優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~

日之影ソラ

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千羽鶴と勇者様

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 幸運なことは他にもあった。
 生まれ変わった異世界には、魔法という特別な力があった。
 そして私が生まれたアリステラ家は代々、優秀な魔法使いを多く輩出している名門貴族。
 魔法使いとしての才能は、生まれながらにほぼ決まる。
 名門貴族に生まれたこと。
 魔法を学ぶ上で、これ以上ないほど適した環境だった。

 ただ、魔法が使えるというだけでは才能があると言えない。
 私には魔法を使う才能はあった。
 しかし、普通の魔法使いのようにはできなかった。
 
「どうしてこんな簡単な魔法も使えないんだ?」
「……申し訳ありません。お父様」
「はぁ……」

 魔法を教えてくれたのはお父様だった。
 お父様は宮廷で働く現役の魔法使いで、国王陛下からも信頼されていた。
 王国の魔法使いの中でも上位の実力を持つ父から教わっている。
 それだけでも恵まれている。
 アリステラ家の娘として、周囲から期待もされていた。
 でも……。

「唯一まともに使えるのは、補助系の付与魔法だけか」
「……はい」

 お父様は落胆していた。
 私は魔法を使うことができるだけで、お父様や周囲が求めるような才能はなかったらしい。
 普通の魔法使いが当たり前にできる初級魔法も満足に使えない。
 唯一使えるのは、付与魔法と呼ばれる分野。
 物体に効果を付与したり、魔法の効果を底上げすることができる。
 とても優れた魔法分野だけど、単体ではあまり使用されない。
 基本的には何かの補助だ。
 炎や水を生成する魔法のように、何かを生み出すことはできない。
 
「ユリアを見習いなさい。お前より一年早く生まれただけで、もう四大元素の魔法をマスターしているんだぞ」

 魔法を学ぶ傍らで、私とは違い才能を発揮する人がいた。
 私には一つ上の姉、ユリア・アリステラ。
 彼女は持って生まれた。
 お父様や周囲が求めていた魔法使いとしての才能を。
 それ故に、彼女は期待されていた。
 常に姉と比べられた私は、次第に期待すらされなくなり、お父様もお姉様にしか魔法の指導をしなくなった。

「不憫ね。付与魔法しか使えないなんて」
「お姉様は凄いですね。なんでもできて」
「そうよ。私はすごいの。ミモザとは違うわ」

 私もそう思う。
 才能は間違いなく、お姉様のほうが上だろう。
 私に許されたのは唯一……付与魔法だけだ。
 そんな私をお姉様は馬鹿にする。
 けれど、私は悲観的にはなっていなかった。

「私は普通の魔法は使えないです。でも、この魔法でお姉様を支えます」
「ミモザが、私を?」
「はい! それならできると思いますから」

 誰かを支えたい。
 そう思って生まれ変わった私には、この力はピッタリだと思った。
 元々、前世から器用じゃない。
 何もかもやろうとしても、きっとうまくいかない。
 一つのことを極めるほうが私には向いている。

「ふんっ、馬鹿にしないでちょうだい。ミモザの助けなんていらないわ」
「今はそうかもしれません。でも、必ず支えてみせます」

 私は誰かを支えるために生まれ変わった。
 それをするだけの力は、神様に貰っている。
 これ以上ない幸福だ。
 今世は恵まれている。
 だから、精一杯頑張ろう。
 そう思って努力を続けた。
 お父様が私の指導を放棄してからも、独学で魔法について学んだ。
 その過程でいろいろ試して、私なりに付与魔法の解釈を広げた。

 そして――
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