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第4章
志織の場合 その7 クリスマスの前に
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クリスマス・イブまであと二日である。街はすっかりクリスマス一色だ。コンビニでは店員がサンタクロースに扮し、ケーキ屋はクリスマスケーキの宣伝に余念がない。志織もリビングを、かわいい天使の置物とクリスマスリースで飾った。
子供の頃、クリスマスの日を教会で過ごしたことを志織はふと思い出した。クラスに、父親が牧師をしている友達がいて、志織を誘ってくれたのだった。気のいいその友達は、子供向けに書かれた新約聖書やキリストの本を志織にプレゼントしてくれた。
そしてクリスマス当日はキリストの聖誕劇をしたり、賛美歌を歌った。きれいなクリスマスカードやプレゼントの交換、キャンドルサービス。志織はクリスチャンではなかったが、クリスマスの日の教会の神聖でおごそかな雰囲気が好きだった。翌年、涼平を教会に誘ったが、涼平はお菓子をもらえるのなら行く、と答えた。
「ねぇ涼平、マリア様ってきれいだと思わない?」
志織は教会でもらった、聖母マリアのカードや天使の絵を見せた。涼平はそれを興味なさそうに見たあと
「俺、外国の人の顔って、よくわからないな」とにべもなく言った。志織はあきれたような表情で
「イエス様はね、私たちの罪を背負ってあの十字架にかけられたのよ」と言ってみた。
「俺たちの罪? 罪ってなんだよ」
「罪って、それは……」
教会で習っただけの言葉を繰り返すだけでは、とても涼平を説得できなかった。実際、志織も聖書の教えよりも、きれいな絵の聖母マリアや天使の姿に憧れ、美しい賛美歌が好きなだけだった。
子供の頃のことを思い出していただけなのに、ふと志織は「罪」という言葉にひっかかりを感じた。
罪……何といういやな響きの言葉だろう。私たちの罪、俺たちの罪、私の罪。
志織はつと立ち上がり、リビングのドアをきつく閉めた。
慎一へのクリスマスプレゼントは、カフスボタンとネクタイピンにして、志織は革手袋を結局買わなかった。あの時、志織の手に重ねられた涼平の手を思い出すと、慎一が革手袋をはめるたびに、涼平のことを思い出す気がして怖かった。志織はクリスマスプレゼント用にラッピングされた箱を紙袋から取り出した。そしてサイドボードの引き出しにしまった。
リビングを出ようとすると、スマホが鳴った。慎一からの電話だった。
「僕だけどさ、今度のクリスマスイブ、Tホテルへ行かないか?」
「どうしたの? 急に」
「妹から電話があってさ、親父がインフルエンザにかかったらしいんだよ。柄にもなく親父、夫婦でTホテルのディナーショーと宿泊の予約をしてたらしいんだな。このままキャンセルするのも馬鹿らしいし、妹が兄さんたち、どう? って。もちろんお金は親父持ちだよ」
Tホテルは昔、涼平と初めてクリスマス・イブを過ごしたホテルだった。
「……いいのかしら」
「いいじゃないか、たまには。じゃ、決めたよ」
慎一はそう言うと、電話を切った。
子供の頃、クリスマスの日を教会で過ごしたことを志織はふと思い出した。クラスに、父親が牧師をしている友達がいて、志織を誘ってくれたのだった。気のいいその友達は、子供向けに書かれた新約聖書やキリストの本を志織にプレゼントしてくれた。
そしてクリスマス当日はキリストの聖誕劇をしたり、賛美歌を歌った。きれいなクリスマスカードやプレゼントの交換、キャンドルサービス。志織はクリスチャンではなかったが、クリスマスの日の教会の神聖でおごそかな雰囲気が好きだった。翌年、涼平を教会に誘ったが、涼平はお菓子をもらえるのなら行く、と答えた。
「ねぇ涼平、マリア様ってきれいだと思わない?」
志織は教会でもらった、聖母マリアのカードや天使の絵を見せた。涼平はそれを興味なさそうに見たあと
「俺、外国の人の顔って、よくわからないな」とにべもなく言った。志織はあきれたような表情で
「イエス様はね、私たちの罪を背負ってあの十字架にかけられたのよ」と言ってみた。
「俺たちの罪? 罪ってなんだよ」
「罪って、それは……」
教会で習っただけの言葉を繰り返すだけでは、とても涼平を説得できなかった。実際、志織も聖書の教えよりも、きれいな絵の聖母マリアや天使の姿に憧れ、美しい賛美歌が好きなだけだった。
子供の頃のことを思い出していただけなのに、ふと志織は「罪」という言葉にひっかかりを感じた。
罪……何といういやな響きの言葉だろう。私たちの罪、俺たちの罪、私の罪。
志織はつと立ち上がり、リビングのドアをきつく閉めた。
慎一へのクリスマスプレゼントは、カフスボタンとネクタイピンにして、志織は革手袋を結局買わなかった。あの時、志織の手に重ねられた涼平の手を思い出すと、慎一が革手袋をはめるたびに、涼平のことを思い出す気がして怖かった。志織はクリスマスプレゼント用にラッピングされた箱を紙袋から取り出した。そしてサイドボードの引き出しにしまった。
リビングを出ようとすると、スマホが鳴った。慎一からの電話だった。
「僕だけどさ、今度のクリスマスイブ、Tホテルへ行かないか?」
「どうしたの? 急に」
「妹から電話があってさ、親父がインフルエンザにかかったらしいんだよ。柄にもなく親父、夫婦でTホテルのディナーショーと宿泊の予約をしてたらしいんだな。このままキャンセルするのも馬鹿らしいし、妹が兄さんたち、どう? って。もちろんお金は親父持ちだよ」
Tホテルは昔、涼平と初めてクリスマス・イブを過ごしたホテルだった。
「……いいのかしら」
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慎一はそう言うと、電話を切った。
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