偽者に奪われた聖女の地位、なんとしても取り返さ……なくていっか! ~奪ってくれてありがとう。これから私は自由に生きます~

日之影ソラ

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「――!」

 それは、私にとっても初めての体験だった。
 彼の手が私の手に触れた途端、身体中から力が沸き上がってくる。
 これは祈りの力だ。
 ここまでハッキリと、祈りの力を実感できたのは、この時が初めてだった。

「アクト様、これは……」
「――わからない。俺もこんなこと初めてだ」

 何より驚かされたのは、アクト様の身体も、私と同じように祈りの力に包まれていたことだ。
 祈りの後、奇跡が起こる予兆の輝きではない。
 祈りの力そのものが、私とアクト様の全身を包むように覆っている。
 私たちが互いの顔を見つめ合う。
 驚きと、確かな実感を胸に。

「アクト様、今なら……祈りも届くかもしれません」
「ああ、俺も同じことを思ったよ」

 互いに頷き、必死に祈る人々に、再び呼びかける。

「みんな、すまないがもう少し祈り続けてくれ!」
「どうかお願いします。皆様の祈りを、願いを私たちに貸してください」

 その言葉に呼応するように、人々の祈りが私の身体に集められる。
 流れ込んでくる想いに呼応して、私たちを包む輝きも、より眩しさを強めた。
 どうしてこんな現象が起こるのか、私たちには理解できない。
 わからずとも感じる。
 祈りが強く、確かな輝きを放つ今ならば――

「主よ、この地に恵みの雨をもたらしください。か弱き者たちに、希望をお与えください」

 祈りは届く。
 増幅された祈りの輝きは、天まで昇った。
 祈りが天に、神様に届く。
 光の柱が立った先で、徐々に雨雲が生成され始めた。
 そしてついに……。

 ぽつり。

 天より雫が落ち、私の頬を伝わり流れた。
 一滴をきっかけに、水滴は何粒も、数えきれないほど落ちてくる。
 雨は降った。
 数か月ぶりに、乾いた大地に恵みの村雨が降り注ぐ。

「おお! 本当に雨だ! 雨が降ってくれた!」
「なんという奇跡……」

 人々は歓喜のあまり膝から崩れ落ちる。
 中には涙を流す者もいた。
 雨の雫と、頬を流れ落ちる雫が合わさって、乾いた大地を潤していく。

「イリアス、雨だ。俺たちの祈りが通じたんだ」
「……はい」

 神様まで届いた。
 降り注ぐ雨は決して、人々を打ち付けるような強い雨じゃなかった。
 優しく降り続ける雨は、さらに広く、王都の街の外まで広がっていく。
 山のほうにも雨雲が出来上がっているのが見えた。
 山にも雨が降れば、川に水が流れ、地面にしみ込めば地下水となる。
 
「雨が降るようになれば、水不足も軽減されるはずだ。これで少しは……皆が生活の中で感じる不安も減ってくれるだろう」
「はい。続いてくれるといいですね」
「続くさ。なんでだろうな? そんな予感がするんだ」
「……私もです」

 根拠はないけれど、この雨が止んでも、また雨は降る気がした。
 私たちが願ったのは、一度きりの雨じゃない。
 枯れた大地を潤し、作物が育つ豊かさを手に入れるには、まだまだ時間がかかる。
 それまで続いてくれる。
 神様は意地悪なんかじゃない。
 ちゃんと見て、私たちが本気で祈れば、応えてくれる。
 天候すら変えてしまう奇跡を起こせたように。

 聖女の祈りが雨を降らす。

 この日、聖女の新たな伝説が生まれた。
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