異世界生まれの鍛冶屋さん ~理不尽にクビ宣告された宮廷鍛冶師、敵国の魔王様にスカウトされ自分のお店を開業する~

日之影ソラ

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「へぇ、打ち直すってそこからやんのか」

 ドンダさんの声が聞こえる。
 私が選択したのは、刀鍛冶のように鉄から育てる方法だった。
 時間がかかるし、鍛冶師の力量がより鮮明に現れる。
 だからこそ、やりがいがある。
 炉で溶かした鉄に、生石灰を加えて鉄を鋼へと変える。

 鉄と鋼の違いは含ま絵る炭素分の割合だ。
 炭素分を多く含んだ鉄は脆い。
 鋼に変えることで、より強度の高い刃の元にする。
 本当は砂鉄から鋼を作りたかったけど、それは時間がかかるし、用意ができなかった。
 
 鋼になった刃の元を、今度はハンマーで叩く。
 凄まじい音が鳴り響き、火花が散る。 

「あの叩く作業の意味はなんだ?」
「鋼をより硬くしてるんですよ。鋼を構成する要素の間にある気泡とか、不純物を叩くことで外に出す。隙間だらけの積み木が、隙間のない整列された積み木に変わるって感じです」
「わかりやすい例えだな」
「師匠の受け売りですよ。腕のいい鍛冶師なら、短い回数で鍛錬を終える……もう終わりますよ」

 叩いて不純物を外に逃がす。
 鋼も鉄も、熱している間は柔らかく、加工がしやすい。
 この間にできるだけ高純度の鋼に変える。
 作業が終わり、ここから刃を作る。
 刀を作るならもう少し工程がいるけれど、今回は違う。
 騎士が使っていたのは剣だ。
 剣と刀は明確に違う。
 形状はこれまで通りに、できるだけ使えいやすいように。
 ただし、刀の特徴は取り入れる。

 斬れる刃は鋭く、刃の芯になる受ける部分は柔らかく。
 硬いだけの刃は衝撃によって簡単に砕ける。
 クッションが必要だ。
 刀は刃と峰の硬さの違いが、斬れやすく折れにくいという相反する特徴を共存させた。
 まったく同じは無理だけど、剣の形状のまま刀の特徴を再現しよう。

「すげぇな、ありゃ本物だ」
「わかるのか?」
「当たり前ですよ。鍛冶師なら、ソフィアちゃんがやってることの凄さがわかる。陛下、あんたとんでもない逸材連れてきましたね」
「――ふっ、それでこそ」
 
 ドンダさんとグレン様が何は話している。
 作業に集中していると、何を話しているかまではわからない。
 さぁ、刃はもうすぐ完成する。

「ん? あれで完成じゃないのか?」
「だと思いますがね」

 剣の形状のまま刀の特徴を。
 とは言ってみたものの、完璧には再現できない。
 刀はあの形だからこそ成立する。
 だから足りない部分は、ちょっと卑怯だけどこれで補おう。

「――! まさか魔剣? 効果を付与してんのか!」
「できて当然だろうな。聖剣すら作れる鍛冶師だ」

 付与するのは耐久性の向上。
 魔剣は何でも効果を付与すればいいわけじゃない。
 器と釣り合わなければ刃が砕ける。
 余分な効果は不要。
 必要なのは、とにかく折れないこと。
 剣が折れなければ戦える。
 この剣を持つ騎士たちが、戦場から生きて帰ることができるように――

  ◇◇◇
 
「手伝ってくれたお礼です! どうぞ」
「ありがとうございます」

 完成した剣を彼らに返す。
 受け取った彼らは、鞘から剣を抜き、刃に魅入る。

「凄い。なんだろう……吸い込まれるような……」
「優れた剣は使い手を選ぶという」

 グレン様が騎士たちに言う。

「その剣に相応しい騎士になれるよう、これからも精進することだ」
「はい!」

 そ、そこまで大したものじゃ……ないと思いますけど?
 喜んでもらえたなら何よりだ。

「少し羨ましいな」
「グレン様?」
「ソフィア、今度時間があったら、俺の剣も作ってくれないか?」
「――! はい、ぜひ」

 一番お礼がしたいのはグレン様だ。
 その時は、とびっきりの一振りを作ろう。
 勇者の聖剣にも負けないような。
 至高の一振りを。
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