300年『宮廷魔法使い』として国を支え続けた魔女ですが、腹黒王子にはめられて国外追放されました ~今さら戻れと言っても無駄です~

日之影ソラ

文字の大きさ
7 / 25

7.アフタリアの王女

しおりを挟む
 私が隠れ住んでいた場所から、目的地まで仮に陸路を使ったとしよう。
 その都度の最短ルートかつ、最も適していて速い乗り物を使ったとしても、確実に一月は要する。
 だけど、私たちは魔法使い。
 大陸の端でも、空を飛べば一瞬だ。
 陸路で一月かかる距離だって、空を高速で飛べば三日かからず到着する。
 懸念すべきは魔力の消費だけだ。
 ただしそれも、魔女である私には関係ないのだけど。

「もうすぐ到着しますよ。思ったより早く着きそうですね」
「そうね。天候も良かったし」
「はい。山岳地帯を抜ける時に安定していたのが助かりました。あそこは事前情報だとかなり厳しい場所のようでしたから。場合によっては迂回しないといけなかったので」
「……見違えたね」

 ぼそりと漏れた一言に、アレクがキョトンとした顔を見せる。
 思わず口に出てしまった。
 どうやら声は届いたけど、何を言ったのかは聞こえていなかった様子だ。
 私と並んで空を飛ぶ彼を見ながら、幼かったあの頃を比べていた。
 
「どうかしましたか?」
「感心してたんだよ。私と同じ速さで飛んでも魔力切れを起こさないし。昔より魔力の制御が上達したみたいだね」
「当然ですよ。この数年間、先生の教えを守って修行を積みましたから。これくらい出来て当然です」
「ふふっ、当然ね」

 そう言ってしまえることが凄いんだ。
 改めて、彼の魔法使いとしての才能に感服する。
 人間でありながら並外れた魔力量を持ち、魔法に対する貪欲で直向きな関心を持っていた。
 身体に見合わない魔力量の所為で制御こそ苦手にしていたけど、それも克服してしまったようだ。
 今の帝国の内情は知らないけど、彼は間違いなく帝国魔法使いでもトップの実力を身に着けたに違いない。
 帝国も惜しい人を失ったな。
 自業自得とは言え、私と関係しているなら多少はスカッとするか。

「我ながら器が小さいなー」
「先生、まだ身長が伸びないこと気にして――」
「気にしてないから! 私の身長はまだ成長期が来てないだけなの!」
「……五百年も経って?」
「うっ……ま、魔女は長生きだから仕方がないの」

 アレクが呆れ顔をしている。
 昔はもっと純粋な笑顔で励ましてくれたのに。
 こんなところで成長の弊害が現れてるの?

「先生はそのままでいいんですよ。小さいほうが先生って感じがしますから」
「ちょっ、それ馬鹿にしてない?」
「してませんよ。本心で言ってますから」
「それはそれで酷くない? 身長がコンプレックスだってことは前から教えて……」

 クスリと、風を切る音は別で、彼が笑った声がした。
 そっぽを向いているけど、口元が緩んでいるのが丸わかりだ。

「やっぱり馬鹿にしてるよね? あんなに素直だったアレクがイジワル言うようになるなんて……」
「違いますよ。笑ったのは嬉しかったからです」
「自分のほうが背が高くなったことが?」
「違いますって。どれだけ身長のこと気にしてるんですか」

 またまた呆れ顔を見せるアレク。
 それだけじゃなくて、まだ口角が少し上がってる。
 私だって馬鹿じゃないし、それが私をからかっている笑いじゃないことくらわかる。
 じゃあ何で笑っているの?
 と、尋ねる前に、アレクが答えを口にする。

「嬉しかったのは、先生の気が緩んでくれたことですよ」
「あ……」
「ついさっきまで落ち込んでいたのが、今は少しでも笑顔が見れて嬉しかったんです」
「……そっか」
 
 私、気づかないうちに笑っていたんだ。
 あの頃みたいに、穏やかな気持ちで。
 
「アレクのお陰だよ。話してたら、なんだか気が楽になった」
「それは良かったです」
「私より身長が高くなったことは怒ってるけどね?」
「勘弁してくださいよ……」
「ふふっ、冗談よ」

 そう、冗談だ。
 冗談を軽口で言えるくらいには、私の心の重みは解消されたらしい。
 一人きりじゃない。
 誰かが一緒にいてくれることが、孤独を解消してくれたことが、心にとって薬になったみたいだ。
 鎖みたいに絡まっていた物が解きほぐされた感覚。
 身体の軽さを感じながら、私はほんの少しだけ飛ぶ速度を上げた。
 それにも容易についてくる彼と共に、王都の空へたどり着く。

「ここがアフタリアの王都?」
「はい。目的地は中央にある城です」

 王都の土地は丸い。
 中心の王城から外へと街並みが広がっていて、高い壁が街をぐるっと覆っている。
 壁の高さはそこそこで、壁が届かない場所は結界に覆われている。

「外敵を拒む結界だよね? 私たちは通っても平気かな」
「はい。敵意さえなければ通れます。あとは王城だけもう一層の結界がありますが、あれも僕が一緒なら問題ありません」

 そう言って彼は私に手を差し伸べてくる。

「手?」
「はい。結界を通る時は僕と手を握っていましょう。一人だと魔力感知で侵入者だと思われますから」
「そういう仕組みなのね。わかったわ」

 言われた通りに手を握る。
 男の子らしくなった手にひかれ、私たちは王城へと舞い降りる。
 降りようとしているのは広間みたいな場所だった。
 噴水もあって、綺麗な庭とも言えそう。
 空からの登場なんて目立つのに、警備が集まってきたりしないだろうか?
 そんな心配は不要だとすぐにわかった。

「やっときたわね!」

 一人だけ、高貴な雰囲気を漂わせる女性が待っていた。
 黄金の髪を左右で束ねたツインテールに、青い瞳と勝ち誇ったような表情。
 腕を組む姿の堂々たるや。
 加えて僅かに感じる同族の気配で、彼女の正体に察しが付く。

「遅くなって申し訳ありません。フレンダ姫」
「全くよアレクシス。この私を一年も待たせるなんて悪い男ね! 責任取って私の恋人になりなさい」
「あ、すみません。それはちょっと困ります」
「うっ……そういうと思ったわ」

 軽快なリズムで会話が進む。
 呆気にとられているのは私だけのようだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】偽物聖女として追放される予定ですが、続編の知識を活かして仕返しします

ユユ
ファンタジー
聖女と認定され 王子妃になったのに 11年後、もう一人 聖女認定された。 王子は同じ聖女なら美人がいいと 元の聖女を偽物として追放した。 後に二人に天罰が降る。 これが この体に入る前の世界で読んだ Web小説の本編。 だけど、読者からの激しいクレームに遭い 救済続編が書かれた。 その激しいクレームを入れた 読者の一人が私だった。 異世界の追放予定の聖女の中に 入り込んだ私は小説の知識を 活用して対策をした。 大人しく追放なんてさせない! * 作り話です。 * 長くはしないつもりなのでサクサクいきます。 * 短編にしましたが、うっかり長くなったらごめんなさい。 * 掲載は3日に一度。

婚約者を奪った妹と縁を切り、辺境領を継いだら勇者一行がついてきました

藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。 家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。 その“褒賞”として押しつけられたのは―― 魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。 けれど私は、絶望しなかった。 むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。 そして、予想外の出来事が起きる。 ――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。 「君をひとりで行かせるわけがない」 そう言って微笑む勇者レオン。 村を守るため剣を抜く騎士。 魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。 物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。 彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。 気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き―― いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。 もう、誰にも振り回されない。 ここが私の新しい居場所。 そして、隣には――かつての仲間たちがいる。 捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。 これは、そんな私の第二の人生の物語。

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は

だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。 私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。 そのまま卒業と思いきや…? 「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑) 全10話+エピローグとなります。

追放された宮廷薬師、科学の力で不毛の地を救い、聡明な第二王子に溺愛される

希羽
ファンタジー
王国の土地が「灰色枯病」に蝕まれる中、若干25歳で宮廷薬師長に就任したばかりの天才リンは、その原因が「神の祟り」ではなく「土壌疲弊」であるという科学的真実を突き止める。しかし、錬金術による安易な「奇跡」にすがりたい国王と、彼女を妬む者たちの陰謀によって、リンは国を侮辱した反逆者の濡れ衣を着せられ、最も不毛な土地「灰の地」へ追放されてしまう。 ​すべてを奪われた彼女に残されたのは、膨大な科学知識だけだった。絶望の地で、リンは化学、物理学、植物学を駆使して生存基盤を確立し、やがて同じく見捨てられた者たちと共に、豊かな共同体「聖域」をゼロから築き上げていく。 ​その様子を影から見守り、心を痛めていたのは、第二王子アルジェント。宮廷で唯一リンの価値を理解しながらも、彼女の追放を止められなかった無力な王子だった。

義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜

有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。 「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」 本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。 けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。 おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。 貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。 「ふふ、気づいた時には遅いのよ」 優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。 ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇! 勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!

何でも奪っていく妹が森まで押しかけてきた ~今更私の言ったことを理解しても、もう遅い~

秋鷺 照
ファンタジー
「お姉さま、それちょうだい!」  妹のアリアにそう言われ奪われ続け、果ては婚約者まで奪われたロメリアは、首でも吊ろうかと思いながら森の奥深くへ歩いて行く。そうしてたどり着いてしまった森の深層には屋敷があった。  ロメリアは屋敷の主に見初められ、捕らえられてしまう。  どうやって逃げ出そう……悩んでいるところに、妹が押しかけてきた。

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

処理中です...