くのが常だが、ステファニアはフォルトとの逢瀬のため、こうやって足を運ぶのだ。
店にある休憩用の離れに二人が消えると、フィーナは馬車へと向かった。
街の中を紋章の付いた馬車を走らせ、ステファニアの街歩きを偽装するのだ。
打たれた背中が痛い…
馬車で少し横になろう。血が出てるといけない。床でも仕方ないわね。
身体が熱い…
なんだかフワフワするわ。
ダメ、しっかりしなければ。
躓いたのをきっかけに身体がかしいだ。
咄嗟のことに自身では支えきれず夢中で何かを掴んだ。それは厚みのある柔らかい布のようだった。
慌てて手を離すが、身体はそれ以上倒れることはなかった。
「大丈夫か?」
この声…キースさま!?
「あ、ありがとうございます。失礼致しました」
急いで距離を取ろうとしたが、その腕が離してくれなかった。
(怖いお顔…)
怒らせたのか?
フィーナが不安に震えていると、引きずられるように部屋へと押し込められた。
「…その背中…血が出てる」
誰にやられた?とはきかれない。
使用人を罰する相手は決まっている。
背を庇うようにキースから逃れると、キースがフィーナの腕を掴んだ。
脳天を突き破るような鋭い痛みが襲い、フィーナは声にならない声をあげた。
キースはハッとして手を離したが、厳しい表情に怒りを滲ませた。
「申し訳ありません!」
フィーナは怒りを纏うキースにひたすら許しを乞うた。
失礼をお許しください、呪文のように繰り返すフィーナをキースは抱きしめた。
フィーナが落ち着いてくると#徐に_おもむろに__#、服に手を掛けた。
「傷をみせるんだ、手当をしよう」
強い眼差しで、止まることのない手が、服のボタンを外してゆく。
顕になった肌をみて、キースの手が一瞬とまった。
白い肌に隙がないほどの赤黒く内出血している痣…
明らかに腫れているところもある。肌着で隠れていないところでこれだ。肌着に染みた赤が痛々しい。
フィーナは羞恥と 傷だらけの身体を晒したことへの罪悪感でキースから逃れようと身を捻って抵抗した。
「動くな!」
キースに怒鳴られて、身体が強ばる。
されるがままに、キースが腕や足を確かめる姿を茫然と見つめた。
キースは 呟くような詠唱を紡ぎ、フィーナの身体に手を翳し治療魔法を施してゆく。
その手を中心に熱を帯び、何かが湧き上がる感覚に襲われる。心地よい温かさに全身が包まれ、フィーナの意識が持っていかれる。
いつの間に眠ってしまったのだろう。
一瞬のことのような、永遠のような安らぎを得た幸福感に満たされていた。
腕の痛みも、背中の痛みも随分と軽い。
「気づいたか」
キースさまの声だ。
フィーナは横になっていたソファから身体を起こすと、キースに向き直った。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。治療していただき ありがとうございます」
もう痛みは大丈夫、これ以上はキースさまの迷惑になる。
かけられていた濃紺のローブを丁寧に畳むとキースに差し出した。
「まだ動いてはダメだ。たとえ治癒魔法をかけても全てではないんだ」
押しとどめるキースの腕を優しく解いて頭を下げた。
「勿体ないお言葉です。でも、仕事に戻らなければなりませんので失礼します」
踵を返し扉に向かったフィーナを壁に押し当て、行く手を塞いだ。
「アリバイのために馬車を走らせることか?鞭打たれた身体で見張りをすることか?
…ウィリアスの関心を得るためか?」
最後の言葉にフィーナは目を見開いた。
キースさまは知っているの?
「利用されていることが、なぜわからない!公爵に告げ口しないように口止めされているんだろう?」
なぜ、そんなことまで知っているの?
二人は無言で見つめあった。それぞれの思いが交差する。
トントン
ノック音と共にキースは扉の外から呼ばれた。物言いたそうな表情を浮かべ、
フィーナを解放した。
「帰っくるまでこの部屋をでるな」
そう言い残して、部屋を出ていった。
あまりの迫力に気圧されていた緊張が解けて、フィーナはズルズルと座り込んだ。
何が起こってるのか分からない。
わからないが、キースが戻ってきたら帰してもらえない気がした。
行かなくちゃ…
子鹿のように震える足を無理やり動かして、部屋を出る。
真っ直ぐに馬車へと向かう。
そこにはなぜか、ウィリアスがいた。
なぜ?
会うはずもないところで会えたことを喜ぶ暇もなく、無言で馬車に押し込められた。
そこには青を通り越して蒼白な顔のステファニアの姿。
一体 何が起こったの…?
馬車にはステファニアとフィーナがのり、フォルトは騎乗して並走している。
「ドレスをみたら、休むわ。…わかっているわよね?」
口元は扇で隠して見えないが、きっと醜く歪んでいることだろう。
どんなに可憐な容姿でも、高価なドレスに身を包んでいても、その醜さは隠しきれないわ。
この負の感情が態度に現れてしまったのか、ステファニアは目を吊り上げた。
「おまえは わたくしの言う通りにしていればいいのよ!」
左頬に強い痛みを感じたと同時に、床に投げ出された。更に何度も打ち据えられる。
ウィリアスさま、ウィリアスさま!
痛みに耐えながら恋しい人の名を 心の中で繰り返す。
あの香りと優しい腕がフィーナの支えだった。
そして、ステファニアがフォルトと逢瀬を重ねるたびに、ウィリアスさまに近づく理由ができるのだ。
事を話す時とき、彼の手は髪を撫でる。
あの香りは私を包み込み、優しい声で癒してくれるのだ。
馬車が止まり、ステファニアの手がようやく止まった。
フォルトに向けて艶のある笑顔を向けてステファニアは、その手をとり馬車をおりる。乱れた衣服を直し、髪を撫でつけてフィーナも続く。
公爵家御用達の店構えは、ホテルのようだ。
貴族の多くが贔屓にするだけあり、フィッティングも個室を使う。
高位貴族ともなれば、屋敷に店側を招くのが常だが、ステファニアはフォルトとの逢瀬のため、こうやって足を運ぶのだ。
店にある休憩用の離れに二人が消えると、フィーナは馬車へと向かった。
街の中を紋章の付いた馬車を走らせ、ステファニアの街歩きを偽装するのだ。
打たれた背中が痛い…
馬車で少し横になろう。血が出てるといけない。床でも仕方ないわね。
身体が熱い…
なんだかフワフワするわ。
ダメ、しっかりしなければ。
躓いたのをきっかけに身体がかしいだ。
咄嗟のことに自身では支えきれず夢中で何かを掴んだ。それは厚みのある柔らかい布のようだった。
慌てて手を離すが、身体はそれ以上倒れることはなかった。
「大丈夫か?」
この声…キースさま!?
「あ、ありがとうございます。失礼致しました」
急いで距離を取ろうとしたが、その腕が離してくれなかった。
(怖いお顔…)
怒らせたのか?
フィーナが不安に震えていると、引きずられるように部屋へと押し込められた。
「…その背中…血が出てる」
誰にやられた?とはきかれない。
使用人を罰する相手は決まっている。
背を庇うようにキースから逃れると、キースがフィーナの腕を掴んだ。
脳天を突き破るような鋭い痛みが襲い、フィーナは声にならない声をあげた。
キースはハッとして手を離したが、厳しい表情に怒りを滲ませた。
「申し訳ありません!」
フィーナは怒りを纏うキースにひたすら許しを乞うた。
失礼をお許しください、呪文のように繰り返すフィーナをキースは抱きしめた。
フィーナが落ち着いてくると#徐に_おもむろに__#、服に手を掛けた。
「傷をみせるんだ、手当をしよう」
強い眼差しで、止まることのない手が、服のボタンを外してゆく。
顕になった肌をみて、キースの手が一瞬とまった。
白い肌に隙がないほどの赤黒く内出血している痣…
明らかに腫れているところもある。肌着で隠れていないところでこれだ。肌着に染みた赤が痛々しい。
フィーナは羞恥と 傷だらけの身体を晒したことへの罪悪感でキースから逃れようと身を捻って抵抗した。
「動くな!」
キースに怒鳴られて、身体が強ばる。
されるがままに、キースが腕や足を確かめる姿を茫然と見つめた。
キースは 呟くような詠唱を紡ぎ、フィーナの身体に手を翳し治療魔法を施してゆく。
その手を中心に熱を帯び、何かが湧き上がる感覚に襲われる。心地よい温かさに全身が包まれ、フィーナの意識が持っていかれる。
いつの間に眠ってしまったのだろう。
一瞬のことのような、永遠のような安らぎを得た幸福感に満たされていた。
腕の痛みも、背中の痛みも随分と軽い。
「気づいたか」
キースさまの声だ。
フィーナは横になっていたソファから身体を起こすと、キースに向き直った。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。治療していただき ありがとうございます」
もう痛みは大丈夫、これ以上はキースさまの迷惑になる。
かけられていた濃紺のローブを丁寧に畳むとキースに差し出した。
「まだ動いてはダメだ。たとえ治癒魔法をかけても全てではないんだ」
押しとどめるキースの腕を優しく解いて頭を下げた。
「勿体ないお言葉です。でも、仕事に戻らなければなりませんので失礼します」
踵を返し扉に向かったフィーナを壁に押し当て、行く手を塞いだ。
「アリバイのために馬車を走らせることか?鞭打たれた身体で見張りをすることか?
…ウィリアスの関心を得るためか?」
最後の言葉にフィーナは目を見開いた。
キースさまは知っているの?
「利用されていることが、なぜわからない!公爵に告げ口しないように口止めされているんだろう?」
なぜ、そんなことまで知っているの?
二人は無言で見つめあった。それぞれの思いが交差する。
トントン
ノック音と共にキースは扉の外から呼ばれた。物言いたそうな表情を浮かべ、
フィーナを解放した。
「帰っくるまでこの部屋をでるな」
そう言い残して、部屋を出ていった。
あまりの迫力に気圧されていた緊張が解けて、フィーナはズルズルと座り込んだ。
何が起こってるのか分からない。
わからないが、キースが戻ってきたら帰してもらえない気がした。
行かなくちゃ…
子鹿のように震える足を無理やり動かして、部屋を出る。
真っ直ぐに馬車へと向かう。
そこにはなぜか、ウィリアスがいた。
なぜ?
会うはずもないところで会えたことを喜ぶ暇もなく、無言で馬車に押し込められた。
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