優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~

日之影ソラ

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千羽鶴と勇者様

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 五分経って、看護師さんが戻ってきた。
 窓を閉める。
 病室は暖房が効いていて、すぐに温かくなった。

「私、大人になったら看護師になりたいです」
「え? 急にどうしたの?」

 唐突に話し出した私に、看護師さんは驚いていた。
 私も、こんな話をしたのは初めてだ。

「たくさんお世話になったから、恩返しがしたいんです」
「……ありがとう。でも、この仕事大変よ? 体力もいるし、休みだって簡単にとれないんだから」
「そう……ですね……私じゃ……」
 
 病弱な私じゃ、過酷な労働環境には耐えられないだろう。
 落ち込む私に、看護師さんは優しく言う。

「別になんでもいいのよ。恩返しがしたいなら、看護師じゃなくても」
「……そう、ですか」
「そうよ。だって世界中にはいろんな人がいて、それぞれの役割があるの。看護師じゃなくても、人の役に立てる仕事はいっぱいあるわ」

 看護師さんは私の心を汲み取ってくれた。
 そうだ。
 私は別に、看護師になりたいというわけじゃない。
 ずっと病弱で、誰かに支えられて生きてきた。
 それを誰よりも実感している。
 だからこそ……。

「誰かの役に立ちたい……そうでしょ?」
「――はい」

 今度は私が、困っている誰かを助けられる人間になりたい。
 見ず知らずの誰かに支えられ、助けられる心強さを知っている私だからこそ、いつか誰かに勇気を与えたい。
 怖くて、苦しくて、辛い誰かの背中を押してあげたい。
 ただ、それだけが願いだった。

「それなら、早く元気にならないといけないわね」
「はい! そうですね。今の私じゃ、何もできないから……」
「そんなことないわ。ほら、また私の愚痴を聞いてくれる?」
「そんなことでいいなら」
「ありがとう。聞いてよ。また病棟医のおじさんがテキトーな指示してきたのよ。ちゃんと患者さんを見なさいっての」

 病室のベッドから起きられない今の私じゃ、誰かの役に立つことはできない。
 それをもどかしく思う。
 早く元気になりたい。
 毎年この時期になると、特にそう思う。
 次の春までには元気になって、学校に行って……鶴を折ってくれた同級生たちに、精一杯お礼を言いたいと思った。
 まずはそこから始めよう。
 支えてくれた人たちへの恩返しから。

 そう思っていた。
 けれど、次の春を迎えることは……なかった。

 十七歳。
 高校二年の冬。
 私は……短い生涯を終えた。

  ◆◆◆
 
 奇跡が起こった。
 そうとしか思えない出来事だった。

(ここは……どこ?)

 気がつくと私は、見知らぬ世界で赤ん坊として生まれ変わっていた。
 両親が喜んでいる姿が見える。
 赤ん坊だから泣くことしかできないけど、身体は温かく、元気に動いてくれた。

(願いが叶ったの? 本当に?)

 死の直前、私は願った。
 もしも来世があるのなら、今度は誰かを助けられるような人間になりたい。
 苦しむ人々のために人生を捧げたい。
 どうか、お願いします。

 ――神様。

 私に、恩返しのチャンスをください。

 強く願った。
 無理だとわかっていても、死にゆく私にできたことは、ただ願うことだけだった。
 無駄じゃなかったらしい。
 私は生まれ変わった。
 新しい世界で、新しい生を受けた。
 これは運命だ。
 だから頑張ろう。
 願いを叶えるために、誰かの役に立てるように。
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