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チクタク、チクタク。
部屋に飾られた置時計の針が進む。
静かな時間の中では、小さな音が鮮明に聞こえる。
帰宅して一時間が経過しようという頃、今のところ視線は感じない。
ニナのおかげもあってフレンダさんも落ち着いていた。
精神的な疲労も溜まっている。
今日くらいはゆっくり眠らせてあげたい。
だからこのまま泊っていくことになった。
寝る前に二人はシャワーを浴びに行く。
フレンダさんを安心させるため、ニナも付き添っている。
僕はもちろん部屋で待機していた。
「うーん……」
どうしたものかな。
ニナはともかく、僕も一泊していいのだろうか?
見た目は黒猫でも男だし、あんまりよくないんじゃないかな。
「って違う。今はそうじゃない」
論点がズレていた。
僕は一人ツッコミを入れて頭を切り替える。
部屋の向こうで聞こえるシャワーの音に惑わされそうになりながら、精神を集中させる。
今考えるべきは、どうやって犯人を見つけるかだ。
視覚では見つけられず、動物の感覚を使ってもまったくわからない。
痕跡がない以上、『不可視』のギフトは違うだろう。
ならやっぱり『千里眼』か?
外部の人間で、かなり遠くから目標を視認できる誰か?
だとしたらどうして学園では何もしないんだ?
「何もしない……」
一番気になっているのはそこだ。
家まで覗き込んで、姿も痕跡すら残さない。
それだけ完璧に潜み近づいていて、どうして何もしないんだ?
家の中も覗く相手が、見るだけで満足しているとは思えないんだけど……。
正体がバレることを恐れている?
触れることで効果が消えるギフトなのか。
それとも……。
「こういう時、先生の眼なら見つけられるのかな」
見えないものを見る先生の瞳。
僕たちには見えないことも、先生には見えている。
僕のギフトの力を見抜いていたように。
そういえば、本の中にもいくつかあったっけ。
見えないものを見る特別な眼が。
たとえば――
「――! もしかして」
僕は一冊の本を連想させる。
少し古い架空の物語を。
一筋の光、可能性が浮かび上がる。
ちょうどその時だった。
「いやあああああああああああああ!」
二人のほうから悲鳴が聞こえた。
今のはフレンダさんだ。
思わず声を出しそうになった僕はぐっとこらえ、二人の元へ駆ける。
「いい加減にしてよ!」
今度はニナの声だった。
ひどく怒っているのは明白。
到着した僕の視界には、あられもない姿の二人が映る。
シャワー室の扉が半分開いていて、恐怖でしゃがみ込むフレンダさんをニナが支えている。
床に落ちたシャワーからお湯が流れ、扉から湯煙が漏れ出す。
僕は慌てて視線を逸らす。
女の子二人の裸なんて刺激が強すぎる。
とか、いっていられる状況ではなかった。
「女の子を泣かせるなんて最低だよ! こそこそしてないで出てきなさい!」
大声で怒鳴るようにニナが挑発する。
しかし当然のように返事はなく、視線もなくならない。
濃い湯煙は輪郭を捉えるはずが、なにもないように漂う。
猫の五感を研ぎ澄ませても、二人の気配以外には感知できない。
やっぱり掴めない。
だけどいる!
だったら試してみよう。
「二人ともごめん!」
僕は変身を解除し元の姿に戻る。
「ブラン!?」
「すぐ見つける! だから待ってて!」
「うん!」
ニナの信頼を感じる。
裸を見たことはあとで謝ろう。
今はやるべきことがある。
変身を解除したことで、僕の存在に相手は気づいたはずだ。
モタモタしていると逃げられる。
ここからはスピード勝負だ。
本を切り替える。
僕のギフトは一度に複数の本を使えない。
他の本を使う場合は切り替えがいる。
僕は左手をかざす。
呼び出すのは、悲鳴が聞こえる前に思い浮かべた一冊。
タイトルは――
「【幽世白書】」
この物語の主人公は、普通の人間には見えないものが見える。
触れることはもちろん、匂いや痕跡も残らない。
実態のない存在……。
幽霊。
霊的存在を見る力『霊視』を持つ。
さらに主人公は幽霊を見るだけでなく、触れることもできた。
その力を活かし事件を解決していく物語。
幽霊や霊体は視認できない。
実態がないものを五感で捉えることはできない。
それでも、嫌な視線というのはわかるものだ。
現に彼女たちは感じている。
もしも犯人が霊体になっているのなら、今の僕にはハッキリと――
「見えた!」
二人のすぐ隣に、僕を見て驚愕している男子がいる。
若干透けているし、足も宙に浮かんでいる。
どうやら予想は当たっていたらしい。
彼も僕と目が合って、咄嗟に逃げようとした。
「逃がさないよ!」
今の僕は霊体が見れるだけじゃない。
直接触れることができるんだ!
壁をすり抜け逃げようとする男の腕を掴み、勢いよく引っ張り出す。
そのまま腕を背に回し、頭を抑えてグワンと揺さぶる。
「や、やめろ!」
「こっちのセリフだよ」
多少手荒くなってしまうけど仕方がない。
これくらいはやっていいだろう。
女の子を泣かせたんだ。
フレンダさんだけじゃなくてニナの身体まで見るなんて、許されない。
気絶するまで振り回す。
霊体が本体に戻るまでずっと続けるつもりだった。
途端、霊体に重さを感じる。
霊体に重さはない。
咄嗟のことで驚きながら、僕は彼を地面にたたきつけた。
その直後にニナが叫ぶ。
「あ! こいつが犯人なの!」
「え?」
ニナに見えている?
視線からしてフレンダさんも見えているみたいだ。
とはいえこれで、見えない視線の正体は露見した。
部屋に飾られた置時計の針が進む。
静かな時間の中では、小さな音が鮮明に聞こえる。
帰宅して一時間が経過しようという頃、今のところ視線は感じない。
ニナのおかげもあってフレンダさんも落ち着いていた。
精神的な疲労も溜まっている。
今日くらいはゆっくり眠らせてあげたい。
だからこのまま泊っていくことになった。
寝る前に二人はシャワーを浴びに行く。
フレンダさんを安心させるため、ニナも付き添っている。
僕はもちろん部屋で待機していた。
「うーん……」
どうしたものかな。
ニナはともかく、僕も一泊していいのだろうか?
見た目は黒猫でも男だし、あんまりよくないんじゃないかな。
「って違う。今はそうじゃない」
論点がズレていた。
僕は一人ツッコミを入れて頭を切り替える。
部屋の向こうで聞こえるシャワーの音に惑わされそうになりながら、精神を集中させる。
今考えるべきは、どうやって犯人を見つけるかだ。
視覚では見つけられず、動物の感覚を使ってもまったくわからない。
痕跡がない以上、『不可視』のギフトは違うだろう。
ならやっぱり『千里眼』か?
外部の人間で、かなり遠くから目標を視認できる誰か?
だとしたらどうして学園では何もしないんだ?
「何もしない……」
一番気になっているのはそこだ。
家まで覗き込んで、姿も痕跡すら残さない。
それだけ完璧に潜み近づいていて、どうして何もしないんだ?
家の中も覗く相手が、見るだけで満足しているとは思えないんだけど……。
正体がバレることを恐れている?
触れることで効果が消えるギフトなのか。
それとも……。
「こういう時、先生の眼なら見つけられるのかな」
見えないものを見る先生の瞳。
僕たちには見えないことも、先生には見えている。
僕のギフトの力を見抜いていたように。
そういえば、本の中にもいくつかあったっけ。
見えないものを見る特別な眼が。
たとえば――
「――! もしかして」
僕は一冊の本を連想させる。
少し古い架空の物語を。
一筋の光、可能性が浮かび上がる。
ちょうどその時だった。
「いやあああああああああああああ!」
二人のほうから悲鳴が聞こえた。
今のはフレンダさんだ。
思わず声を出しそうになった僕はぐっとこらえ、二人の元へ駆ける。
「いい加減にしてよ!」
今度はニナの声だった。
ひどく怒っているのは明白。
到着した僕の視界には、あられもない姿の二人が映る。
シャワー室の扉が半分開いていて、恐怖でしゃがみ込むフレンダさんをニナが支えている。
床に落ちたシャワーからお湯が流れ、扉から湯煙が漏れ出す。
僕は慌てて視線を逸らす。
女の子二人の裸なんて刺激が強すぎる。
とか、いっていられる状況ではなかった。
「女の子を泣かせるなんて最低だよ! こそこそしてないで出てきなさい!」
大声で怒鳴るようにニナが挑発する。
しかし当然のように返事はなく、視線もなくならない。
濃い湯煙は輪郭を捉えるはずが、なにもないように漂う。
猫の五感を研ぎ澄ませても、二人の気配以外には感知できない。
やっぱり掴めない。
だけどいる!
だったら試してみよう。
「二人ともごめん!」
僕は変身を解除し元の姿に戻る。
「ブラン!?」
「すぐ見つける! だから待ってて!」
「うん!」
ニナの信頼を感じる。
裸を見たことはあとで謝ろう。
今はやるべきことがある。
変身を解除したことで、僕の存在に相手は気づいたはずだ。
モタモタしていると逃げられる。
ここからはスピード勝負だ。
本を切り替える。
僕のギフトは一度に複数の本を使えない。
他の本を使う場合は切り替えがいる。
僕は左手をかざす。
呼び出すのは、悲鳴が聞こえる前に思い浮かべた一冊。
タイトルは――
「【幽世白書】」
この物語の主人公は、普通の人間には見えないものが見える。
触れることはもちろん、匂いや痕跡も残らない。
実態のない存在……。
幽霊。
霊的存在を見る力『霊視』を持つ。
さらに主人公は幽霊を見るだけでなく、触れることもできた。
その力を活かし事件を解決していく物語。
幽霊や霊体は視認できない。
実態がないものを五感で捉えることはできない。
それでも、嫌な視線というのはわかるものだ。
現に彼女たちは感じている。
もしも犯人が霊体になっているのなら、今の僕にはハッキリと――
「見えた!」
二人のすぐ隣に、僕を見て驚愕している男子がいる。
若干透けているし、足も宙に浮かんでいる。
どうやら予想は当たっていたらしい。
彼も僕と目が合って、咄嗟に逃げようとした。
「逃がさないよ!」
今の僕は霊体が見れるだけじゃない。
直接触れることができるんだ!
壁をすり抜け逃げようとする男の腕を掴み、勢いよく引っ張り出す。
そのまま腕を背に回し、頭を抑えてグワンと揺さぶる。
「や、やめろ!」
「こっちのセリフだよ」
多少手荒くなってしまうけど仕方がない。
これくらいはやっていいだろう。
女の子を泣かせたんだ。
フレンダさんだけじゃなくてニナの身体まで見るなんて、許されない。
気絶するまで振り回す。
霊体が本体に戻るまでずっと続けるつもりだった。
途端、霊体に重さを感じる。
霊体に重さはない。
咄嗟のことで驚きながら、僕は彼を地面にたたきつけた。
その直後にニナが叫ぶ。
「あ! こいつが犯人なの!」
「え?」
ニナに見えている?
視線からしてフレンダさんも見えているみたいだ。
とはいえこれで、見えない視線の正体は露見した。
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