300年『宮廷魔法使い』として国を支え続けた魔女ですが、腹黒王子にはめられて国外追放されました ~今さら戻れと言っても無駄です~

日之影ソラ

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4.元教え子との再会

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 どこの国にも属していない辺境の山奥。
 人なんてめったに訪れない場所に、ポツンと一軒の家が建っている。
 家と呼ぶにはいささか小さすぎるだろうか。
 そこで私は暮らしていた。

「ふっ、うーん……もう朝ね」

 窓から差し込む日差しで目が覚める。
 朝が来ることにホッとしながら起き上がり、ゆるりと着替えをする。

 あれから十年が経過した。
 五百年以上生きる私にとっては短い期間だったけど、とにかく慌ただしい日々だった。
 私を帝国から追い出して三年でフレール殿下が王になり、即位と同時に様々な政策を発表した。
 そのうちの一つが、魔女狩り令の執行。
 魔女は危険な思想の持ち主だと主張し、世界から魔女を排除すると宣言したんだ。
 加えて世界各国とも協定を結び、大連合国のトップとなったことで、魔女を敵視する思想は世界中に広まってしまった。
 もはや人間の国の中に、私たち魔女の居場所はなくなった。

 着替えを済ませた私は、何気なく家の外へと出る。

「ホント……何もない」

 見渡す限りの自然、緑色が支配する。
 人が暮らした形跡なんてほとんど残っていないけど、昔は近くに村があったはずだ。
 ずっと昔にお世話になったから、その伝手を辿って来てみたけど、実際に到着したらこのありさま。
 村は滅び、ボロボロの木小屋が一軒だけ残っている。

「ここだけでも残っていただけマシね。一先ずここまでは追っ手も――」

 辺境の山奥。
 国と国の間に位置し、人が訪れることない。
 だから大丈夫だと思っていたけど、どうやら勘違いだったみたいだ。
 小屋の周りに展開しておいた探知魔法に反応があった。
 一人、二人……七人。
 数は少ないけど、確実に追手だろう。

「ここも駄目なんだ……仕方ないね。テレ――」

 転移魔法を発動させようとした直後、私の上空を結界が覆う。
 薄いピンク色の結界に、私の魔法は打ち消された。

「これは!?」
「――【魔法無効化結界アンチマジックエリア】だよ。反逆の魔女リザリー」

 森の奥から声が聞こえる。
 木々の間を抜けて現れたのは、武装した帝国の騎士たちだった。
 姿がハッキリ見える六人に、後ろに一人控えている。
 先頭の男が持っているピンク色の水晶……あれが結界を発生させている魔導具のようだ。
 しかも効果はかなり強力で、十年前の手錠は解除できたけど、この中じゃ私でも魔法が使えない。

「いつのまにこんな結界まで……」
「凄いだろう? これも三魔女様方のお力だ」
「魔女!? 魔女が協力しているの?」
「ああそうだ。お前と違って陛下に忠誠を誓った方々だ」

 そんな……私が知らない間に、他の魔女が協力している?
 魔女狩り令なんて出している国に。
 ありえない。
 一体どこの魔女がそんな真似を……

「さて、魔法が封じられれば魔女もただ女だ。今日こそ年貢の納め時だな?」
「くっ……」
「おっと、逃げようとしても無駄だ。この結界は物理的な壁にもなってる。逃げたところで行き止まりだ。お前はもう終わってるんだよ」
「……」

 どうする?
 このまま逃げてもあいつの言う通り逃げ切れない。
 かといって戦って勝てるわけもない。
 媚びへつらえば命だけは助けてくれるかも……なんてありえない。
 遊ばれるだけ遊ばれて、ちゃんと殺されるだけだ。
 どう足掻いても殺される未来しかない。

「……本当に終わり……なのね」
「そうだ」

 十年間の逃避行の終点。
 これで全部終わりか。
 
「なんだ諦めたか。じゃあさっそく――」
「悪いな、それは許さないよ」
「え?」
「なっ――」

 一瞬の出来事だった。
 目で追えない速度でひき抜かれた剣、その斬撃に次々と騎士たちが倒れていく。
 カチャリと剣が鞘で音を立てた時には、彼を含む六人全員が倒れていた。

「た、隊長?」
「安心しろ、柄で殴っただけだ」

 銀色の髪に青い瞳の騎士。
 一目見た時、直感的に思い浮かんだ人がいる。

「アレク?」
「はい。お久しぶりですね、リザリー先生」

 アレクシス、私の最後の教え子。
 二十歳になった彼が今、目の前に立っていた。
 
「どうして? なんで君が? それにその恰好は」
「はい。御覧の通り帝国の魔法騎士に、一応これでも部隊長になりました。まぁもっとも、それも今日限りですが」

 彼は優しく微笑む。
 助けられた私は、未だに状況がつかめず混乱していた。
 いろいろと疑問は多い。
 ただ一番気になっているのは……

「どうして私を助けてくれたの? 君は帝国の騎士になったんでしょう?」
「はい。ですがそれは元々、先生を探し出すのに都合が良かったからです。僕が今日まで研鑽を積んできたのも、先生を守りたいからですよ」
「守る……」
「覚えていませんか? 十年前も同じことを言ったと思います」

 もちろん覚えている。
 子供の無邪気な言葉だったけど、私にはとても嬉しかった。
 心に響いた宝物の一つだった。
 まさかと思うよ。
 そんな言葉が、思いが今でも続いているなんて。

「隊長……裏切るつもりか?」
「裏切るも何も、僕は最初から国に従っていたわけじゃない」
「魔女に裏切られたと! 許せないと言っていたはずだ! だから魔女狩りの部隊長になったと!」
「そう言えば選ばれるとわかっていたからだよ。そもそも最初に裏切ったのは今の帝王だ。真実を隠し、魔女を敵とみなすやり方のどこに正義がある? 僕は僕の正義を信じる。お前たちも一度、自らの正義を考え直すと良い」

 動けない彼らに言い放つアレク。
 話し方や態度、もちろん背丈も大きくなって、大人になったんだと実感する。
 子供の頃から整った顔立ちをしていたからか、容姿も優れていて……

「先生、遅くなってしまって申し訳ありません」
「え……」
「本当はすぐに助けたかった。でも幼い僕には力がなくて叶わなかった。でも今なら、強くなった今なら言えることがあります」
「アレク?」

 彼は私の手を優しく、しかし力強くギュッと握る。
 そして――

「先生、僕を貴女だけの騎士にしてください。この先ずっと、貴女の傍にいさせてください」
「――それは、でも君まで罪人になるわ」
「覚悟なら十年前から出来ています。僕は先生を守りたくて強くなったんです。それだけが僕の望みです。だからどうか、先生……僕に先生を守らせてください」

 強く願い、強く思う。
 彼の手から、声から、瞳から伝わってくる。
 十年間は人間にとって、とても長い時間だっただろう。
 それほどの時間が経っても尚、彼の思いは色あせることなく、どころか強くなっていた。
 なら私も、それに応えるべきだろうか。

 いや、そんな理屈みたいな理由じゃない。
 嬉しかった。
 誰も味方がいなくなったと思っていたから。
 ここにいるんだと、一人じゃないと教えられた気がして。

 だから――

「私は彼の手を取った」

 この先の未来を信じて。
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