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7.千里眼
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学園内で魔獣が暴れた。
その噂は一瞬で学園中に広まった。
本来安全であるはずの学び舎で起こった不測の事態。
加えてその原因を作ったのは生徒の一人。
誰が話したかしらないけど、ラスト君が魔獣を持ち込んだという話も伝わっていた。
たぶん、取り巻きの誰かが話したんだと思う。
彼らも魔獣の檻を開ける時、酷く怯えていた。
きっとラスト君に命令されて、怖くて逆らえなかったんだと思う。
そしてもう一つ、広まった噂がある。
「おい聞いたかよ魔獣の暴れたって」
「知ってるよ。しかも倒したのってあの人なんでしょ?」
「ああ……信じられないけどまじらしいぜ」
魔獣の一件があった翌日。
学園に顔を出すと、四方から視線が向けられる。
僕はものすごく注目されていた。
どうやら魔獣の一件と一緒に、僕が倒したという話も出回ったらしい。
「おかしいな。見てたのはニナだけだったはず……」
どうやって広まったんだろう。
ラスト君の件は取り巻きの誰かだとしても、こっちは目撃者が僕たちしか……。
「ブラン!」
「ニナ」
後ろから声が聞こえて振り返る。
ニナは元気いっぱいに僕の元まで駆けてきた。
「おはよう!」
「うん。って、もう大丈夫なの? 大怪我してたのに」
「全然平気だよ! 忘れたの? 私には『不死鳥』のギフトがあるんだよ?」
「あ、ああ」
そうだった。
彼女の『不死鳥』のギフトは炎を浴びることで肉体を再生する。
この力は強力で、致命傷でないかぎり一瞬で傷は治癒する。
炎を操れる彼女との相性も抜群だ。
「あらくらいへっちゃらだよ! でもブランが助けてくれなかったら、きっと殺されてたと思う」
「ニナ……」
彼女は僕の手を優しく握る。
ギフトなんて使わなくても温かい手を。
「だからありがとう。私を助けてくれて! すっごく格好良かった」
「……うん。僕も、助けられてよかった」
心からそう思う。
もしあの時、彼女を置いて逃げていたら。
僕一人だけ生き残っていたなら……きっと僕は自分を許せなかっただろう。
「私の言った通りだったね」
「え?」
「ブランはいつか私を助けてくれるって! ね?」
「……そうだね」
この笑顔も永遠に見られなかったかもしれない。
僕が守ったんだ。
そう実感して、改めて嬉しさが混み上げてくる。
「でもねブラン! 私、実はちょっと怒ってるんだ!」
「え、え? なんで?」
「あんな力があったのにずっと隠してたんでしょ! 内緒はいいけど、私には教えて欲しかったよ」
「ち、違うよ! 僕も知らなかったんだ! あんなことができるなんて……」
「そうなの?」
僕はこくりと頷く。
そのまま一緒に歩きながら、彼女に話した。
今まで一度もあんな力は発言していないこと。
僕自身どうして使えたのかわからない。
確かなのはあの時、ニナを守れる力を心から望んだこと。
「あの時はそれしか考えられなくて、ニナを守りたくて必死だったんだ」
「私を……そっか」
チラッと見えた彼女の横顔は、蕩けるように甘い微笑みだった。
僕も初めて見るような。
いつもと違う喜びを感じている気がした。
「ニナ?」
「ううん、でもだったらギフトが成長したってことなのかな?」
「どうなんだろう。僕にもわからないよ」
「うーん、気になるな~ 誰か知ってる人とかいないのかな」
話ながらニナは悩む。
他人に聞いたところで僕のギフトは固有のものだしわからないと思う。
生まれた時にギフトを判定する装置があるから、時間を見つけて再検査してみようかな。
なんてことを思い伝時だった。
「おやおや、朝から並んで登校とは仲良しだね」
僕たちは声を聞いて立ち止まる。
この声は――
「あ!」
「ユグリット先生」
「やぁ二人とも、おはよう」
先生はニコリと微笑む。
薄緑色の長い髪に白い肌。
見た目が美しい女性によく間違えられるこの人は、ユグリット・パープル先生。
僕の前まで図書館の管理をしていた人だ。
「おはようございます先生。今日は学園にいらしてるんですね」
「ん? その言い方だと普段は来ていないみたいじゃないか」
「来てないじゃないですか! いっつもブランに図書館の管理を押し付けて!」
「ははははー、なんのことだかな~」
飄々としているこの人をニナはあまり好きじゃないみたいだ。
図書館のことも、僕に押し付けていると認識している。
実際そうだけど、そのおかげで僕は居場所を得ているから感謝している。
ただ僕に管理を任せてからは、ほとんど顔を出さなくなってしまった。
その点はよくないと思っている。
「君たち、このまま図書館に来てもらえるかな」
「あ! またブランを連れて行くつもりですか! ダメですからね」
「別に取らないから安心して。というか聞こえなかった? 私は君たちって言ったんだよ」
「え……私も」
「ああ。二人に話がある。昨日のことを聞かせておくれ」
先生はニヤリと笑い僕たちの前を歩く。
僕とニナは顔を見合わせ、とりあえずついていくことにした。
図書館に到着する。
学園も始まったばかりで、大抵の人は受けたい授業の教室に向っている。
必然的にここは空いている。
今も僕たち三人しかいない。
「さぁさぁ座って! ゆっくり話そうじゃないか」
「ゆっくりって……授業始まるんですけど」
「そうですよ。僕はともかく、どうしてニナまで?」
「そりゃーもちろん、君たちの熱々なお話を聞きたいからに決まってるじゃないか」
「えっ!」
「あ、熱々って!」
僕たちは揃って顔を赤くする。
そんな僕たちを見て先生は楽しそうに笑う。
「はっはははは! 何を勘違いしているんだい? 私が聞きたいのは二人が熱戦を演じた魔獣のことだよ。随分とご活躍だったそうじゃないか」
「なっ……先生もご存じなんですね」
「もちろん。私は見ていたからね」
「え?」
見ていた?
確かに先生はそう言った。
僕と同じように驚いたニナが身を乗り出して尋ねる。
「あの場にいたんですか?」
「いいや。ずっと離れた場所だよ」
「離れた……じゃあどうやって」
「――『千里眼』というギフトを知っているかな」
話ながら先生は自分の両目を示す。
「私には見えているんだよ。遠く離れた景色も……そして君のことも」
「僕の?」
「そうだよ。僕の目に映るのは景色だけじゃない。君の内側……宿るギフトも見えているのさ」
その噂は一瞬で学園中に広まった。
本来安全であるはずの学び舎で起こった不測の事態。
加えてその原因を作ったのは生徒の一人。
誰が話したかしらないけど、ラスト君が魔獣を持ち込んだという話も伝わっていた。
たぶん、取り巻きの誰かが話したんだと思う。
彼らも魔獣の檻を開ける時、酷く怯えていた。
きっとラスト君に命令されて、怖くて逆らえなかったんだと思う。
そしてもう一つ、広まった噂がある。
「おい聞いたかよ魔獣の暴れたって」
「知ってるよ。しかも倒したのってあの人なんでしょ?」
「ああ……信じられないけどまじらしいぜ」
魔獣の一件があった翌日。
学園に顔を出すと、四方から視線が向けられる。
僕はものすごく注目されていた。
どうやら魔獣の一件と一緒に、僕が倒したという話も出回ったらしい。
「おかしいな。見てたのはニナだけだったはず……」
どうやって広まったんだろう。
ラスト君の件は取り巻きの誰かだとしても、こっちは目撃者が僕たちしか……。
「ブラン!」
「ニナ」
後ろから声が聞こえて振り返る。
ニナは元気いっぱいに僕の元まで駆けてきた。
「おはよう!」
「うん。って、もう大丈夫なの? 大怪我してたのに」
「全然平気だよ! 忘れたの? 私には『不死鳥』のギフトがあるんだよ?」
「あ、ああ」
そうだった。
彼女の『不死鳥』のギフトは炎を浴びることで肉体を再生する。
この力は強力で、致命傷でないかぎり一瞬で傷は治癒する。
炎を操れる彼女との相性も抜群だ。
「あらくらいへっちゃらだよ! でもブランが助けてくれなかったら、きっと殺されてたと思う」
「ニナ……」
彼女は僕の手を優しく握る。
ギフトなんて使わなくても温かい手を。
「だからありがとう。私を助けてくれて! すっごく格好良かった」
「……うん。僕も、助けられてよかった」
心からそう思う。
もしあの時、彼女を置いて逃げていたら。
僕一人だけ生き残っていたなら……きっと僕は自分を許せなかっただろう。
「私の言った通りだったね」
「え?」
「ブランはいつか私を助けてくれるって! ね?」
「……そうだね」
この笑顔も永遠に見られなかったかもしれない。
僕が守ったんだ。
そう実感して、改めて嬉しさが混み上げてくる。
「でもねブラン! 私、実はちょっと怒ってるんだ!」
「え、え? なんで?」
「あんな力があったのにずっと隠してたんでしょ! 内緒はいいけど、私には教えて欲しかったよ」
「ち、違うよ! 僕も知らなかったんだ! あんなことができるなんて……」
「そうなの?」
僕はこくりと頷く。
そのまま一緒に歩きながら、彼女に話した。
今まで一度もあんな力は発言していないこと。
僕自身どうして使えたのかわからない。
確かなのはあの時、ニナを守れる力を心から望んだこと。
「あの時はそれしか考えられなくて、ニナを守りたくて必死だったんだ」
「私を……そっか」
チラッと見えた彼女の横顔は、蕩けるように甘い微笑みだった。
僕も初めて見るような。
いつもと違う喜びを感じている気がした。
「ニナ?」
「ううん、でもだったらギフトが成長したってことなのかな?」
「どうなんだろう。僕にもわからないよ」
「うーん、気になるな~ 誰か知ってる人とかいないのかな」
話ながらニナは悩む。
他人に聞いたところで僕のギフトは固有のものだしわからないと思う。
生まれた時にギフトを判定する装置があるから、時間を見つけて再検査してみようかな。
なんてことを思い伝時だった。
「おやおや、朝から並んで登校とは仲良しだね」
僕たちは声を聞いて立ち止まる。
この声は――
「あ!」
「ユグリット先生」
「やぁ二人とも、おはよう」
先生はニコリと微笑む。
薄緑色の長い髪に白い肌。
見た目が美しい女性によく間違えられるこの人は、ユグリット・パープル先生。
僕の前まで図書館の管理をしていた人だ。
「おはようございます先生。今日は学園にいらしてるんですね」
「ん? その言い方だと普段は来ていないみたいじゃないか」
「来てないじゃないですか! いっつもブランに図書館の管理を押し付けて!」
「ははははー、なんのことだかな~」
飄々としているこの人をニナはあまり好きじゃないみたいだ。
図書館のことも、僕に押し付けていると認識している。
実際そうだけど、そのおかげで僕は居場所を得ているから感謝している。
ただ僕に管理を任せてからは、ほとんど顔を出さなくなってしまった。
その点はよくないと思っている。
「君たち、このまま図書館に来てもらえるかな」
「あ! またブランを連れて行くつもりですか! ダメですからね」
「別に取らないから安心して。というか聞こえなかった? 私は君たちって言ったんだよ」
「え……私も」
「ああ。二人に話がある。昨日のことを聞かせておくれ」
先生はニヤリと笑い僕たちの前を歩く。
僕とニナは顔を見合わせ、とりあえずついていくことにした。
図書館に到着する。
学園も始まったばかりで、大抵の人は受けたい授業の教室に向っている。
必然的にここは空いている。
今も僕たち三人しかいない。
「さぁさぁ座って! ゆっくり話そうじゃないか」
「ゆっくりって……授業始まるんですけど」
「そうですよ。僕はともかく、どうしてニナまで?」
「そりゃーもちろん、君たちの熱々なお話を聞きたいからに決まってるじゃないか」
「えっ!」
「あ、熱々って!」
僕たちは揃って顔を赤くする。
そんな僕たちを見て先生は楽しそうに笑う。
「はっはははは! 何を勘違いしているんだい? 私が聞きたいのは二人が熱戦を演じた魔獣のことだよ。随分とご活躍だったそうじゃないか」
「なっ……先生もご存じなんですね」
「もちろん。私は見ていたからね」
「え?」
見ていた?
確かに先生はそう言った。
僕と同じように驚いたニナが身を乗り出して尋ねる。
「あの場にいたんですか?」
「いいや。ずっと離れた場所だよ」
「離れた……じゃあどうやって」
「――『千里眼』というギフトを知っているかな」
話ながら先生は自分の両目を示す。
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