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「せめて雨が降ってくれたらいいんだけどな」
「雨、ですか?」
「ああ。ここ二か月は降っていない。元から雨が少ない土地で、その影響もあって作物が育ちにくいんだよ」
「今年は特に雨が少なかったです。例年の半分か、それ以下でしょうか」
シオンが補足説明をしてくれた。
降雨量にもばらつきがあり、春から夏にかけて育てていた作物は、例年よりもぐんと収穫量が減ってしまったらしい。
続けてアクト様が言う。
「本当は農地をもっと広げたいんだが、畑として使えそうな土地はここだけだ。だから今は、冬場でも育つ作物を植えている最中なんだ」
「雨……」
畑の土を見つめる。
乾燥して、サラサラした質の土だ。
二人が言うように、もうずいぶんと水が流れていないのだろう。
この質の土をいくら耕して種をまいても、大した収穫は期待できない。
私でも、それくらいのことはわかってしまう。
「雨が降らなかったのはこの周辺だけでしょうか?」
「いいや、たぶん山のほうも含めてだろうな。川に流れる水の量も減っているんだ。おかげで生活に使う水も不足しているよ」
「やはりそうなのですね……」
水は作物を育てるだけじゃない。
人々の生活において、水は一番といってもいいほどに重要な資源だ。
下水として利用や、飲み水など。
深刻な水不足に陥れば、人々の生活は立ち行かなくなる。
体調を悪くする人も増えるだろう。
特にお年寄りは、体温調節が苦手になり、水を飲まず脱水症状を起こすことがある。
たかが脱水と侮ってはいけない。
場合によっては命の危険すらある状態だ。
「食べ物よりも、水不足のほうがなんとかしないといけないですね」
「ああ、俺もそう思う。今は他国から飲み水を輸入しているよ」
「量はあるのですか?」
「一応はな。ただ値段もそこまで安くない。この状況がずっと続くと、国としては厳しいな」
「売れるとわかると値段を上げるのは……少し意地悪ですね」
「そういうな、シオン。彼らも商売なんだ」
需要と共有にのっとって市場の価格は変化する。
この世界でも、商売とはそういうものだった。
シオンが意地悪という気持ちもわかるし、売れるなら多少値段を上げることも、商売ならば責めらる行為ではない。
ましてやこの国と関わりのない人たちにとっては……。
「せめて一度でもいいから、雨が降ってほしいな。そうすれば多少は……」
「……わかりました。雨が降るように、祈りを捧げてみましょう」
「え?」
「イリアス様?」
二人は驚いて目を大きく開き、私のことを見つめる。
アクト様が続けて尋ねる。
「聖女の力で、雨を降らせるのか?」
「そんなことが可能なのですか?」
「ハッキリと、できるとは言えません。私も試したことがありませんので……ただ、祈りによって起こせる奇跡は一つではありません」
聖女の力は、祈りを捧げて奇跡を起こす。
奇跡を起こすのは私じゃない。
祈りを、願いを聞き届けた神様が、必要だと感じてくださったときに起こる。
だから怪我の治療や、病の治癒だけが奇跡じゃない。
今まで必要なかったし、個人の願いを超えるような祈りは試したことがない。
「試す価値はあると思います。何より、皆様の願いが本物なら……きっと主にも届くはずです」
「雨、ですか?」
「ああ。ここ二か月は降っていない。元から雨が少ない土地で、その影響もあって作物が育ちにくいんだよ」
「今年は特に雨が少なかったです。例年の半分か、それ以下でしょうか」
シオンが補足説明をしてくれた。
降雨量にもばらつきがあり、春から夏にかけて育てていた作物は、例年よりもぐんと収穫量が減ってしまったらしい。
続けてアクト様が言う。
「本当は農地をもっと広げたいんだが、畑として使えそうな土地はここだけだ。だから今は、冬場でも育つ作物を植えている最中なんだ」
「雨……」
畑の土を見つめる。
乾燥して、サラサラした質の土だ。
二人が言うように、もうずいぶんと水が流れていないのだろう。
この質の土をいくら耕して種をまいても、大した収穫は期待できない。
私でも、それくらいのことはわかってしまう。
「雨が降らなかったのはこの周辺だけでしょうか?」
「いいや、たぶん山のほうも含めてだろうな。川に流れる水の量も減っているんだ。おかげで生活に使う水も不足しているよ」
「やはりそうなのですね……」
水は作物を育てるだけじゃない。
人々の生活において、水は一番といってもいいほどに重要な資源だ。
下水として利用や、飲み水など。
深刻な水不足に陥れば、人々の生活は立ち行かなくなる。
体調を悪くする人も増えるだろう。
特にお年寄りは、体温調節が苦手になり、水を飲まず脱水症状を起こすことがある。
たかが脱水と侮ってはいけない。
場合によっては命の危険すらある状態だ。
「食べ物よりも、水不足のほうがなんとかしないといけないですね」
「ああ、俺もそう思う。今は他国から飲み水を輸入しているよ」
「量はあるのですか?」
「一応はな。ただ値段もそこまで安くない。この状況がずっと続くと、国としては厳しいな」
「売れるとわかると値段を上げるのは……少し意地悪ですね」
「そういうな、シオン。彼らも商売なんだ」
需要と共有にのっとって市場の価格は変化する。
この世界でも、商売とはそういうものだった。
シオンが意地悪という気持ちもわかるし、売れるなら多少値段を上げることも、商売ならば責めらる行為ではない。
ましてやこの国と関わりのない人たちにとっては……。
「せめて一度でもいいから、雨が降ってほしいな。そうすれば多少は……」
「……わかりました。雨が降るように、祈りを捧げてみましょう」
「え?」
「イリアス様?」
二人は驚いて目を大きく開き、私のことを見つめる。
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「聖女の力で、雨を降らせるのか?」
「そんなことが可能なのですか?」
「ハッキリと、できるとは言えません。私も試したことがありませんので……ただ、祈りによって起こせる奇跡は一つではありません」
聖女の力は、祈りを捧げて奇跡を起こす。
奇跡を起こすのは私じゃない。
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だから怪我の治療や、病の治癒だけが奇跡じゃない。
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