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王城敷地内にある聖女の育成所。
別名、サンマレコ大聖堂には、見習いの聖女が日々勉学に励んでいる。
聖女としての力を得た者だけが集められ、一年間ここで学んだあと、世界各地へ派遣される。
婚約破棄の翌日から、大聖堂はある噂でもちきりだった。
「聞きましたか? 後天的に聖女の力を得た人が誕生したって」
「ええ聞きましたわ。しかも、あの『落ちこぼれ』さんの妹らしいですよ」
「そうみたいですね。これで納得がいきましたわ。彼女に才能がないのは、妹さんに全て奪われていたからでしょう」
「ふふっ、婚約者も取られてしまったそうですよ? 可哀想に」
元々、大聖堂での肩身は狭かった。
私の個性が他の人たちと違って、役に立たない力だから。
入った時から馬鹿にされ、友人も出来なかった。
それでも何とか勉学に励んでいたのは、一年我慢すれば解放されると思っていたから。
でも、さすがに辛くなって……
私は初めて、勉強から逃げ出してしまった。
「……何やってるのかな、私」
適当に走り逃げた先は、同じ敷地内にある森だった。
王城は自然を取り入れた設計になっていて、こういう場所がある。
私は木にもたれ掛かって座り込んだ。
自分以外誰もいない。
風の吹き抜ける音と、木々が揺れる音だけがする。
静かで、孤独だ。
一人は嫌いじゃない。
それでも今は、一人でいることが辛くて、寂しかった。
この先もずっと、私は誰とも交わらず、生きていかなければならない気がして。
「グルルルルル」
「え?」
その時、木々の間から私を見つめる赤い瞳に気付いた。
唸り声も聞こえる。
明らかに人間ではない。
「狼……魔物!?」
赤い瞳の正体は狼の姿をした魔物だった。
ブラックウルフだ。
どうして王城の中に魔物がいるのか。
理解より先に恐怖が襲う。
他の聖女たちならいざ知らず、私には戦う力がない。
私に出来ることは、生き物の声を聞くこと。
ただし魔物の声を聞いたところで何の意味もない。
「だ、誰か――」
(ご主人! 知らない人がいるよ!)
「え?」
ご主人?
声が頭に響いた。
この聞こえ方は間違いなく、生き物の声だ。
つまり魔物が誰かに話しかけている。
私じゃない誰かに。
「おーいクロ! いきなり走らないでくれ……あれ? 先客がいたの?」
「……え?」
「ごめんなさい。他に人がいたなんて知らなくて。驚かせちゃったよね?」
確かに驚いた。
魔物が現れたことに。
ただし今は、その魔物が尻尾を振り、一人の優しそうな青年に頭を撫でられていることが、信じられなくて仕方がない。
「あ、貴方は?」
「えっと、僕はリュウ。一応そこの騎士学校に通ってる騎士見習いなんだけど」
「騎士見習い? え、でも……」
騎士なら腰に剣を携えているものだと、私は勝手に思っていた。
彼は見るからに丸腰だ。
それに魔物は騎士にとって一番の敵と言える。
見習いとは言え、騎士と魔物が一緒にいて、仲良しな風に見えるのはどうにもおかしい。
「あー見えないよね? 騎士なんだけど僕、剣とか武術の才能は全然なくて……」
「い、いえそうじゃなくて」
私は魔物に視線を向ける。
ようやく彼は気づいたようで、ハッとした顔で言う。
「あ、そうだね! 僕はテイマーなんだよ」
「テイマー?」
「そう。動物とか魔物を使役できるの。こいつは俺が小さい頃にテイムしたクロ」
ブラックウルフは犬のように尻尾を振る。
彼の話を聞いて納得した。
クロからは魔物特有の嫌な気配が感じられない。
だから接近に気付けなかったのだけど、彼にテイムされたから通常の魔物から逸脱したんだ。
「ああ……だからさっきご主人って」
「え? ご主人?」
「あ、いえ、その子が私を見つけた時にそう呼んでいたので」
「その子って……まさか君、クロの言葉がわかるの?」
私はこくりと頷く。
騎士学校に通っているなら、私の噂くらいは聞いたことがあるだろう。
私が誰なのか気づけば、彼も態度を変えるはずだ。
そうなる前に立ち去ろうと立ちあがる。
「それじゃ私は――」
「あ、そうか! 君もしかして、生き物の言葉がわかる聖女さん?」
遅かった、と心の中で思った。
別名、サンマレコ大聖堂には、見習いの聖女が日々勉学に励んでいる。
聖女としての力を得た者だけが集められ、一年間ここで学んだあと、世界各地へ派遣される。
婚約破棄の翌日から、大聖堂はある噂でもちきりだった。
「聞きましたか? 後天的に聖女の力を得た人が誕生したって」
「ええ聞きましたわ。しかも、あの『落ちこぼれ』さんの妹らしいですよ」
「そうみたいですね。これで納得がいきましたわ。彼女に才能がないのは、妹さんに全て奪われていたからでしょう」
「ふふっ、婚約者も取られてしまったそうですよ? 可哀想に」
元々、大聖堂での肩身は狭かった。
私の個性が他の人たちと違って、役に立たない力だから。
入った時から馬鹿にされ、友人も出来なかった。
それでも何とか勉学に励んでいたのは、一年我慢すれば解放されると思っていたから。
でも、さすがに辛くなって……
私は初めて、勉強から逃げ出してしまった。
「……何やってるのかな、私」
適当に走り逃げた先は、同じ敷地内にある森だった。
王城は自然を取り入れた設計になっていて、こういう場所がある。
私は木にもたれ掛かって座り込んだ。
自分以外誰もいない。
風の吹き抜ける音と、木々が揺れる音だけがする。
静かで、孤独だ。
一人は嫌いじゃない。
それでも今は、一人でいることが辛くて、寂しかった。
この先もずっと、私は誰とも交わらず、生きていかなければならない気がして。
「グルルルルル」
「え?」
その時、木々の間から私を見つめる赤い瞳に気付いた。
唸り声も聞こえる。
明らかに人間ではない。
「狼……魔物!?」
赤い瞳の正体は狼の姿をした魔物だった。
ブラックウルフだ。
どうして王城の中に魔物がいるのか。
理解より先に恐怖が襲う。
他の聖女たちならいざ知らず、私には戦う力がない。
私に出来ることは、生き物の声を聞くこと。
ただし魔物の声を聞いたところで何の意味もない。
「だ、誰か――」
(ご主人! 知らない人がいるよ!)
「え?」
ご主人?
声が頭に響いた。
この聞こえ方は間違いなく、生き物の声だ。
つまり魔物が誰かに話しかけている。
私じゃない誰かに。
「おーいクロ! いきなり走らないでくれ……あれ? 先客がいたの?」
「……え?」
「ごめんなさい。他に人がいたなんて知らなくて。驚かせちゃったよね?」
確かに驚いた。
魔物が現れたことに。
ただし今は、その魔物が尻尾を振り、一人の優しそうな青年に頭を撫でられていることが、信じられなくて仕方がない。
「あ、貴方は?」
「えっと、僕はリュウ。一応そこの騎士学校に通ってる騎士見習いなんだけど」
「騎士見習い? え、でも……」
騎士なら腰に剣を携えているものだと、私は勝手に思っていた。
彼は見るからに丸腰だ。
それに魔物は騎士にとって一番の敵と言える。
見習いとは言え、騎士と魔物が一緒にいて、仲良しな風に見えるのはどうにもおかしい。
「あー見えないよね? 騎士なんだけど僕、剣とか武術の才能は全然なくて……」
「い、いえそうじゃなくて」
私は魔物に視線を向ける。
ようやく彼は気づいたようで、ハッとした顔で言う。
「あ、そうだね! 僕はテイマーなんだよ」
「テイマー?」
「そう。動物とか魔物を使役できるの。こいつは俺が小さい頃にテイムしたクロ」
ブラックウルフは犬のように尻尾を振る。
彼の話を聞いて納得した。
クロからは魔物特有の嫌な気配が感じられない。
だから接近に気付けなかったのだけど、彼にテイムされたから通常の魔物から逸脱したんだ。
「ああ……だからさっきご主人って」
「え? ご主人?」
「あ、いえ、その子が私を見つけた時にそう呼んでいたので」
「その子って……まさか君、クロの言葉がわかるの?」
私はこくりと頷く。
騎士学校に通っているなら、私の噂くらいは聞いたことがあるだろう。
私が誰なのか気づけば、彼も態度を変えるはずだ。
そうなる前に立ち去ろうと立ちあがる。
「それじゃ私は――」
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遅かった、と心の中で思った。
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