ナナイロの雷術師 -雷に打たれ全てを失った元神童の成り上がり英雄譚ー

日之影ソラ

文字の大きさ
6 / 64
プロローグ

6.諦めるには早い

しおりを挟む
 聖域者とは、神へ挑戦しその恩恵を授かった魔術師のこと。
 神への挑戦権を得られるのは、一年でたった一人。
 試練を受けられたとしても、乗り越えなければ聖域者にはなれない。
 過去数百年の間に、聖域者となれた魔術師は、いまだ二桁に留まっている。
 その中でも、神の権能を授かった魔術師はアルフォースだけだ。

「リンテンス君、魔術師とは何かな?」
「えっ……それは――」
「魔術を行使する者、と考えるなら間違いだよ」

 先に間違いだと否定され、途中に言葉を詰まらせる。
 だったら何なのだと、俺は視線で訴えた。

「何だい? もう降参かな? 仕方がない、君はまだ子供だからね。特別に答えを教えてあげようじゃないか」
「……何なんですか? 魔術師って」
「開拓者だよ」
「開拓……者?」
「そう。未知を暴き、文明を発展させ、未来を切り開く者のことだ」

 難しい言葉が並んで、俺は半分も理解できない。
 ただ伝わるのは、俺が思っている魔術師と言う概念が、大きくずれているということ。
 アルフォースは続けて言う。

「歴史を振り返ってごらん? 文明の発展には、必ず魔術師がついているだろう? 今の生活の大半だって、魔術師が造り上げた物の一端。その恩恵にあずかっているだけだ」
「それは……そうですね」
「うん。まぁもっと簡単に言うとね? 魔術師って新しいものをずっと生み出してきたんだ」

 新しいもの……
 魔術の発展に伴って進化した文明。
 俺たちが生活している基盤を作ったのも、昔の偉大な魔術師たちだと、彼は言っている。

「そこに常識はない。囚われていては何も生み出せない。今の君はまさしくそれだ」
「えっ?」
「囚われているじゃないか。才能を失って、何もできなくなってしまったのだと」
「っ……」

 現実に引き戻される一言だ。
 俺の心に刺さったナイフが、ぐりっと抉られた気がする。

「そうやって限界だと決めつけるから、少し先の未来を掴めなくなるんだよ」
「でも……」
「確かに君は十種の属性を失った。それはハンデだけど、君がこれまでしてきた努力まで消えたわけじゃないだろ?」

 彼はそう言いながら、ニコリと微笑んで指をさす。
 起源があるとされる右胸から、心臓が鼓動をうつ左胸へ。
 
「魔力量、コントロールと術式を構築するセンス。それから知識とか、そういうものは消えていない。君はこれまで自分がしてきた努力まで否定するのかい?」

 その言葉に、心が動く。
 心臓じゃない。
 止まっていたのは俺の心で、消えてしまいたいという弱さだ。
 そうだ……思い出した。
 俺は別に、父上や母上のためだけに魔術を習っていたわけじゃないんだ。
 ただ、楽しかったんだ。
 新しいことが出来て、いろんな体験に繋がることが、何にも代えがたい幸福だったんだ。

「俺は……まだ、魔術師になれますか?」
「すでになっているよ。君がそうだと心に強く思っているなら、誰が何と言おうと魔術師だ。そして、面白い才能を持っているね」
「えっ……才能?」
「うん。どうかな? 僕の弟子になる気はないかい?」
「で、弟子に!?」

 思わず驚いて、流れそうになっていた涙が吹き飛んだ。
 目をこすり、耳をたたいて聞きなおす。

「どうして?」
「う~ん、何となくかな? 君が気に入った……ていうのでどうだろう?」

 そう言った彼の笑顔は、底抜けに明るくて、無色透明だった。
 真意はまったく読み取れない。
 だけど、俺の答えなら決まっている。
 やりたいことは、ずっと前から変わらない。

「俺も……聖域者になれますか?」
「それは君次第だ。少なくとも僕は、その可能性があると踏んでいる」
「だったら、俺を弟子にしてください!」
「いいとも! ただし僕は厳しいよ? 途中で音を上げたって、止めてあげないからね」
「はい!」

 大丈夫だ。
 俺はもう、絶望の味を知っている。
 深くて暗い海底に沈みこんでしまうような冷たさ。
 孤独がどれだけ寂しいのかを、身をもって体験した。
 
「よーし! じゃあさっそく修行を始めよう」
「今からですか?」
「もちろんさ。善は急げって、どこかの偉い人が残した言葉に従おう」

 師匠は俺を屋敷の外へと連れ出した。
 敷地内には小さい庭があって、簡単な訓練なら出来る。
 向かい合った師匠は、杖をトンと地面に当てた。

 次の瞬間――

 世界が真っ白な壁に包まれて、一瞬だけ宙に浮く。
 浮遊感が終わると、視界一面を覆うような花畑が映し出される。
 他にも島が浮いている。
 青い空の真ん中で、俺たちは浮遊する大地の上に立っている。

「な、何ですかこれ!」
「僕の夢を具現化した空間だよ。ここなら邪魔も入らないし、どれだけ派手に動いても迷惑もかからないからね」

 夢を具現化?
 そんなことが可能なのか。
 ありえない光景に理解が追いつかない。
 それでも確信をもって言える。
 
 これが……世界最高の魔術師か。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

今更……助けてくれと……言われても……

#Daki-Makura
ファンタジー
出奔した息子から手紙が届いた…… 今更……助けてくれと……言われても……

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

処理中です...