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8.宮廷採用試験

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「でも一年よ? 一年も私を待たせたのよ?」
「それはフレンダ姫が勝手に決めた期間ですよね? 僕は一度も承諾していませんよ」
「そんなことないわよ。貴方はちゃんとはいって言った……あれ? 言ってなかったかも」
「言ってませんよ」

 私とアレクを出迎えてくれたアフタリアの王女様。
 高貴な雰囲気とは裏腹に、砕けた態度でアレクと会話する様子を見ていると、なんだか友達同士のように感じられて少し嬉しい。
 子供にちゃんと友人がいることを知って安心する親の気分だろうか。
 まぁ、親になったことがないからわからないけど。

 そんなことを考えていると、不意に王女様と視線が合う。

「で、この人が貴方の言ってた先生ってわけ?」
「はい。僕に魔法を教えてくれたリザリ―先生です」
「ふーん、なんかあれね。思ってたよりも子供っぽい見た目ね」
「んなっ! だ、誰が子供っぽ――」

 言い返そうとした私は急停止する。
 相手が王族だからとか、初対面からだとかいう理由じゃなくて。
 彼女の容姿に注目してしまったから。
 スラっと伸びる脚、細いくびれ、豊満な胸に大人の女性が放つ特有のオーラ。

 ま、負けてる。
 何もかも負けてる。
 勝てる所が一つもなくて、言い返しても虚しいだけだ。

「うぅ……どうせ私なんて小さいわよ。一生子供っぽいままよ」
「ね、ねぇアレク、先生さんがいじけちゃったんだけど……」
「フレンダ姫が悪いですね。謝ってください」
「え、私が悪いの? なんだかわからないけどごめんなさい?」

 アレクに指摘されて王女様は素直に謝罪の言葉を口にした。
 何に対して謝っているのか自覚していない表情で。
 意外だったのは、アレクに言われて素直に従ったことだった。
 私が知る限り王族と言えば、貴族でもない相手の言葉なんて聞かないし、聞いても適当に流す人がほとんど。
 王族ともなれば、その立場に胡坐をかいて好き放題する人も……
 彼女はそういうタイプとは違うらしい。

「ちょっとアレク。貴方から聞いてた先生さんの説明と全然違うじゃない。本当にこの人なの? 魔女なのよね?」
「当たり前じゃないですか。寸分たがわず説明通りですし、先生が魔女だってことは見ればわかるでしょ?」
「それは貴方くらいの魔法使いだけよ。あと説明通りじゃないわ。貴方の説明通りならこう、もっとゴージャスな人を想像するわよ」

 ゴ、ゴージャスな人って何?
 アレク……君は私のことを一体どんな風に説明したのかな?
 すっごく不安になってきたんだけど。

 ここで私は挨拶がまだだったことを思い出す。
 話と雰囲気を切り替えるように、私はおほんとわざとらしく咳払いする。

「初めまして、私はリザリ―。こう見えて五百年以上生きている魔女です。フレンダ姫、お会いできて光栄です」
「え、あ、自己紹介してなかったわね! こちらこそ偉大な魔女様に会えて光栄だわ。私はこの国の第一王女フレンダ・ドラゴニカ。畏まられるのは苦手だから、魔女様も友人みたいに接してくれると嬉しいわ」
「わかりました。じゃあお言葉に甘えさせてもらいます。私のこともリザリ―と呼んでください」
「そうするわ。立ち話もなんだし、話しながら移動しましょう」

 私とアレクは姫様に連れられ、庭から城内へと足を踏み入れた。
 向かっている場所は教えられないまま、道中にこれまでの経緯を教えられる。

「三年前くらいだったかしらね? アレクシスが突然この国にやってきたの」
「ええ。遠征の途中で部隊から逸れたフリをして抜けてきたんです。魔女が作った国なら、先生のことも受け入れてくれるかもと思って」
「あの時はお父様が不在だったから私が対応したのよね。最初はうさんくさかったけど、彼の魔法使いとしての腕を見せられて納得したわ。魔女様に鍛え上げられたってこと、それから帝国の意には従っていないこともね」

 姫様曰く、最初にあった疑いの大元は、アレクが帝国の人間だったから。
 魔女狩り令を出した大元であり、世界に魔女の危険性を伝えている帝国の人間が、自分たちを騙そうとして送り込んだ刺客ではないのか、と。
 一時は戦闘にもなったそうだ。
 しかし、その疑いは早々に晴れることになった。
 戦いになっても相手を傷つけない彼の姿勢や、真摯に伝えられた思いによって、姫様が彼の言葉を信じてくれたらしい。
 その話を聞いただけでも、姫様の懐の深さが垣間見える。

「フレンダ姫、僕の話を聞いてくれたこと。改めて感謝します」
「どういたしまして。だけどただで受け入れたわけじゃないわよ?」
「わかっています。先生なら大丈夫でしょう」
「え、何の話?」

 私だけキョトンとする。
 すると、姫様が一室の大きな扉の前で立ち止まる。
 扉の内側から感じられる膨大な魔力の流れ。
 おそらく何かしらの魔導具が発動しているのだろう。

「到着したわ。ここが目的地よ」

 姫様が扉を開ける。
 扉の先には広大な自然が広がっていた。
 森、川、岩山に草原。
 明らかに王城の敷地よりも大きい。

「魔法で疑似空間を作っているのね」
「さすが先生、その通りですよ」
「あれ? あんまり驚かないのね……大抵の人は訓練場を見せると驚くのに」

 それはまぁ、これだけ広大な空間を維持していることは凄いと思うけど。
 私も似たような空間は作れるし、伊達に魔女として長年生きていないというか。

「でもどうして訓練場に? 他の方々も見えるみたいですけど」
「それはもちろん、今から採用試験をするためよ!」
「採用試験?」
「ええ。宮廷付き魔法使いのね」
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