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5.決意と再起
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ソルシエール帝国の王城。
帝王だけが座れる玉座に、十八代目の王となった男が座っている。
その隣には三人の美女がいた。
「フレール様、どうやら失敗したようですね。結界の水晶が破壊されましたわ」
「そうか。意外としぶといね、魔女リザリーは」
十年の月日を経て彼は、理想通りの王となった。
もっとも理想は、彼の中での理想である。
端から見れば単なる独裁者。
自身に恭順する者のみを従え、それ以外は異分子として排除する。
そうして変革を続け、世界最大の独裁国家を作り上げた。
「あの水晶、作るのに苦労したんだけどな~」
「作りが甘かったんじゃないの?」
「そんなことないしぃ~ ちゃんと効果あったし」
「こら二人とも喧嘩しないの。フレール様が呆れてしまうわ」
フレールの隣にいる三人は、彼に従う魔女たちだった。
魔女狩り令が執行されている現在、彼女たちだけが存在を許されている。
その理由は単に、フレールに絶対の服従を誓っているからである。
「リザリーも馬鹿だな。あの時、私に従っていれば楽に生きられたのに」
「ふふっ、まったくです」
「馬鹿だよ馬鹿。そいつ長生きしているだけでなんもわかってねーな」
「本当ですわ。同じ魔女として恥ずかしい限りですこと」
新たな魔女を従え、帝王となったフレール。
もはや彼を止められる者は少ない。
だが、彼は知らない。
魔女には明確な優劣が存在することを。
新たに従えた三人の魔女たちは、魔女としては幼かった。
年月の差はそのまま経験の差となり、力の差となって現れる。
彼らはいずれ知るだろう。
魔女と敵対した本当の意味を……
その頃にはもう、手遅れかもしれないが。
◇◇◇
彼の手を取る。
いつぶりに、誰かの手を握っただろうか?
とても温かくて、男の子らしい強い手だった。
「大きくなったね、アレク」
「はい。先生は……あの頃のままですね」
「うっ、成長してなくてごめんなさいね? どうせ私は小っちゃいわよ」
「なっ、そういうつもりで言ったんじゃありませんから!」
慌てるアレクは可愛らしく首を振る。
そんな彼を見ながら、時間の流れをしみじみと感じていた。
本当に大きくなった。
背丈はもちろんだけど、身体に秘められた魔力の総量も大幅に上昇している。
魔法使いとしても成長しているのは、彼を一目見ただけでわかった。
もちろん、私にはまだまだ及ばないけど。
「それより、これからどうするつもりなの?」
「そうですね。まずはここを離れたほうが良さそうだ」
そう言って彼は、倒れている元部下たちを横目に。
内三人は気絶しているみたいだけど、意識のある一人がアレクを睨みつけていた。
「本気なんですね? 隊長……いやアレクシス」
「最初からそう言ってる。ここは魔物もいないし安全だ。三人が目覚めたらすぐ帝都へ戻ると良い」
「帝国を敵に回すこと……後悔するぞ? 」
「後悔……か。俺が後悔したのはあの日、先生を助けられなかったことだけだ。だからこの先に、俺が後悔することはない」
アレクは決意を胸に、真剣な表情とそう答えた。
自身の覚悟を確かめるように、彼は胸に手を当てる。
今や世界最大の国家となった帝国。
あの国を敵に回すということだけでも相当な覚悟が必要だっただろう。
ましてや内部で仲間を欺き、騙して、私の所までたどり着いた。
優しい彼には辛かったはずだ。
今だって、彼らを裏切ることに罪悪感を抱いていることくらいわかる。
そこまでして、私のことを助けようとしてくれた。
だったら私は……
「行きましょう先生。これ以上、ここにいるのはよくない」
「……そうだね」
「ま、待て! 本気で裏切るのか? 帝国を!」
呼び止める元部下。
背を向けて歩き出そうとしアレクは、その声に立ち止まる。
そして、背を向けたまま。
「何度も言わせないでくれ。俺が守りたいのは帝国じゃない、先生だ」
「……どうして? なぜそこまでするんだ? たかが魔女一人のために」
「決まってるだろ?」
彼は振り返る。
「大切だからだ」
「アレク……」
彼の思いはまっすぐで、紳士的で、温かい。
倒れている元部下の男が言うように、たかだか一人のために帝国を裏切ることなんて、端から見れば馬鹿らしい。
愚かな選択だと言われるだろう。
きっと彼らも、アレクの賢さを知っているんだ。
だから理解できない。
そんな不確定で、険しすぎる道を選んだことが。
たった一人を助けたいという思いが、あらゆる障害すら盲目しにてしまったのだ。
私たちは彼らに背を向け、森の出口へと歩いていく。
ざわつく木々の音は、どこか新しい門出を祝福しているように感じて。
森の抜けた先は、小高い崖から広大な自然を見渡せる。
まさに絶景。
吹き抜ける風が心地よくて、上は青空、下は生い茂る緑のじゅうたん。
私は久しぶりに、大きく息を吸った気がする。
「アレク」
「なんですか? 先生」
「……これから、大変だよ?」
「わかっていますよ。でも安心してください。先生のことは僕が必ず守ってみせますから」
私を守る。
彼は力強くそう言ってくれた。
素直に嬉しい。
心からの言葉だと、疑う余地もないほどだったから。
だから私も、彼の思いに応えたいと思う。
「私も、アレクを守るよ。アレクが私を守ってくれるなら、アレクのことは私が守る。帝国が相手でも、世界が相手だって」
「世界ですか。さすが先生、スケールが違いますね。帝国を相手にするより大変ですよ?」
「ふふっ、そうかもね。でもなんでかな? 今なら何でも出来る気がするの」
身体の芯から力がみなぎってくる。
いや、どちらかというと解放された気分だ。
私は魔女、数百年の長きにわたって生き続けた異質な存在。
そんな私が今日、生まれ変わったのかもしれない。
帝王だけが座れる玉座に、十八代目の王となった男が座っている。
その隣には三人の美女がいた。
「フレール様、どうやら失敗したようですね。結界の水晶が破壊されましたわ」
「そうか。意外としぶといね、魔女リザリーは」
十年の月日を経て彼は、理想通りの王となった。
もっとも理想は、彼の中での理想である。
端から見れば単なる独裁者。
自身に恭順する者のみを従え、それ以外は異分子として排除する。
そうして変革を続け、世界最大の独裁国家を作り上げた。
「あの水晶、作るのに苦労したんだけどな~」
「作りが甘かったんじゃないの?」
「そんなことないしぃ~ ちゃんと効果あったし」
「こら二人とも喧嘩しないの。フレール様が呆れてしまうわ」
フレールの隣にいる三人は、彼に従う魔女たちだった。
魔女狩り令が執行されている現在、彼女たちだけが存在を許されている。
その理由は単に、フレールに絶対の服従を誓っているからである。
「リザリーも馬鹿だな。あの時、私に従っていれば楽に生きられたのに」
「ふふっ、まったくです」
「馬鹿だよ馬鹿。そいつ長生きしているだけでなんもわかってねーな」
「本当ですわ。同じ魔女として恥ずかしい限りですこと」
新たな魔女を従え、帝王となったフレール。
もはや彼を止められる者は少ない。
だが、彼は知らない。
魔女には明確な優劣が存在することを。
新たに従えた三人の魔女たちは、魔女としては幼かった。
年月の差はそのまま経験の差となり、力の差となって現れる。
彼らはいずれ知るだろう。
魔女と敵対した本当の意味を……
その頃にはもう、手遅れかもしれないが。
◇◇◇
彼の手を取る。
いつぶりに、誰かの手を握っただろうか?
とても温かくて、男の子らしい強い手だった。
「大きくなったね、アレク」
「はい。先生は……あの頃のままですね」
「うっ、成長してなくてごめんなさいね? どうせ私は小っちゃいわよ」
「なっ、そういうつもりで言ったんじゃありませんから!」
慌てるアレクは可愛らしく首を振る。
そんな彼を見ながら、時間の流れをしみじみと感じていた。
本当に大きくなった。
背丈はもちろんだけど、身体に秘められた魔力の総量も大幅に上昇している。
魔法使いとしても成長しているのは、彼を一目見ただけでわかった。
もちろん、私にはまだまだ及ばないけど。
「それより、これからどうするつもりなの?」
「そうですね。まずはここを離れたほうが良さそうだ」
そう言って彼は、倒れている元部下たちを横目に。
内三人は気絶しているみたいだけど、意識のある一人がアレクを睨みつけていた。
「本気なんですね? 隊長……いやアレクシス」
「最初からそう言ってる。ここは魔物もいないし安全だ。三人が目覚めたらすぐ帝都へ戻ると良い」
「帝国を敵に回すこと……後悔するぞ? 」
「後悔……か。俺が後悔したのはあの日、先生を助けられなかったことだけだ。だからこの先に、俺が後悔することはない」
アレクは決意を胸に、真剣な表情とそう答えた。
自身の覚悟を確かめるように、彼は胸に手を当てる。
今や世界最大の国家となった帝国。
あの国を敵に回すということだけでも相当な覚悟が必要だっただろう。
ましてや内部で仲間を欺き、騙して、私の所までたどり着いた。
優しい彼には辛かったはずだ。
今だって、彼らを裏切ることに罪悪感を抱いていることくらいわかる。
そこまでして、私のことを助けようとしてくれた。
だったら私は……
「行きましょう先生。これ以上、ここにいるのはよくない」
「……そうだね」
「ま、待て! 本気で裏切るのか? 帝国を!」
呼び止める元部下。
背を向けて歩き出そうとしアレクは、その声に立ち止まる。
そして、背を向けたまま。
「何度も言わせないでくれ。俺が守りたいのは帝国じゃない、先生だ」
「……どうして? なぜそこまでするんだ? たかが魔女一人のために」
「決まってるだろ?」
彼は振り返る。
「大切だからだ」
「アレク……」
彼の思いはまっすぐで、紳士的で、温かい。
倒れている元部下の男が言うように、たかだか一人のために帝国を裏切ることなんて、端から見れば馬鹿らしい。
愚かな選択だと言われるだろう。
きっと彼らも、アレクの賢さを知っているんだ。
だから理解できない。
そんな不確定で、険しすぎる道を選んだことが。
たった一人を助けたいという思いが、あらゆる障害すら盲目しにてしまったのだ。
私たちは彼らに背を向け、森の出口へと歩いていく。
ざわつく木々の音は、どこか新しい門出を祝福しているように感じて。
森の抜けた先は、小高い崖から広大な自然を見渡せる。
まさに絶景。
吹き抜ける風が心地よくて、上は青空、下は生い茂る緑のじゅうたん。
私は久しぶりに、大きく息を吸った気がする。
「アレク」
「なんですか? 先生」
「……これから、大変だよ?」
「わかっていますよ。でも安心してください。先生のことは僕が必ず守ってみせますから」
私を守る。
彼は力強くそう言ってくれた。
素直に嬉しい。
心からの言葉だと、疑う余地もないほどだったから。
だから私も、彼の思いに応えたいと思う。
「私も、アレクを守るよ。アレクが私を守ってくれるなら、アレクのことは私が守る。帝国が相手でも、世界が相手だって」
「世界ですか。さすが先生、スケールが違いますね。帝国を相手にするより大変ですよ?」
「ふふっ、そうかもね。でもなんでかな? 今なら何でも出来る気がするの」
身体の芯から力がみなぎってくる。
いや、どちらかというと解放された気分だ。
私は魔女、数百年の長きにわたって生き続けた異質な存在。
そんな私が今日、生まれ変わったのかもしれない。
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