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課金令嬢はしかし傍観者でいたい

見知らぬ双子1

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「分かっていらっしゃいますか、マナリエル様」

「心得て候ですわよ、ナディアママ」

 そろそろ本当にタコができているのではと、耳に触れる。返事はもはや棒読み。大根役者もいいとこだ。
 お前は私のオカンか。嫌味ったらしくママと呼んでやったけど、ナディアは頬を染めているだけ。いや照れるんかい。喜ぶところと違うからな?

 結局エディー学園長からは聖獣のことは詳しく聞けず、沈黙とマシンガントークの繰り返しの中、とりあえず授業に参加すれば分かるというニュアンスだけは理解できた。学園では入学当日から授業が行われるらしく、初めての授業を受けるために教室へ向かっている。
 寮暮らしとなるにあたっての手続き諸々は、すでに他のメイド達が行っているらしい。そういえば残り9人いるんだったね。げんなりだわ。学園へ向かう途中に見つけたあの忍者は気配がない。どこかへ行ったのだろうか。
 それにしても入学してすぐ授業があるのは、何とも大変だな。私みたいに他の者が支度してくれるならまだしも、メイドがいない生徒はやることたくさんあるよね。引っ越しは1日でも、荷ほどきには数日必要よね。まぁ住所変更とかガス水道の契約とかは必要ないけど。今度エディー学園長に提案してみよう。でもあの人で伝わるのかしら……無理じゃない?


「こちらです」

 ナディアが促すドアを見る。やはり前世の学校とは雰囲気が違う。少し古びたような木製のドア。丸でもなく、四角でもなく、手作りかな?と感じるほど、いびつな形をしている。けど、なんか──なんか、怪しい。そう感じるのはデザインのせいか?中からは騒がしいとは言いがたいが、いくつかの話し声が聞こえる。

「ちょっと待って」

 ドアに手をかけたナディアを制止する。こういう時くらいは自分で開けたい。ていうか──

「ナディア、教室まで入ってくるの?」

 できれば、それは避けたい。

「いえ、私はこちらでお見送りさせていただき、この後はマナリエル様の御部屋がある寮へ参りたいと思います」

「分かった、部屋の支度よろしくね」

「畏まりました。本日はこちらでの授業のみとなりますので、また終了する頃にお迎えに上がります」

 よかった。さすがにナディアに隣に立てられながら授業なんて受けたくないわ。

「ていうか、ナディア詳しいね。教室までの案内も断ってたし」

「私はこちらの卒業生でございますので。主を持つ生徒は基本的に通信制となりますが、マナリエル様がご入学された時に不便のないよう、敷地内は在学中にある程度覚えておきました」

「さっすが」

 こうやって先々を見通して行動してくれるナディアがいてくれるからこそ、私は目の前だけに集中できるのよ。

「ありがとう。じゃぁ、行ってくるね」

「行ってらっしゃいませ」

 頭を下げるナディアを背に、丁寧にドアを開けた。さぁ、ここからはしっかり演じなきゃね。

 ドアを開けた先には、これまた魔法使いらしい雰囲気たっぷりの部屋があった。大小様々なフラスコが並び、中にはグツグツと緑色の液体が煮てあるものも……。レンガの壁には見たことのない植物が張り付いていて、心なしか動いている気がする。
 案の定、中にいる生徒達の視線は全て私に向いていた。ざわついていた教室が、一気に静まり返る。あまりにも長く見てくるものだから、一瞬何かやらかしたかと不安になったが、その顔を見ればすぐ理解した。

(みんな赤らめちゃって)

 教室内の生徒はもれなく全員、もちろん男女問わず、私も見たまま頬を赤らめている。きっとこの顔に見惚れているんだろう。まぁね、スキル絶世の美女だし。毎日会っているメイドでさえ、うっとり見つめてくる時があるくらいだ。

 そのまま視線を無視するのも澄ました印象を与えてしまうかと思い、とりあえずふんわりと微笑んで入室した。あ、誰か倒れた。まぁいいや。さて、私の席はどこなのかしら……。

「マナリエル様!こちらです!」

 席からピコンピコンと揺れる手が見えた。ウロウロさ迷うのも格好がつかないから、とりあえずその手を目指すことにする。豪快に手を振り回していたのは、中性的な顔立ちの男の人だった。これまたイケメン登場だよ。

「初めまして、マナリエル様!俺はレイビーと言います。で、こっちがイリス。双子の妹っす!」

「初めまして!イリスです!以後お見知りおきを!」

 声がでけぇ。今この部屋、私が入ってきてからシーンてなってるんだけど。未だに視線は私に集中しているし、もはや立っているのも恥ずかしい。ため息を吐いて、レイビーとイリスがバンバンと叩いて促してくる席に腰をおろすことにした。二人に挟まれる形となる。

 座ったことにより、集まってくる視線は幾分和らいだ。再び教室内で小さな話し声が聞こえ始める。けれどさっきと違うのは、きっと話の内容が私だということ。ヒソヒソと自分のこと話されるのも、また面倒だな。私は今日何度目か分からないため息を吐いた。


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