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22.変わっていく
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風は空気の移動。
音は空気の振動。
風を操ることができれば、音の通り道を塞ぐこともできる。
たとえば、誰にも聞かれたくない話をするときに便利だ。
「ごあっ!」
夜空の下。
一人が血を吹き出して倒れ込む。
すでにもう一人、腹部から大量出血して意識を失っている男もいた。
残された最後の一人は怯えながら後ずさる。
「ま、待ってください! どうしてこんなことを!」
「わからないのか? お前たちが俺を裏切ったんだろう?」
「ち、違います。そんなことして――」
「言い訳は聞いていない。俺が聞きたいのは……」
彼は怯える男の肩に触れる。
ニヤリと不気味な笑みを浮かべた直後、触れられた男の全身がずたずたに切り裂かれた。
「ぐあああああああああああああああああああ」
「そう。その悲鳴が聞きたかった」
痛い痛いと涙を流す男の前で、彼は高笑いをしている。
彼は楽しんでいた。
傷つけられ涙を流す姿に興奮していた。
相手がよく知る人物だったこともあるのだろう。
「お、お許しください……ラスト様」
「安心しろ、とっく許している」
「そ、それじゃ」
「ここから先は、俺が楽しみたいだけだ」
ラストはかつての取り巻たちをボロ雑巾のように扱った。
数分もすれば道端に三人は転がっている。
なんども悲鳴をあげた。
しかし彼が風のギフトで大気の幕を張り、音が外に漏れないようにしていた。
故に。
「ふ、ふふ、ふははははははははははははは」
この笑い声も聞こえていない。
誰にも、何にも。
◇◇◇
「これより進級試験を開始する」
男性教師の一声を合図に、学園の一年生たちは教室の移動を始める。
今日はついに、僕たち一年生が二年生に進級するための試験が行われる。
「はぁ……ついに来ちまった」
「そうね……」
始まる前からテンションが低いジーク君とフィオさん。
先に筆記試験が行われる。
二人ともあまり自信がないみたいだ。
「大丈夫だよ。あんなに勉強したんだから」
「そうそう! 二人とも自信出して!」
「お、おう! そうだな!」
「やれることはやったよね!」
僕とニナで元気づけると、あっさり二人ともやる気になってくれた。
すぐに気持ちの切り替えができるのも二人のいいところだと思う。
「フレンダさんは落ち着いてるね」
「え、そうでもないですよ。緊張はしています」
「フレンダさんは大丈夫でしょ! 頭いいし、私もいっぱい教えてもらって助かっちゃったよ!」
「そういってもらえると嬉しいです」
彼女と出会って一月半が経過した。
初めの頃はもっとオドオドしていたけど、少しずつ慣れていて自然体に近づいている気がする。
ふと心の中で思う。
あれからもう一月以上経ったんだ……と。
「ブランはちょっと緊張してる?」
「うん。僕は筆記の後が少し心配だよ」
「なぁに言ってんだ。お前はぜってぇー大丈夫に決まってるだろ」
「そうだよ! ブランはすごいんだってみんな知ってるから」
ニナが満面の笑みで僕の褒めてくれる。
ジーク君も本心からそう思ってくれているのがわかる。
フレンダさんにフィオさんも、みんなが僕を認めてくれている。
「ありがとう」
おかげで不安はなくなりそうだ。
試験は二段階に分けられる。
一つは筆記試験。
人数が多いから、一年生は五つの教室に分かれてテストを受ける。
内容はこの国の歴史からギフトに関する基礎知識まで。
貴族なら知っていて当然の一般教養も含まれている。
問題数はちょうどニ百問。
制限時間一時間二十分で問題に取り組み、七割以上正解していると合格になる。
「それでははじめ!」
合図で一斉に生徒たちはペンを走らせる。
時間的にはギリギリ。
解けて当然の問題だからシビアに設定してある。
一問もつまらず解き続けてなんとか全問解き終われる計算だ。
僕の席からはみんなの後ろ姿が見える。
頭を悩ませたり、真剣に問題に取り組む姿勢が伝わる。
みんなは大丈夫。
僕も自分も真剣に取り組まなきゃ。
暗記は得意だ。
ギフトのおかげで、本に記載された知識は永遠に忘れない。
僕にとって筆記試験は苦ではなかった。
ただ知っている問いに答え続ける作業でしかない。
不思議な感覚だ。
少し前の僕なら、きっと無機質に問題と向き合っていただけだろう。
それが今は、自分以外の誰かを心配したり、信じたり。
一緒に進級したいと思うようになっている。
「ふっ」
思わず笑ってしまう。
一人でいくことが当たり前で、この先もニナ以外に関われる人間なんていないと思っていた。
そのことを仕方ないと諦めていた僕はどこへ行ったのだろう。
まるで本の中の登場人物のように、小さくとも大切なきっかけで僕は変わった。
変わった僕を、僕自身が誇らしく思えることがとても嬉しい。
「そこまで」
あっという間に時間が過ぎて、筆記試験が終わった。
終わってすぐに、僕の元へ四人が集まってくる。
「あー終わった終わった」
「なんとか解き終わったぁ~」
「え、まじで? 全部か? すげぇなニナ。オレなんて最後の十問くらい間に合わなかったぞ」
「あたしも最後のほう適当に埋めたよ~ フレンダは?」
「私も最後までは埋めました」
みんな各々の感想を口にしていく。
全員の表情を見る限り、手ごたえは悪くなさそうだ。
「ブランは完璧でしょ?」
「だろうな。簡単すぎて笑ってたろお前」
「え、いや、あれはそういうんじゃないんだ」
「じゃあなんだったんだ?」
それは……ちょっと恥ずかしくて言えないな。
ただ嬉しかっただけだから。
みんなが僕を認めてくれること、僕が僕を認められるようになったこと。
こうして僕の元に集まるみんなを見て、僕はまた笑う。
音は空気の振動。
風を操ることができれば、音の通り道を塞ぐこともできる。
たとえば、誰にも聞かれたくない話をするときに便利だ。
「ごあっ!」
夜空の下。
一人が血を吹き出して倒れ込む。
すでにもう一人、腹部から大量出血して意識を失っている男もいた。
残された最後の一人は怯えながら後ずさる。
「ま、待ってください! どうしてこんなことを!」
「わからないのか? お前たちが俺を裏切ったんだろう?」
「ち、違います。そんなことして――」
「言い訳は聞いていない。俺が聞きたいのは……」
彼は怯える男の肩に触れる。
ニヤリと不気味な笑みを浮かべた直後、触れられた男の全身がずたずたに切り裂かれた。
「ぐあああああああああああああああああああ」
「そう。その悲鳴が聞きたかった」
痛い痛いと涙を流す男の前で、彼は高笑いをしている。
彼は楽しんでいた。
傷つけられ涙を流す姿に興奮していた。
相手がよく知る人物だったこともあるのだろう。
「お、お許しください……ラスト様」
「安心しろ、とっく許している」
「そ、それじゃ」
「ここから先は、俺が楽しみたいだけだ」
ラストはかつての取り巻たちをボロ雑巾のように扱った。
数分もすれば道端に三人は転がっている。
なんども悲鳴をあげた。
しかし彼が風のギフトで大気の幕を張り、音が外に漏れないようにしていた。
故に。
「ふ、ふふ、ふははははははははははははは」
この笑い声も聞こえていない。
誰にも、何にも。
◇◇◇
「これより進級試験を開始する」
男性教師の一声を合図に、学園の一年生たちは教室の移動を始める。
今日はついに、僕たち一年生が二年生に進級するための試験が行われる。
「はぁ……ついに来ちまった」
「そうね……」
始まる前からテンションが低いジーク君とフィオさん。
先に筆記試験が行われる。
二人ともあまり自信がないみたいだ。
「大丈夫だよ。あんなに勉強したんだから」
「そうそう! 二人とも自信出して!」
「お、おう! そうだな!」
「やれることはやったよね!」
僕とニナで元気づけると、あっさり二人ともやる気になってくれた。
すぐに気持ちの切り替えができるのも二人のいいところだと思う。
「フレンダさんは落ち着いてるね」
「え、そうでもないですよ。緊張はしています」
「フレンダさんは大丈夫でしょ! 頭いいし、私もいっぱい教えてもらって助かっちゃったよ!」
「そういってもらえると嬉しいです」
彼女と出会って一月半が経過した。
初めの頃はもっとオドオドしていたけど、少しずつ慣れていて自然体に近づいている気がする。
ふと心の中で思う。
あれからもう一月以上経ったんだ……と。
「ブランはちょっと緊張してる?」
「うん。僕は筆記の後が少し心配だよ」
「なぁに言ってんだ。お前はぜってぇー大丈夫に決まってるだろ」
「そうだよ! ブランはすごいんだってみんな知ってるから」
ニナが満面の笑みで僕の褒めてくれる。
ジーク君も本心からそう思ってくれているのがわかる。
フレンダさんにフィオさんも、みんなが僕を認めてくれている。
「ありがとう」
おかげで不安はなくなりそうだ。
試験は二段階に分けられる。
一つは筆記試験。
人数が多いから、一年生は五つの教室に分かれてテストを受ける。
内容はこの国の歴史からギフトに関する基礎知識まで。
貴族なら知っていて当然の一般教養も含まれている。
問題数はちょうどニ百問。
制限時間一時間二十分で問題に取り組み、七割以上正解していると合格になる。
「それでははじめ!」
合図で一斉に生徒たちはペンを走らせる。
時間的にはギリギリ。
解けて当然の問題だからシビアに設定してある。
一問もつまらず解き続けてなんとか全問解き終われる計算だ。
僕の席からはみんなの後ろ姿が見える。
頭を悩ませたり、真剣に問題に取り組む姿勢が伝わる。
みんなは大丈夫。
僕も自分も真剣に取り組まなきゃ。
暗記は得意だ。
ギフトのおかげで、本に記載された知識は永遠に忘れない。
僕にとって筆記試験は苦ではなかった。
ただ知っている問いに答え続ける作業でしかない。
不思議な感覚だ。
少し前の僕なら、きっと無機質に問題と向き合っていただけだろう。
それが今は、自分以外の誰かを心配したり、信じたり。
一緒に進級したいと思うようになっている。
「ふっ」
思わず笑ってしまう。
一人でいくことが当たり前で、この先もニナ以外に関われる人間なんていないと思っていた。
そのことを仕方ないと諦めていた僕はどこへ行ったのだろう。
まるで本の中の登場人物のように、小さくとも大切なきっかけで僕は変わった。
変わった僕を、僕自身が誇らしく思えることがとても嬉しい。
「そこまで」
あっという間に時間が過ぎて、筆記試験が終わった。
終わってすぐに、僕の元へ四人が集まってくる。
「あー終わった終わった」
「なんとか解き終わったぁ~」
「え、まじで? 全部か? すげぇなニナ。オレなんて最後の十問くらい間に合わなかったぞ」
「あたしも最後のほう適当に埋めたよ~ フレンダは?」
「私も最後までは埋めました」
みんな各々の感想を口にしていく。
全員の表情を見る限り、手ごたえは悪くなさそうだ。
「ブランは完璧でしょ?」
「だろうな。簡単すぎて笑ってたろお前」
「え、いや、あれはそういうんじゃないんだ」
「じゃあなんだったんだ?」
それは……ちょっと恥ずかしくて言えないな。
ただ嬉しかっただけだから。
みんなが僕を認めてくれること、僕が僕を認められるようになったこと。
こうして僕の元に集まるみんなを見て、僕はまた笑う。
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