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19.選択と審判
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固有魔剣の一振り、影縫。
能力は影を操ること。
自身の影に魔力を纏わせ、鞭や刃のように変化させ操る。
俺と相手の影を繋げることで、一時的に相手の動きを止めることも出来る。
故に影縫と名付けた。
だけど、影縫のもっとも恐ろしい能力はそこじゃない。
この魔剣は、相手の影を斬り裂くことで、影の本体にも負傷を与えることが出来る。
「そん、な……」
「注意不足でしたね。ちゃんと影まで覆っていれば回避できたかもしれないのに」
まぁもっとも、それは不可能だっただろう。
すでに俺の影と彼の影が繋がっていた時点で、結界で内外を遮断することは出来なかったはずだ。
能力に気付こうが気付くまいが、動きを止めた時点で勝敗は決していた。
「っ、くそ……」
「殺すつもりで斬ってません。その程度の傷なら死にはしないでしょう。ただ念のために拘束させてもらいます」
「うっ、が……」
影縫の能力を解放し、直接俺の影から伸びる鞭で縛り上げる。
縫い留めも継続中だ。
これでもう動けないし、術式も行使できない。
今の状況で攻撃してこない時点で、あらかじめ展開してたのはさっきの結界だけだと判断した。
「勝負は俺の勝ちです。貴方の要求にも従うつもりはありません」
「……ふっ、本当にそれでいいのかな?」
敗北し、捕らえられた状況でも不敵に笑うリブロート。
俺はまゆをひそめて問う。
「どういう意味ですか?」
「この状況を見てわからないのかな? 君は私に、サイネル家の当主であるこの私に刃を向け、あげく傷を負わせたんだよ? これで君は罪人だ」
「仕掛けてきたのはそっちでしょう?」
「そうだったかな? 私の記憶が確かなら、君がいきなり屋敷に押しかけてきて暴れ出した……が正しいと思うが?」
リブロートは厭らしい笑みを浮かべる。
それは記憶違いだと、否定するだけ無駄なのは明白だ。
明らかにわかって言っている。
そういう風に真実を捻じ曲げて、自分たちに都合の良いように改ざんできるのだと。
至って貴族らしいやり方だ。
「残念だったね。ここに訪れた時点で君の未来は確定していたんだよ。どう足掻いても勝ちはない。わかったら拘束を解きたまえ」
「……どう足掻いても……か」
「そうだとも。いいからこの拘束を――」
「その言葉は聞き飽きたよ」
お前には才能がない。
どう足掻いても魔術師にはなれない。
家族が、世間が、俺の自身の理性が語り続けていた。
あの日からずっと、今でも時折聞こえてくるし、絶望を忘れることなんて出来ないだろう。
辛い記憶ばかりだ。
でも、だからこそ頑張れたと思っている。
悔しさをバネにして、辛い記憶も力に変えて。
「才能がないことなんて前から知ってる。それでも諦めきれなかったからここにいるんだ」
「な、なにを言ってる?」
「そんな言葉じゃ俺は止まらないってことだよ」
言葉通り、俺は彼に近づく。
刃が届く距離まで、ゆっくりと。
「ま、待て!」
「大丈夫、この剣は使わないから」
俺は黒錠で空間を斬り、右手に持っていた影縫をしまった。
そのまま空間をごそごそと漁り、別の魔剣を取り出す。
「なんだ……その剣は……剣、なのか?」
「魔剣ですよ。俺が作った魔剣の一つで、使い勝手が悪すぎる一振りです」
刃はガラスのように透き通っていて、奥が見える。
柄も白く美しく、実戦で使う剣には見えない。
煌びやかな屋敷の装飾として飾られていてもおかしくないだろう。
ただし、それは見た目だけ。
魔術師ならわかるはずだ。
この魔剣から発せられる独特の、ある種気味が悪い感覚を。
「や、やめろ! 本気で私を斬るつもりか?」
「安心してください。この【真剣】は貴方の身体を傷つけたりしません」
「な、何を言っているんだ!」
「事実ですよ。これは肉を斬らない。貴方は放っておくと、俺の未来によくない影響を与えそうだ。だからここで、処理します」
「ま、待――」
待ってくれ、そのセリフはすでに聞いた。
答えるまでもなく、俺は魔剣を彼に振り下ろす。
躊躇なく脳天から斬り裂く。
だが安心してほしい。
刃が通ったのは彼の身体じゃない。
だから血も流れないし、痛みも感じない。
ショックで意識は失い倒れ込んだが、その程度だ。
「……はぁ、まったく嫌なことをさせるな」
こんなことに【真剣】を使いたくはなかったよ。
固有魔剣【真剣】、その能力は俺が作った全魔剣の中でもっとも優れている。
しかし代償が大きすぎて、使い勝手が悪いんだ。
「ふぅ……さて、残りも済ませないとな」
俺は剣を握ったまま、次の場所へと足を運ぶ。
まだやるべきことは終わっていない。
俺がこの先、平穏な日常を送るためには、明確な敵を消さなければならない。
「……ハツネには見せられないな」
そう呟き、ため息をこぼす。
本当に嫌気がさす、貴族の策には。
だけどまぁ、お陰でもっと自信はついたよ。
魔術師らしい魔術師に正面から挑んで勝利したんだ。
少なくともこれで、俺の選んだ道が間違いじゃないことくらいは証明できたんじゃないかな?
能力は影を操ること。
自身の影に魔力を纏わせ、鞭や刃のように変化させ操る。
俺と相手の影を繋げることで、一時的に相手の動きを止めることも出来る。
故に影縫と名付けた。
だけど、影縫のもっとも恐ろしい能力はそこじゃない。
この魔剣は、相手の影を斬り裂くことで、影の本体にも負傷を与えることが出来る。
「そん、な……」
「注意不足でしたね。ちゃんと影まで覆っていれば回避できたかもしれないのに」
まぁもっとも、それは不可能だっただろう。
すでに俺の影と彼の影が繋がっていた時点で、結界で内外を遮断することは出来なかったはずだ。
能力に気付こうが気付くまいが、動きを止めた時点で勝敗は決していた。
「っ、くそ……」
「殺すつもりで斬ってません。その程度の傷なら死にはしないでしょう。ただ念のために拘束させてもらいます」
「うっ、が……」
影縫の能力を解放し、直接俺の影から伸びる鞭で縛り上げる。
縫い留めも継続中だ。
これでもう動けないし、術式も行使できない。
今の状況で攻撃してこない時点で、あらかじめ展開してたのはさっきの結界だけだと判断した。
「勝負は俺の勝ちです。貴方の要求にも従うつもりはありません」
「……ふっ、本当にそれでいいのかな?」
敗北し、捕らえられた状況でも不敵に笑うリブロート。
俺はまゆをひそめて問う。
「どういう意味ですか?」
「この状況を見てわからないのかな? 君は私に、サイネル家の当主であるこの私に刃を向け、あげく傷を負わせたんだよ? これで君は罪人だ」
「仕掛けてきたのはそっちでしょう?」
「そうだったかな? 私の記憶が確かなら、君がいきなり屋敷に押しかけてきて暴れ出した……が正しいと思うが?」
リブロートは厭らしい笑みを浮かべる。
それは記憶違いだと、否定するだけ無駄なのは明白だ。
明らかにわかって言っている。
そういう風に真実を捻じ曲げて、自分たちに都合の良いように改ざんできるのだと。
至って貴族らしいやり方だ。
「残念だったね。ここに訪れた時点で君の未来は確定していたんだよ。どう足掻いても勝ちはない。わかったら拘束を解きたまえ」
「……どう足掻いても……か」
「そうだとも。いいからこの拘束を――」
「その言葉は聞き飽きたよ」
お前には才能がない。
どう足掻いても魔術師にはなれない。
家族が、世間が、俺の自身の理性が語り続けていた。
あの日からずっと、今でも時折聞こえてくるし、絶望を忘れることなんて出来ないだろう。
辛い記憶ばかりだ。
でも、だからこそ頑張れたと思っている。
悔しさをバネにして、辛い記憶も力に変えて。
「才能がないことなんて前から知ってる。それでも諦めきれなかったからここにいるんだ」
「な、なにを言ってる?」
「そんな言葉じゃ俺は止まらないってことだよ」
言葉通り、俺は彼に近づく。
刃が届く距離まで、ゆっくりと。
「ま、待て!」
「大丈夫、この剣は使わないから」
俺は黒錠で空間を斬り、右手に持っていた影縫をしまった。
そのまま空間をごそごそと漁り、別の魔剣を取り出す。
「なんだ……その剣は……剣、なのか?」
「魔剣ですよ。俺が作った魔剣の一つで、使い勝手が悪すぎる一振りです」
刃はガラスのように透き通っていて、奥が見える。
柄も白く美しく、実戦で使う剣には見えない。
煌びやかな屋敷の装飾として飾られていてもおかしくないだろう。
ただし、それは見た目だけ。
魔術師ならわかるはずだ。
この魔剣から発せられる独特の、ある種気味が悪い感覚を。
「や、やめろ! 本気で私を斬るつもりか?」
「安心してください。この【真剣】は貴方の身体を傷つけたりしません」
「な、何を言っているんだ!」
「事実ですよ。これは肉を斬らない。貴方は放っておくと、俺の未来によくない影響を与えそうだ。だからここで、処理します」
「ま、待――」
待ってくれ、そのセリフはすでに聞いた。
答えるまでもなく、俺は魔剣を彼に振り下ろす。
躊躇なく脳天から斬り裂く。
だが安心してほしい。
刃が通ったのは彼の身体じゃない。
だから血も流れないし、痛みも感じない。
ショックで意識は失い倒れ込んだが、その程度だ。
「……はぁ、まったく嫌なことをさせるな」
こんなことに【真剣】を使いたくはなかったよ。
固有魔剣【真剣】、その能力は俺が作った全魔剣の中でもっとも優れている。
しかし代償が大きすぎて、使い勝手が悪いんだ。
「ふぅ……さて、残りも済ませないとな」
俺は剣を握ったまま、次の場所へと足を運ぶ。
まだやるべきことは終わっていない。
俺がこの先、平穏な日常を送るためには、明確な敵を消さなければならない。
「……ハツネには見せられないな」
そう呟き、ため息をこぼす。
本当に嫌気がさす、貴族の策には。
だけどまぁ、お陰でもっと自信はついたよ。
魔術師らしい魔術師に正面から挑んで勝利したんだ。
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