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そうして私は、毎日のように鍛冶場で働いた。
苦ではなかった。
自分のやりたいことを、自分の意志でやれるのだから、楽しかった。
前世も含めてそれなりの人生で、一番かもしれない。
夢に向かって進む実感が、私から疲労を忘れさせていた。
だから私は――
「……あ……」
自分が凄く疲れていることにも、気づいていなかった。
気づかぬまま鉄を叩き、その衝撃に身体が負けて倒れそうになる。
目の前には高温に熱せられたかまどがある。
突っ込んだら大惨事、最悪死んでしまう。
倒れ――
「っと! 危なっかしいな」
「……グレン様?」
「危機一髪か。俺がいなかったら今頃大やけどだろ?」
「……! す、すみません!」
グレン様に支えられていることに気づいた私は、慌てて姿勢を治そうとする。
けれどグレン様は私を離さない。
ぎゅっと両肩を掴み、力強く持ち上げて、そのままお姫様を担ぐように抱きかかえた。
「え、え?」
「王の命令だ。このままじっとしていろ」
「は、はい」
少し怒っている様子のグレン様に威圧されて、言われるがままじっとする。
グレン様は私を抱きかかえて、私の部屋まで移動した。
「あ、あの……」
「今日はもう休め。働きすぎだ」
「……す、すみません」
「真面目なのも考え物だな。まぁ、知っていて声をかけなかった俺にも非はある」
「え? もしかして……これまでずっと見ていらしたんですか?」
「ああ。毎日顔は出していたぞ」
気づかなかった。
グレン様は忙しくても、私の様子を見に来てくれていたのか。
「それなら声をかけてくだされば」
「集中していたからな。邪魔するのは野暮だと思ったが……今思えば声をかけるべきだった。お前は集中が度を過ぎる」
「う……はい」
ごもっともすぎて何も言えない。
しゅんとした私を、グレン様はベッドに優しく降ろす。
「誰も見ていないと思うな。俺はちゃんと見ている。そのことを忘れるな」
「グレン様……はい」
改めて実感する。
私一人の力で、この場所を手に入れたわけじゃないことを。
グレン様が私を見つけて、導いてくれたことが全てのきっかけだ。
だから、心配させたくない。
安心して、期待してほしい。
明日から気をつけよう。
そう思ったのも、実は初めてだったかもしれない。
そして――
◇◇◇
時間はあっという間に過ぎて。
店には剣や武器、防具、そして包丁も数本並んでいる。
外見だけじゃなく、中身もちゃんとお店になった。
「よし!」
開店日はグレン様も知っている。
彼は一番に来てくれると約束してくれた。
最高の笑顔とあいさつで迎えよう。
渡したい物もあるんだ。
今日まで私のことを見守り、支えてくれたお礼を――
カラン。
扉のベルが鳴る。
私は期待した。
でも……。
「……え?」
「やぁ、久しぶりだね? ソフィア」
「……エレイン……様?」
その期待は、無残に砕かれた。
苦ではなかった。
自分のやりたいことを、自分の意志でやれるのだから、楽しかった。
前世も含めてそれなりの人生で、一番かもしれない。
夢に向かって進む実感が、私から疲労を忘れさせていた。
だから私は――
「……あ……」
自分が凄く疲れていることにも、気づいていなかった。
気づかぬまま鉄を叩き、その衝撃に身体が負けて倒れそうになる。
目の前には高温に熱せられたかまどがある。
突っ込んだら大惨事、最悪死んでしまう。
倒れ――
「っと! 危なっかしいな」
「……グレン様?」
「危機一髪か。俺がいなかったら今頃大やけどだろ?」
「……! す、すみません!」
グレン様に支えられていることに気づいた私は、慌てて姿勢を治そうとする。
けれどグレン様は私を離さない。
ぎゅっと両肩を掴み、力強く持ち上げて、そのままお姫様を担ぐように抱きかかえた。
「え、え?」
「王の命令だ。このままじっとしていろ」
「は、はい」
少し怒っている様子のグレン様に威圧されて、言われるがままじっとする。
グレン様は私を抱きかかえて、私の部屋まで移動した。
「あ、あの……」
「今日はもう休め。働きすぎだ」
「……す、すみません」
「真面目なのも考え物だな。まぁ、知っていて声をかけなかった俺にも非はある」
「え? もしかして……これまでずっと見ていらしたんですか?」
「ああ。毎日顔は出していたぞ」
気づかなかった。
グレン様は忙しくても、私の様子を見に来てくれていたのか。
「それなら声をかけてくだされば」
「集中していたからな。邪魔するのは野暮だと思ったが……今思えば声をかけるべきだった。お前は集中が度を過ぎる」
「う……はい」
ごもっともすぎて何も言えない。
しゅんとした私を、グレン様はベッドに優しく降ろす。
「誰も見ていないと思うな。俺はちゃんと見ている。そのことを忘れるな」
「グレン様……はい」
改めて実感する。
私一人の力で、この場所を手に入れたわけじゃないことを。
グレン様が私を見つけて、導いてくれたことが全てのきっかけだ。
だから、心配させたくない。
安心して、期待してほしい。
明日から気をつけよう。
そう思ったのも、実は初めてだったかもしれない。
そして――
◇◇◇
時間はあっという間に過ぎて。
店には剣や武器、防具、そして包丁も数本並んでいる。
外見だけじゃなく、中身もちゃんとお店になった。
「よし!」
開店日はグレン様も知っている。
彼は一番に来てくれると約束してくれた。
最高の笑顔とあいさつで迎えよう。
渡したい物もあるんだ。
今日まで私のことを見守り、支えてくれたお礼を――
カラン。
扉のベルが鳴る。
私は期待した。
でも……。
「……え?」
「やぁ、久しぶりだね? ソフィア」
「……エレイン……様?」
その期待は、無残に砕かれた。
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