追放聖女と元英雄のはぐれ旅 ~国、家族、仲間、全てを失った二人はどこへ行く?~

日之影ソラ

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24.山を越えて

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 イタルカ共和国の国境線は、高く聳え立つ山々と重なっている。
 次なる目的地は山脈を超えた先。
 かつて栄えた小さなの跡地に、忘れ去られた廃都があるという。
 私たちを乗せた馬車は、山脈を目指して進んでいた。
 車輪が石を踏む度、ガタンと大きな音をたてて揺れる。

「ねぇユーレアス、本当にこっちであってるの?」
「心配いらないよ。地図上だと、ここが正解ルートなんだ」

 私は地図を広げて確認する。
 進んでいるのは道だけど、普通の人が行き来に使う道じゃない。
 自然に出来た畦道だ。
 
 イタルカ共和国の隣国は、ウェストニア王国という。
 二つの国を隔てるのは山脈だが、実は一つではない。
 山脈は二つ並んでいた。
 並行に出来た二つの山脈が、両国の国境を作っている。
 そして、山脈の間には――

「かつて小さな国があった。その国の名前はユーラス。大きな街は都ただ一つという、本当に小さな国だったそうだよ」

 と、ユーレアスが運転しながら語ってくれた。
 国が滅んだのは今から約五百年ほど前。
 一か月間続いた異常気象により、毎日暴風と雷の繰り返し。
 作物は枯れ、家畜小屋も壊れて逃げ出し、人々も病で倒れだした。
 隣国に支援を頼んだようだが、異常気象はユーラスの地域のみで、他は被害が出ていなかった。
 わざわざ危険を冒してまで支援するつもりはないと突っぱねられてしまった。
 そうして異常気象が落ち着いた頃。
 旅人が街へ行くと、そこには誰もいなかった。

「たった一月で国が滅んだって、教えてくれた人は驚かそうとしていたね」
「うん。でも……」

 私たちは驚かない。
 だって、もっと短い時間で滅んだ国を知っているから。
 どんな理由であれ、人が造り上げたものは簡単に壊れてしまう。
 他の人よりも、ほんの少しだけそのことを知っている。

「きっと……その人たちも悲しかったんだろうなぁ」

 私がそうだったから。
 いろんな想いがあって、やるせない気持ちでいっぱいになった。
 自分の国は帰る場所で、誰かと一緒に生きていた。
 大切な場所を失うことは悲しいことだ。

「なら、到着したらまず手を合わせよう」

 私の顔を見て、ユーレアスがそう言った。
 悲しそうな表情に気付いたんだろう。
 彼は続けて言う。

「二百年も経っているなら、さすがに魂は残っていないと思う。それでも、多くの人たちが命を落とした場所なら、礼儀は尽くすべきだよ」
「そうだね……うん、そうしよう」

 ユーレアスが言うと、誰よりも説得力がある。
 たくさんの魂を見て、触れてきた彼だからこそ、その熱さを理解している。
 目当ての絶景を堪能するのは、礼を尽くした後にしよう。

 そうして三時間後。
 夕日が沈みかけた空。
 馬車は山脈の手前までたどり着く。
 崩れた岩と生い茂る木々に隠れて、小さなトンネルがある。

「本当にあった」
「あの本に書かれていた通りだね」

 トンネルを見つけて驚くユーレアス。
 私はエレナの本に書かれていた内容を思い出す。
 
 隣国からユーラスへ向かうルートは三つ。
 一つは山脈を登っていくルート。
 途中まで道があるけど、半分くらいで止まっているから徒歩推奨。
 二つは一番安全な山脈を大回りして避けていくルート。
 時間は何倍もかかるけど、確実にたどり着ける。
 そして――

「三つ目が、人用に造られたトンネルか。う~ん、見た感じ馬車一台くらいなら通れそうな幅と高さはあるね」
「じゃあ馬車で行こうよ」
「よし、そうしよう」

 このトンネルは、ユーラスの人たちが山脈を超える際に使われていたものだ。
 完全な一本道で、まっすぐ進めば山脈を超えられる。
 とても便利なルートだが、大きな荷物は運べないという欠点があって、支援要請の際は使えなかったそうだ。
 
「今更だけど、勝手に入っても良かったのかな」
「問題ないさ。何せどの国にも属さない場所なんだしね」

 行き来に難があって、異常気象にも見舞われる土地。
 そんな運要素の強い土地を、どの国も欲しがらなかった。
 加えて、かつて支援要請を断り見捨てた国の領地だ。
 有用性を考えなくとも、手を出しにくかったに違いない。

「以来、誰もユーラスの土地へはいかなくなったらしいね。お陰で近くの街の人ですら、この先に国があったことも知らない。知っているのも限られた老人だけ」

 ユーレアスの言う通り、山脈に近い街に立ち寄ったけど、ユーラスの情報は少なかった。
 あの本に書かれていた内容のほうがよっぽど多い。
 故に、エレナはユーラスの国を、忘れられた王国と表現していた。

「忘れられた国……」
「ノア?」
「ううん、何でもないよ」

 本当は少し、エストワール王国のことを思い出していた。
 遠くない未来で、私が生まれた国もそう呼ばれる日がくるのかな。
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