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千羽鶴と勇者様
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「ミモザ、君との婚約を破棄させてもらう」
「――」
それは突然のことだった。
婚約者であるアスベル様から、婚約の破棄を言い渡されたのは……。
「すでに両当主の間で合意はとれている。君との関係はここまでだよ」
「そうですか……」
私はアスベル様に頭を下げる。
「ご期待に沿えず、申し訳ありませんでした。短い期間でしたが、私の婚約者になってくださりありがとうございます」
「……本気で言っているのか?」
「え?」
顔を上げる。
すると、アスベル様は酷い顔で私を見ていた。
まるで理解しがたいものに直面しているような……。
「アスベル様?」
「わかってるのかい? 婚約を破棄したんだよ?」
「はい。そうお聞きしました」
「……理解できないな。どうしてそんな風に、平然としていられる? 何も感じないのか?」
アスベル様の問いかけに、私は心の中で思う。
何も感じない、わけじゃない。
少し悲しくはあった。
婚約は疎か、前世では恋人だっていなかった。
そういう関係に憧れたりもある。
親同士が決めた婚約でも、自分にそういう相手ができたことは素直に嬉しかった。
ただ……いずれこうなることはわかっていた。
「私はアスベル様に相応しくありません。きっと、お姉様のような人のほうが相応しい」
「――! わかっているじゃないか」
アスベル様は笑みを浮かべる。
わかっているとも。
私と婚約してからずっと、彼は私ではなくお姉様に色目を使っていた。
最初から私との婚約も、お姉様に近づく口実だったのだろう。
お姉様は才能のある魔法使いで、容姿も美しく、貴族としての振る舞いも完璧だ。
そんな彼女に言い寄る男性は多い。
少しでもお姉様に近づくために、あらゆる手段を使う。
そのうちの一つとして、私が選ばれただけだ。
「君のことが嫌いなわけじゃない。ただ、より近くにいることで、彼女のすばらしさに気づいてしまったんだよ」
「そうですね。お姉様は素敵な女性だと思います」
「……本当に気味が悪いな」
「え?」
「どうして笑顔を見せる?」
アスベル様は気味悪がった。
婚約破棄をされながら、それでも笑顔を見せ続ける私に。
笑顔の理由?
そんなの簡単だ。
少しでも相手に不快な気分をさせないように。
辛いことがあっても落ち込むのではなく、常に前を向いていられるように。
「そういうところも苦手だった。君の前でユリアと話している姿を見せても、君は何も感じていないような……むしろ喜んでいるようにさえ見えた」
「それは……」
別に喜んでいたわけじゃない。
でも、幸せならそれでいいと思ったんだ。
人は誰しも、自分の幸せを追い求める。
アスベル様には彼の幸せがあって、お姉様といることが幸せなら、私はそれを祝福するだけだ。
「君はまるで、人のふりをする人形みたいだね」
「人形……」
「一体誰のために生きているんだか。一緒にいるとこっちまでおかしくなりそうだよ」
「……」
人形……か。
そんな風に言われたのは初めてだ。
けれど、誰のために生きているかなんて決まっている。
私が生まれ変わったのは、見知らぬ誰かを助け、支えるためだ。
そのために生きている。
この元気な身体は、そうあるべきだと言っている。
落ち込んだりしない。
後ろ向きになんてならない。
私は前を向き続ける。
これが正しいと、信じているから。
「――」
それは突然のことだった。
婚約者であるアスベル様から、婚約の破棄を言い渡されたのは……。
「すでに両当主の間で合意はとれている。君との関係はここまでだよ」
「そうですか……」
私はアスベル様に頭を下げる。
「ご期待に沿えず、申し訳ありませんでした。短い期間でしたが、私の婚約者になってくださりありがとうございます」
「……本気で言っているのか?」
「え?」
顔を上げる。
すると、アスベル様は酷い顔で私を見ていた。
まるで理解しがたいものに直面しているような……。
「アスベル様?」
「わかってるのかい? 婚約を破棄したんだよ?」
「はい。そうお聞きしました」
「……理解できないな。どうしてそんな風に、平然としていられる? 何も感じないのか?」
アスベル様の問いかけに、私は心の中で思う。
何も感じない、わけじゃない。
少し悲しくはあった。
婚約は疎か、前世では恋人だっていなかった。
そういう関係に憧れたりもある。
親同士が決めた婚約でも、自分にそういう相手ができたことは素直に嬉しかった。
ただ……いずれこうなることはわかっていた。
「私はアスベル様に相応しくありません。きっと、お姉様のような人のほうが相応しい」
「――! わかっているじゃないか」
アスベル様は笑みを浮かべる。
わかっているとも。
私と婚約してからずっと、彼は私ではなくお姉様に色目を使っていた。
最初から私との婚約も、お姉様に近づく口実だったのだろう。
お姉様は才能のある魔法使いで、容姿も美しく、貴族としての振る舞いも完璧だ。
そんな彼女に言い寄る男性は多い。
少しでもお姉様に近づくために、あらゆる手段を使う。
そのうちの一つとして、私が選ばれただけだ。
「君のことが嫌いなわけじゃない。ただ、より近くにいることで、彼女のすばらしさに気づいてしまったんだよ」
「そうですね。お姉様は素敵な女性だと思います」
「……本当に気味が悪いな」
「え?」
「どうして笑顔を見せる?」
アスベル様は気味悪がった。
婚約破棄をされながら、それでも笑顔を見せ続ける私に。
笑顔の理由?
そんなの簡単だ。
少しでも相手に不快な気分をさせないように。
辛いことがあっても落ち込むのではなく、常に前を向いていられるように。
「そういうところも苦手だった。君の前でユリアと話している姿を見せても、君は何も感じていないような……むしろ喜んでいるようにさえ見えた」
「それは……」
別に喜んでいたわけじゃない。
でも、幸せならそれでいいと思ったんだ。
人は誰しも、自分の幸せを追い求める。
アスベル様には彼の幸せがあって、お姉様といることが幸せなら、私はそれを祝福するだけだ。
「君はまるで、人のふりをする人形みたいだね」
「人形……」
「一体誰のために生きているんだか。一緒にいるとこっちまでおかしくなりそうだよ」
「……」
人形……か。
そんな風に言われたのは初めてだ。
けれど、誰のために生きているかなんて決まっている。
私が生まれ変わったのは、見知らぬ誰かを助け、支えるためだ。
そのために生きている。
この元気な身体は、そうあるべきだと言っている。
落ち込んだりしない。
後ろ向きになんてならない。
私は前を向き続ける。
これが正しいと、信じているから。
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