無能と罵られた落ちこぼれの貴族、英雄たちの力を手に入れヒーローになる ~ハズレギフト『司書』が実は最強の無敵のユニークギフトでした~

日之影ソラ

文字の大きさ
2 / 26

2.図書館の司書

しおりを挟む
 時計の針を見る。
 午後五時半、そろそろ全ての授業が終わる頃だ。
 窓から差し込む光がオレンジ色に変化していた。
 僕は読んでいた本を閉じる。

「この話も面白かったな」

 僕が好んで読んでいるのは英雄譚だ。
 過去の実話もあれば、作者の妄想を膨らませた架空のお話もある。
 どちらも大好きだった。
 本の中の英雄は勇敢で格好良くて……誰もが選ばれた人間だったから。
 僕には一生縁遠い物語だ。
 だからこそ、憧れてしまうのだと思う。

「そろそろ片付けないと」

 あと三十分で図書館を閉める時間だ。
 返却された本の整理と掃除、最後に戸締りをして出る。
 一人でするには大変な作業だけど、僕にはうってつけのギフトがあった。
 『司書』のギフトのおかげで、本に関することなら忘れない。
 返却された本の位置や時期はバッチリ把握している。
 あとは本棚に触れるだけで、本の並び順や上下を揃えることもできる。
 便利な力だ。

「……まぁ、これ以外に使い道はないんだけどね」

 独り言を口にする。
 どうせ誰も聞いていないからと弱気なトーンで。
 すると、閉館間近になって扉が開く音がした。

「あ! やっぱりここにいた」

 僕を見つけた彼女は指をさす。
 ルビーのような瞳で僕を見つめ、ニヤっと笑みを浮かべた彼女は跳びあがる。
 二階にいた僕目掛けて。
 燃えるように赤い髪が靡き、スカートが翻る。
 いろんな場所が炎を連想させる彼女だけど、下着は真っ白だった。

「ちょっ、ニナ! 危ないよ!」
「全然危なくないよ! ほら、ちゃんと着地できたでしょ」
「そういうことじゃないから! 女の子なんだからもっとその……気をつけなきゃ駄目だよ。スカートでジャンプなんてしたら」
「――あっ」

 今さら気づいたのか、ニナは慌ててスカートを抑える。
 恥ずかしそうに頬を赤くして、じとーっと僕を睨みつける。

「……変態」
「ぼ、僕だって好きで見たわけじゃないよ」
「なにそれ! 私のパンツは見る価値もないっていいたいの!」
「そういう意味じゃないから!」

 この活発でボーイッシュな女の子はニナ・ブランドール。
 僕と同じ王都生まれの貴族で、家同士の交流があって小さい頃からよく遊んでいた。
 いわゆる幼馴染という関係。
 年齢も同じ十五歳で、同じ時期に学園に入学した。
 僕の大切な友達だ。

「そ、それでどうしたの? 図書館はもう閉まるよ」
「どうしたじゃないよ! ブラン、また授業出ないで図書館にいたでしょ!」
「え、だって……僕には受ける資格なんてないから」
「またそういうこと言って! ブランもここの生徒なんだよ? 授業を受ける権利はちゃんと持ってるの!」

 ニナは力強く否定してくれる。
 心配してくれるのが伝わってきて、嬉しい。
 ただ……。

「ごめん、ニナ。僕は授業を受けたって意味ないんだ。こんなギフトしか持っていない僕が聞いても、得られるものなんてない……ここで本の管理をしているほうがずっと向いてる」
「ブラン……」
「悲しい顔しないで。僕は大丈夫だよ。知ってるでしょ? 僕は本が好きなんだ。ここにいると落ち着くんだよ」

 本に囲まれたここは、僕にとって安らぎの場所でもあった。
 授業中は人も来ないし、ゆっくり本が読める。
 他人の視線や声を気にしなくていい。
 そう、ここにいれば……。
 
「ブランはそれでいいの? 逃げてるだけじゃずっとこのままだよ……」
「別に逃げてるわけじゃ……」

 いいや、本当はわかっている。
 僕はずっと現実から逃げてきた。
 学園に入学して半年以上経過して、ほとんどの時間をこの図書館で過ごしている。
 最初は授業にも出ていた。
 けど、すぐに出なくなった。
 居心地が悪かったんだ。
 皆……僕を見て憐れみや侮蔑の視線を向ける。
 名門貴族の落ちこぼれ、面汚し。
 何をしにこの学園に来たんだ、と小声で呟く。
 そんな彼らに嫌気がさして、逃げるように図書館へ足を運んだ。
 いつしか、学園での僕の居場所はここだけになった。
 授業も受けず図書館にいたから、先生に代わって管理をするようになって……。

 僕を司書と間違えるのも仕方がないよね。

「もうすぐ進級試験もあるんだよ?」
「わかってるよ。試験はちゃんと受けるから」
「本当に? まぁブラン勉強は私よりできるし、ちゃんと受ければ合格できると思うけどさ」
「うん。だから心配いらないよ」

 僕よりもニナのほうが心配だ。
 勉強のことじゃなくて、彼女の立場が。
 僕と彼女は全然違う。
 彼女は炎を操るギフトを複数所持していて、周囲からの期待も大きい。
 将来を有望視されている一人だ。
 そんな彼女が落ちこぼれの僕なんかと一緒にいることを、快く思わない人たちもいる。
 
「ねぇ、ニナ。もう僕には――」
「嫌だからね?」
「え?」
「私だけ進級するなんて絶対に嫌だから! ブランも一緒だよ」
 
 そう言って彼女は僕の手を握る。
 ギフトの影響かな?
 彼女の手はいつも温かい。
 
「……うん」

 結局、今日も言えなかった。
 僕にはもう関わらないほうがいい。
 そう言うべきなのに、彼女の手が僕を放してくれない。
 きっと、言ったところで彼女は変わらないと思う。
 ニナはそういう女の子だ。
 強くて、優しくて、格好良い。
 きっと彼女みたいな人こそ、物語のヒーローに相応しいんだと思う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

追放された俺の木工スキルが実は最強だった件 ~森で拾ったエルフ姉妹のために、今日も快適な家具を作ります~

☆ほしい
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺は、異世界の伯爵家の三男・ルークとして生を受けた。 しかし、五歳で授かったスキルは「創造(木工)」。戦闘にも魔法にも役立たない外れスキルだと蔑まれ、俺はあっさりと家を追い出されてしまう。 前世でDIYが趣味だった俺にとっては、むしろ願ってもない展開だ。 貴族のしがらみから解放され、自由な職人ライフを送ろうと決意した矢先、大森林の中で衰弱しきった幼いエルフの姉妹を発見し、保護することに。 言葉もおぼつかない二人、リリアとルナのために、俺はスキルを駆使して一夜で快適なログハウスを建て、温かいベッドと楽しいおもちゃを作り与える。 これは、不遇スキルとされた木工技術で最強の職人になった俺が、可愛すぎる義理の娘たちとのんびり暮らす、ほのぼの異世界ライフ。

処理中です...