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深夜二時。
子供も大人も寝静まる時間帯。
静かになった教会に、二人の男がひっそりと近づいていた。
「音立てるなよ」
「ああ、わかってるよ」
二人は昼間に教会を訪れていた。
それ以前から頻回に、夜な夜な教会をのぞき込んだり、ステラの素性を探っていた。
「あの聖女はおかしいぜ。絶対何か秘密かあるはずだ」
「そいつを暴いて脅せば好き放題できるな~」
二人はステラの秘密に感づいている。
否、違和感を感じている程度だが、少しずつ真実に近づいていた。
もっとも二人に正義の心などない。
あるのは下賤な欲のみ。
脅すネタを掴み、彼女をいい様に操りたいだけだ。
「今日こそネタを掴んで――ん?」
「あ? 誰だ?」
そんな二人の前に、黒い外套とフードを纏った何者かが立ち塞がる。
「――去れ」
「あ?」
「何言って――うっ!」
刹那。
視界に捉えられない速度で彼は動き、二人の首を掴んで締め上げる。
「ぐ、ぐ……」
「去れと言った。聞けないのなら、このまま首をへし折る」
「ま、待って……わ、った」
「……そうか」
両手を離すと、二人が地面に膝をつく。
何度もえずきせき込む二人を前に、黒い外套の男は言い放つ。
「次にここへ近づけば、今度こそ絞め殺す。いいな?」
「は、はい」
「う、うあああ!」
殺気をぶつけられ恐怖した二人は一目散に逃げていく。
情けなく背を向けて。
その様子を眺めながら、彼は小さくため息をこぼす。
「まったく……」
そう言って、フードを外す。
月明かりに照らされた正体は――
「これで懲りてくれるといいけど」
フランだった。
彼は教会を徐に見る。
「この調子じゃいつ知られるかわからないよ? サテラ」
ステラは本物の聖女である姉の名前。
彼女の本当名前がサテラだ。
フランがそれを知っているということは……つまり、彼女の正体にも気づいているということ。
そう、彼は知っていた。
愛する者の正体を。
それを知った上で、守ることを決めていた。
「次に来たら本当にどうしようかな? 何か対策を立てておかないと」
彼女は知らない。
自分の平穏が、自分の周りにいる誰かの尽力によって、密かに守られていることを。
偽者の聖女だと知りながら、自身を愛してくれている人がいることを。
真実を知った時、彼女はどんな表情をするのだろうか?
驚くだろうか?
喜ぶだろうか?
それとも……
いつか訪れる未来まで、今しばらく続く。
バレてはいけない嘘と、その嘘を守る為に生まれた優しい嘘。
二つが入り混じった日常が。
子供も大人も寝静まる時間帯。
静かになった教会に、二人の男がひっそりと近づいていた。
「音立てるなよ」
「ああ、わかってるよ」
二人は昼間に教会を訪れていた。
それ以前から頻回に、夜な夜な教会をのぞき込んだり、ステラの素性を探っていた。
「あの聖女はおかしいぜ。絶対何か秘密かあるはずだ」
「そいつを暴いて脅せば好き放題できるな~」
二人はステラの秘密に感づいている。
否、違和感を感じている程度だが、少しずつ真実に近づいていた。
もっとも二人に正義の心などない。
あるのは下賤な欲のみ。
脅すネタを掴み、彼女をいい様に操りたいだけだ。
「今日こそネタを掴んで――ん?」
「あ? 誰だ?」
そんな二人の前に、黒い外套とフードを纏った何者かが立ち塞がる。
「――去れ」
「あ?」
「何言って――うっ!」
刹那。
視界に捉えられない速度で彼は動き、二人の首を掴んで締め上げる。
「ぐ、ぐ……」
「去れと言った。聞けないのなら、このまま首をへし折る」
「ま、待って……わ、った」
「……そうか」
両手を離すと、二人が地面に膝をつく。
何度もえずきせき込む二人を前に、黒い外套の男は言い放つ。
「次にここへ近づけば、今度こそ絞め殺す。いいな?」
「は、はい」
「う、うあああ!」
殺気をぶつけられ恐怖した二人は一目散に逃げていく。
情けなく背を向けて。
その様子を眺めながら、彼は小さくため息をこぼす。
「まったく……」
そう言って、フードを外す。
月明かりに照らされた正体は――
「これで懲りてくれるといいけど」
フランだった。
彼は教会を徐に見る。
「この調子じゃいつ知られるかわからないよ? サテラ」
ステラは本物の聖女である姉の名前。
彼女の本当名前がサテラだ。
フランがそれを知っているということは……つまり、彼女の正体にも気づいているということ。
そう、彼は知っていた。
愛する者の正体を。
それを知った上で、守ることを決めていた。
「次に来たら本当にどうしようかな? 何か対策を立てておかないと」
彼女は知らない。
自分の平穏が、自分の周りにいる誰かの尽力によって、密かに守られていることを。
偽者の聖女だと知りながら、自身を愛してくれている人がいることを。
真実を知った時、彼女はどんな表情をするのだろうか?
驚くだろうか?
喜ぶだろうか?
それとも……
いつか訪れる未来まで、今しばらく続く。
バレてはいけない嘘と、その嘘を守る為に生まれた優しい嘘。
二つが入り混じった日常が。
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